第397話 食糧問題と燃料問題

 ツオト村の治療院は、大分人が少なくなった。これまで、ユゼおばあちゃんとジデジルが大変だったけど。


 なんと、このホーガン領にはまともな教会が一つもなかったらしい。例の爵位を落としちゃった当主の時に、教会を閉め出しちゃったんだって。


 おかげで、本来教会がするはずだった仕事……冠婚葬祭は言うに及ばず、福祉系とか教育、治療院なんかも全て機能していなかったそうな。


 それでよく今まで生き残ってきたね、この領の人達。


「民間療法が残っていて、地方になればなるほど、野草を使った昔ながらの治療を行っていたそうよ」


 なんという、おばあちゃんの知恵。都市部にはさすがにそういったものも行き届かないので、怪しげな薬が出回っていたらしいよ。


 ただ、不思議と大病をする人はいなかったんだって。これは都市部も農村部も同じ。


『瘴気の影響かもしれません』


 マジで!? 瘴気って、病気予防に効くの?

『病気の素を毒と捉えると、わかりやすいでしょう。病気の毒よりも、瘴気の毒の方が強いので、瘴気の蔓延している地では大きな病気をする者が少なくなります』


 病気すら打ち消す瘴気の毒。どのみち、人体に有害なんだけどね。その瘴気を生み出す素を断ち切ったから、この領でも普通に病気になる人が出てくるでしょう。


「そうなったらそうなったで、教会が治せばいいだけです」

「大聖堂建設と並行して、この地に新しい教会を建てなくてはなりませんね」

「そうね。頑張りなさい、ジデジル」

「はい!」


 ユゼおばあちゃん、今さりげなく全部の仕事をジデジルに押しつけたよ。おばあちゃんは引退した人だから、いいのか。……いいんだよね?




 治療院が落ち着きを取り戻した頃には、少年伯爵も動けるようになっていた。


 今ではリハビリがてら、治療院の周囲を散歩するくらいになっている。


「凄いですね……」

「何が?」

「この村に張られた結界です。この時期に、こんな薄着でも歩けるなんて」


 あー。結界も、そろそろ消さなきゃなあと思ってたんだよね。いつまでも私に頼り切りは、よくない。


 でも、まだ暖房用の薪とか準備出来ていないらしいんだ。さすがの王宮の備蓄でも、一つの領丸ごととなると足りないらしい。


 これに関しては銀髪陛下達が反省していて、備蓄の量を増やす方向らしいよ。


 ホーガン伯爵領は、まだどうなるか決まっていない。冬だから、会議をしようにも殆どの貴族が領地に戻っちゃってるので、集めるのも大変なんだって。


 だから、結果がわかるのは春になるかもって話。そうなると、この領はどうやって冬を過ごすんだよって事でして。


 多分、もうじき領主様から依頼が来るんじゃないかなー。


 じいちゃんの方は、少しずつだけど解析が進んでるって連絡が来てる。大分複雑な術式が使われていたってさ。


 完全解析が終わるまでは、砦で一人頑張ってほしい。砦にもほっとくんを置いておいて、本当に良かった。


 じいちゃんは一人でも絨毯で移動出来るから、疲れたら好みの温泉に行くのもいいし。砦のメンツはいつでもフリーパスで行けるようにしてある。


 一応、どの敷地も入るのに本人認証が必要なようにしてあるから。セキュリティ大事。


 認証されないと、護くんやとーるくんに不審者認定されて、捕まっちゃうから。


 今のところ、不審者が捕まったって連絡は来ていない。一番湯でツオト村の人達が見つかった時に、慌てて連絡用の機能を追加しておいた。


 でないと、捕まえて放置したまま……なんて事になりかねないし。いや本当、あの時はいいタイミングだったんだなあ。




 少年伯爵が重傷患者から軽傷患者になる頃、領主様からスーラさんで連絡が来た。


『ホーガン伯爵領全体に行き渡るだけの、薪と食料を手に入れる方法はないかい?』

「ありますよ」

『本当か!?』


 ダガード国内じゃ難しいだろうけど、くびれの辺りの国々なら、この時期でも楽に食材が手に入る。


 薪も、くびれの人手が入っていない山や森、それに南ラウェニアにもそういう場所がいくつかあるから、そこで切ってくればいい。


 本当は誰かの領地なんだろうけど、バレなきゃ大丈夫。大体、管理していないんだから文句言われる筋合いはないっての。


「ただし、普通に買い付けするので、お金が必要です」

『出す! 出すから買ってきてくれ!』

「わかりました。具体的にどのくらい必要なのか、計算しておいてください。で、それを買えるくらいのお金も用意しておいてください」

『わかった。すぐに王宮に来てくれないか』

「了解でーす」


 よし、新しい依頼だー。とりあえず、王宮に行くことをユゼおばあちゃん達に報せておかないと。


「ユゼおばあちゃん、依頼が入ったから、ちょっと王宮に行ってくるねー」

「気をつけてね」

「はーい」


 一緒にお茶を飲んでいた少年伯爵が、何やら驚いた様子でこっちを見ていたけど、気にしない。


 ジデジルが騒ぐ前に、とっとと行っちゃおう。

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