第401話 もうもらってるよ
その後、興奮状態が続く少年伯爵を何とか宥めて、治療院のベッドに押し込める。
いくら回復してるって言っても、まだまだ病み上がり。無茶はよくないからね。
そして部屋に戻ると、ジデジルと銀髪陛下から恨み節が来た。
「王である俺だって、まだもらっていないのに、何でホーガンが……」
「神子様! あんまりです! こちらの国王はどうでもいいですが、長らく親交のある私を差し置いて、昨日今日出会ったばかりのような少年に祝福を授けるだなどと! ねえ! ユゼ様!」
「あらあら、ほっほっほ」
話を振られたユゼおばあちゃんは、余裕の笑みだ。そりゃそうだよね。既におばあちゃんには祝福をしてるもん。
そして、こういう事には聡いジデジルが勘づいた。
「……ユゼ様? まさか?」
「ジデジル、あなたももっと神の意に沿うよう、働かなくてはいけませんよ。そうすれば、優しいユーリカの事です。きっとあなたにも祝福を授けてくれるでしょう」
「そうなんですか!?」
えー? 初耳ー。でも、今のジデジルは私の言葉なんて、耳に入らないだろうなあ。
「わかりました! 必ずや神子様からの祝福をいただけるよう、これまで以上に邁進いたします!」
「その意気よー」
ジデジル、そろそろ気づこうよ。ユゼおばあちゃんにいいように操られてるって。
まあ、鼻息荒く宣言するジデジルを見ていると、これが彼女の正しい「使い方」なのかもしれないとは思うけど。
そっちはいいとして、もう一人の拗ねた大人はどうしましょうかね?
「……何だ?」
「いーえー」
まさか、銀髪陛下が祝福をもらえない程度でこんなに拗ねるとは。ていうか、この人確か、神様から直接祝福もらってなかった?
『あの場で主教は事業への祝福と述べましたが、正しくは国王個人への祝福でしたね』
ですよねー。あの場では特に訂正しなかったけどー。神様から直接祝福をもらうなんて、そうそうない事なんだから。
なので、神子からのショボい祝福は諦めてください。
でもこれ、今ここで言っちゃっていいのかなあ。
『ジデジルの前は、やめた方が無難かと』
ですよねえええ。じいちゃんやユゼおばあちゃんはいいけど、ジデジルはまずい。盛大に拗ねるのが目に見えている。
彼女、神子の私に執着するそもそもの理由が、行きすぎた信仰心だからね。
という訳で、ぶーたれる銀髪陛下は置いておいて、これで依頼完了なのか領主様に確認しよう。
「領主様、これで依頼は完了って事でいいですか?」
「ん? ああ、そうだね。ご苦労様。報酬は、ゴーバルのバターだけでいいのかい?」
「マシマシでお願いします!」
「ま、ましまし?」
「大盛りとか、特盛りとか、とにかくたくさんで!」
「わ、わかった」
よし、これでバターは確保。何作ろうかなー?
治療院は、しばらくこのままツオト村に残す事になった。少年伯爵も、春までは治療院で療養だって。
養子縁組に関しては、この冬の間に王都で領主様がさくさく進めておくそうだ。
んで、旧ホーガン領は一旦王領になるらしい。旧ザクセード領みたいなもんか。
王領なので、代官を選出する必要があり、領主様は相変わらず忙しくなりそうだ。
なので、じいちゃんが絨毯で送っていった。あ、そういえばあの呪物、解析出来たのかな。
ユゼおばあちゃんは、しばらく治療院に残るって。旧ホーガン領に教会がないから、一から建てなくてはならないらしい。
そっちはジデジルが手配するし、新しい教会に赴任する助祭だとか司祭だとかも聖地に頼んで派遣してもらうそう。
ユゼおばあちゃんは、その人達が到着して治療院をバトンタッチ出来るまでの繋ぎで残るんだってさ。
「ユゼおばあちゃん、大丈夫?」
「ええ。これでも聖地で長年鍛えましたからね」
それは、身体的にというより、精神的にという事だろうか。まあ、ユゼおばあちゃんがここにいる以上、ちょくちょく私も様子を見に来るつもり。
おばあちゃんに疲れが見えたら、問答無用で温泉へゴー、だ。疲労はためちゃいかんよね。
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