第399話 何だってー!?
砦でケーキとコーヒーを満喫し、よっこらせと腰を上げてツオト村の治療院へ。
そういえば、領主様とはホーガン領で落ち合う予定だけど、領内のどこに行けばいいんだろう。
と思ってたら、全員治療院にいたわ。しかもじいちゃんまで。いないと思ったら、領主様達を絨毯でここまで送ってきたんだな。
「おお、戻ったね」
「ただいまでーす。言われたもの、全部揃いましたよー」
中には違う種類のものも混ざってますが。大丈夫、同じ果物だし野菜だから。
ただちょっと見た目が違ったり、味が違ったり栄養素が違ったりするだけ。全部食べられるから平気平気。
「助かったよ。報酬は――」
「ゴーバルのバターがいいです!」
「……わかった、後で砦に届けさせよう」
よし! これでバターゲットだぜ! チーズはまだ在庫があるけど、料理にもお菓子にも使うバターは消費量が半端ない。
……別に、作ったお菓子を片っ端から食べてる訳じゃ、ないからね? ちゃんと亜空間収納に残しておいて、いつかのおやつの時間に食べるだけなんだから。
「それで、頼まれたものって、どこに出しますか?」
「この村の広場で、出してもらえるかな? ここからは、軍が手分けして各村や街に配るから」
「了解でーす」
どの道も雪で閉ざされちゃってるから、普通には行き来も大変だもんね。軍なら訓練を受けているし、何より雪の中での行軍の仕方を心得ている。
そりもあるしねー。あ、そりを引くのは馬じゃなくて、比較的性質が穏やかな魔獣を家畜化したものを使うそう。
ちょっと見に行ったら、バッファローみたいな毛むくじゃらの魔獣がいたよ。足がぶっとくて、雪の中でもバテずに長い距離歩けるんだって。
毛が長いから寒さにも強いし、馬力もある。なので、冬場の運搬関連にかり出される事が多いらしい。
夏はどうするのかと聞いたら、暖かい時期はバテて使い物にならないそうな。だから夏の運搬には、普通に馬を使うんだってさ。
北の涼しい夏でもバテるとは……まあ、これだけ寒い場所で普通に動けるって事は、完全に寒冷地仕様って事なんでしょ。
ツオト村には結界が張ってあり、寒さも雪も村の中には届かないようになっている。
その広場に、買ってきた食料や薪を山のように積み上げた。
「改めて見ると、壮観だねえ」
「一領地の一冬分の食料ですからねえ」
もしかしたら、これでも足りないくらいかもしれないしなあ。人が多ければ、それだけ消費する食料も多くなるから。
でも、幸い一番寒い時期は越えた。といっても、春まではまだ三ヶ月以上はかかるけど。
積み上げた食料は、その場で各村や街の分に分けられ、それぞれ荷造りしてそりに乗せられていった。
もちろん、ツオト村の取り分もあるので、村長に頼んで配給してもらう。
あ、ほっとくんを回収しておかなきゃ!
『遠隔で亜空間収納にしまっておきました』
検索先生、ありがとうございます!
「計算が甘かったかな……」
ツオト村に残された分を見て、領主様がこぼす。大丈夫ですよ、南に行けばまだ食料は買えますって。
「またお買い物に行ってきますよ」
「すまんな」
「バター多めでよろしくです!」
「……わかった」
領主様は一地方が救える。私はバターがもらえる。これぞWINーWINの関係ってやつですね!
治療院に戻ると、少年伯爵と銀髪陛下が何やら話し込んでいる。
「年齢から考えても、カドス卿の責任は軽いと言える」
「ですが!」
「だが、無罪という訳にはいかない。それは理解しているな?」
「はい……僕が弱いばかりに、領民を不幸にしてしまいました。領主たる者、領民の幸福を一番に考えよと教わってきたのに」
「……それが全てとは言わないが、確かに大事な事だ。だが、今回は少し事情が違う」
「呪物が、あったと聞きました」
「そうだ。その影響で、ホーガン家の陪臣達がいらぬ野心をかき立てられた結果だ。もっとも、野心の火種がなければこうはならなかっただろうが」
「彼等は、どうなるのですか?」
「さすがにこれだけの騒動を引き起こしたのだから、極刑は免れん」
「そう……ですか……」
何やら重い話が繰り広げられています。ここは聞かなかった事にして、ユゼおばあちゃん達のところに……
「陛下、ただいま戻りましたぞ」
領主様ああああ! 空気読みましょうよおお! いや、この人の事だから、読んだ上でこの行動か!
おかげで深刻そうな話し合いをしていた中に、私まで引きずり込まれてるじゃないかああ。
正直、こういう話って冒険者が聞いていい話じゃないと思うのね。神子だって、聞いていい話じゃないと思うんだ。
なのに、何故少年伯爵は地獄で仏のような顔をしているんだろう。
「食料配布に関しては、当面の心配はありません」
「そうか……やはり、一度では無理だったか」
領主様の「当面」って言葉で、銀髪陛下は現状を悟ったらしい。顔を曇らせる銀髪陛下に、領主様も苦い顔だ。
「伯爵領はそれなりに広いですから」
「あの……本当に何から何までありがとうございます」
「カドス卿が礼を言う必要はない。我が国の民を守るのは、国王である余の勤めである」
お。銀髪陛下が王様っぽい事言ったよ。って、王様だったっけ。普段の様子を見ていると、我が儘坊ちゃんとしか見えなくてさ……
少年伯爵は、そんな銀髪陛下を尊敬の目で見ている。
「陛下……さすがです! 神子様も、お側に侍る理由がわかります!」
……今、何か変な事を言わなかったかね? 領主様、隣で噴き出してないで、何とか言ってくださいよ!
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