第396話 結果は後日

 検索先生は、あくまで可能性の話だとは言っていたけど、組織ねえ……どう考えても、悪の組織って奴でしょ。


 まさか、異世界でそんな特撮めいたものにお目にかかるとは……


「ともかく、ホーガン家は王族殺しの汚名がある為、中央でも肩身が狭い思いをしている家なんだ」


 さすがの銀髪陛下も、苦い顔だ。何せ、今の当主があの少年伯爵だからね。まだ成人年齢の十五になっていないんだもんなあ。


「しかも今回のこの騒動だ。いくら陪臣が暴走した結果とはいえ、主家であるホーガン家に何の咎めもなしとはいかないでしょうな」

「え? 何でですか?」


 領主様の言葉に、ぎょっとして思わず聞いちゃったよ。だって、少年伯爵が悪い訳じゃないのに。


 首謀者達も、ある意味では犠牲者だから。とはいえ、己の欲に溺れた結果といったところだけど。


 実際、少年伯爵は抵抗し続けたんだし。


『ホーガン伯が瘴気に抵抗出来たのは、魔力があったからという面もあります』


あ、そっか。いっそ少年伯爵の魔力の話をして、何とか見逃してもらうって事、出来ないかな。


『ホーガン伯爵本人は助けられますが、家そのものは無理ではないでしょうか』


 そっかー……


「先程から、何を百面相している?」

「うおう!」


 気がついたら、銀髪陛下に顔を覗き込まれていた。びっくりしたー。いきなり目の前に顔近づけないでくださいよもー。


 驚いたら不機嫌そうな顔するし。


「……少年伯爵の事、考えていたんです」

「ああ……当主の命は救えても、こうまで大きな騒動に発展してしまっては、領を治める能力なしとして、爵位をさらに落とす事になるだろうな」

「え?」

「領地なしの子爵か男爵辺りに落とすのが、いいところだろう」

「そうですな。実際、死人が出なかったのも、サーリのおかげのようなものですし。一歩遅かったら、大惨事だったでしょう」


 銀髪陛下も、領主様も厳しい。とはいえ、その通りなので何も言えない。領民にとっての事実って、税金上げられて死にかけたって事だけだもんね。


 実際は誰かのせいで領内で悪い実験が行われていて、その影響から今回の事件が起こったんだけど。


『実験云々は、可能性の話です』


 ああ、そうでしたね。でも、なんとなくそれが正解な気がする。


『神子がそう言うのなら、そうなのでしょう』


 ……そんな簡単な事で、いいの?


『私の機能より、神子の直感の方が神の力に近いのです』


 知らなかった! 私の直感にそんな効果があるなんて!


『邪神が完全浄化され、この世界への神の干渉力が日増しに大きくなっています。それに合わせて、神子の能力も強くなっているのです』


 そういえば、前にそんな事言っていたっけ。知らないうちにアップデートされるのはびっくりするけど、色々出来る事が増えるのは単純に嬉しいな。


『……神子の感情を受けて、ホーガン領内の土地に変化が起こりました。向こう三十年は豊作が続くでしょう』

「えええええええ!?」

「な、何だいきなり!」

「あ、いえ、今、検索先生から、この領が向こう三十年くらい、豊作が続くだろうって」

「何だと!?」


 銀髪陛下だけでなく、領主様まで。二人して勢い込んで来るから、思わずのけぞっちゃったじゃないか。


「神子様、検索先生というと、例の?」

「そう。私の能力の一部……? あれ? そうだったはず……だよね?」

「自分の能力なのに、何故そんなに曖昧なんだ?」


 いや、そう言われましても。首を傾げる私に、銀髪陛下が呆れた目で見てくるよ。何か悔しい。


 だって、検索先生って、最近すっごく自立してませんか? いや、頼もしいからいいんだけどさ。


 既に別人格が確立されているような気がする。


『……気のせいです』


 言葉に詰まったから、嘘だ。


『……』


 何 故 黙 る。


 沈黙で逃げるのは卑怯だと思いまーす。




 結局、ここでホーガン領のこれからを決めるのは無理なので、一旦銀髪陛下達は王宮に帰るそうな。


 もちろん、絨毯で送っていきますとも。領主様が報酬をはずむって言ってくれたし。


 あれだよね。別にお金でなくてもいいんだよね? ゴーバルのバター、おねだりしてもいいよね?


 あれおいしくてさ。料理にもお菓子にもあれこれ使ってたら、そろそろ在庫が乏しいのよ……


 無事三人を王宮に送り届けて、ツオト村に戻る前に、砦に寄る。


「じいちゃーん」

「おお、戻ったのか。うん? 一人かの?」

「うん、ちょっとね。実は、お願いしたい事があって」


 場所を角塔の居間に移し、これまでの事をざっと説明する。


「ふうむ。そんな事が起こっておったとはのう」

「でね、これに使われている魔法、どんなものか、解析してもらえないかな?」


 亜空間収納から、ガラスビンに入れたままの魔物の死骸を取り出す。


「これが、そうなのか……うん? なるほど。これならば解析は出来そうじゃ」

「そうなの!?」

「昔、文献で見たことがある術式じゃな。はて、あの文献はどこにやったかのう……」


 既にじいちゃんの頭は、これに使われている術式の解析に向かってる。


 んじゃ、これはじいちゃんに任せて、私はユゼおばあちゃんのところに戻ろうっと。

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