第400話 祝福にはいろんな効果があるらしい

 誰が、少年伯爵に私が神子だって教えたんだ? ユゼおばあちゃん? いやあ、おばあちゃんはそういうとこ、しっかりしているから。


 この様子だと、領主様と銀髪陛下の訳ないし、可能性があるとしたら、やっぱりジデジル?


「な、なんですか? そんな目で見るなんて。私、何かしましたか?」


 ……違うらしい。疑ってごめんね、ジデジル。私が悪かったと言って、何とか宥めておく。


 じゃあ、銀髪陛下か剣持ちさん? うーん、一番言いそうなのは領主様なんだけど、隣でくつくつ笑ってるしなあ。


「あの、神子様。どうかなさったんですか?」

「いや、なんで私が神子って……」

「ああ、その御髪の色です!」


 ……あれ? しまったあああああ! 髪と目の色、元に戻したまんまだあああ!


 あれ? じゃあ買い物した都市でも……いや、あの時は上着のフードをしっかりかぶっていたはず。


 あの上着、邪神再封印の旅の途中でじいちゃんに教わりながら作った、自作品なんだよね。


 おかげであれこれ機能マシマシにしてさ。その中に温度調整も入ってるから、寒い場所でも暑い場所でも着たまんまで大丈夫っていう優れもの。


 だから、外に出る時は上着着てフードかぶる癖がついているんだ。で、この上着、認識阻害の機能もある。


 そう考えると、都市ではバレていないと思う。でも、室内ではフードを取ってるから、髪の色がばっちり見えるんだった……


 わかってみれば、何の事はない、私のうっかりが原因でした。ジデジル、マジごめん。




 少年伯爵は、しばらく王都で勉強という名の隔離生活になるらしい。何から隔離するかと言えば、家臣団から。


 どうもね。百年前に例の魔物の死骸を持ち込んだのも、家臣団の一人らしいんだ。で、その家臣団を一度解体する事が先に決定したらしい。


 でも、伯爵という身分と領地を持ちながら、家臣団を持たないというのはあり得ないんだって。実際、領地の事を当主一人で全部見るのは難しいそう。


 で、いっそホーガン伯爵領を潰して、少年伯爵はどこかの貴族家に養子に入った方がいいのでは、という話が出てるらしいよ。


 養子先も、辿れば少年伯爵と縁続きの家があるらしく、しかも跡継ぎに恵まれていないんだって。よく探してくるよね、そういう家。


「養子先の候補の筆頭は、コーデンバル家だ」

「コーデンバル……高祖母の実家です」


 銀髪陛下の言葉に、少年伯爵がぽつりとこぼす。大分遠くね? まあ、貴族ならそうでもないのかな?


「そうだな。だからこそ、候補の筆頭に上がった。また、コーデンバル家では、現在跡継ぎがいない。どのみち、係累から養子を取る以外手はないんだ」

「それで……僕、ですか」

「不満か?」

「いえ」


 少年伯爵は、首を横に振る。


「ただ、コーデンバル家に申し訳なくて……ホーガン家は、文字通り呪われた家です。その生き残りが、跡継ぎになるなんて」

「その呪いは、ありがたくも神子様が全て消してくださった。そう思えば、百年の不運も吹き飛ばせるとは思わないか?」


 ちょっと銀髪陛下、「神子様」のところで笑いながらこっち見ましたね!? そういう事してると、神罰が下るんだから!


『今のは、神罰対象にはならないようです』


 えー? なんでー?


『神子を蔑んだ事にはならないからです。神子ではなく、サーリとしてからかったに過ぎません』


 検索先生の判断って、ときたま首を傾げたくなるものがあるよね。


 少年伯爵の方はといえば、銀髪陛下の言葉に説得されかかってる。うーむ、銀髪陛下の言葉に乗っかるのはしゃくだけど、少年伯爵がこのまま鬱々とした日々を送るのも忍びない。


 ここはいっちょ、元教皇聖下にお出ましいただきたい。


「ユゼおばあちゃん」

「なあに?」


 こそっと耳打ちすると、ユゼおばあちゃんが小声で返してくれた。


「教皇の祝福、少年伯爵にあげてほしいんだけど、ダメ?」

「それは構わないけれど、元教皇の祝福より、神子からのものの方がいいのではないかしら?」


 う……それは、その……検索先生! 祝福って、簡単にやっちゃっていいものなんですか!?


『神子の心のままに』


 丸投げしようと思ったら、丸投げ返された気分。でも、私の心のままなら、いっか。


 祝福するのに、手をかざさなきゃいけないんだっけ。


『特に動作は必要ありません』


 え? でもユゼおばあちゃんの時は――


『あの時は、場の雰囲気に合わせました』


 なんてこった。でも、アクションなしで祝福出来るのなら、楽でいいや。んじゃ、ほいっと。


「な!」

「こ、これは!」


 うん、少年伯爵の体が、少しの間ピカーっと光りました。大丈夫、そんなに驚かなくても、すぐに消えるから。


 光が消えた後、少年伯爵は信じられないような顔で自分の体を見回している。


 祝福したからって、何かがあるって訳じゃないしね。


『呪いに対する抵抗力が上がり、また病気や怪我をしにくくなります』


 そうなの!? 知らなかった……あ、じゃあユゼおばあちゃんも、そうなってるんだ?


『彼女の場合は、魔力が上がって治癒の力が増大しています』


 おおう……ま、まあ、邪魔になるものでもないだろうし、いっか。


 それよりも、少年伯爵がきらきらした目で、銀髪陛下が眇めた目でこちらを見ているんだけど。


「い、今のは神子様が、何かされたのですか!?」

「え? えーと、祝福を――」

「本当ですか!? ああ、何という……」


 おおう! 少年伯爵が泣き出しちゃったよ!


「あの、呪いに対する抵抗力がつくし、病気とか怪我もしづらくなるからね! 呪われてるーなんて言ってくるやつがいたら、神子の祝福もらったーって言っちゃっていいからね!」

「はい……貴女様に、心からの感謝を」


 うおう! 少年伯爵ったら、その場で跪いて祈りだしちゃったよ! まだ病み上がりなんだから、ダメだってば。

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