第394話 出所が気になる

 治療院の少年伯爵がいる部屋に行くと、ユゼおばあちゃんとジデジルがいた。


「ユゼおばあちゃん」

「ああ、お帰りなさい。ちょうど、先程目を覚ましたところよ」


 ベッドを見ると、ぼんやりとこちらを見ている少年伯爵がいる。目の色が凄い、真っ青。とても澄んでいて綺麗。


「あなたが、私を助けてくれたのか?」


 弱々しいが、はっきりと口にした。無言で頷くと、目元を緩ませて「ありがとう」と言う。


 どこの誰かわからない相手に、「ありがとう」が言えるのはいい貴族だと思うんだ。勝手な考えだけど。


「さあ、意識が戻ったとはいえ、まだよくなった訳ではありませんからね。栄養を取って、よくお休みなさい」

「はい」


 ユゼおばあちゃんの言葉に素直に答えて、少年伯爵は再び目を閉じて眠った。


 その様子を確かめてから、三人で部屋を出る。


「まだ目を覚ましたばっかりだから、食べさせるのはスープぐらいがいいよね?」

「そうね。どのくらい絶食していたのかわからないから」


 いきなり固形物は無理だもんなー。


「辺境伯には、まだ連絡しなくていいですよね? ユゼ様」

「伯爵が起き上がれるようになってからで、いいんじゃないかしら。若いのだもの、すぐによくなりますよ」


 瘴気に抵抗していたせいで、気力体力使い果たしちゃっただけだからねえ。


 病気って訳でもないから、ユゼおばあちゃんが言ったように、栄養取って休んでいれば回復するでしょ。




 それからさらに二日。少年伯爵は起き上がって食事が出来るまでになった。若いから、快復力が高いんだね。


 そろそろ、領主様に連絡するかー。


「伯爵が目を覚ましましたよー」

『本当か!? すまないが、絨毯で迎えに来てもらえないか? 王宮にいるんだ』

「了解でーす」


 さすがにポイント間移動はまだ披露出来ないからねー。ミシアには教えちゃったけど。


 てなわけで、絨毯を使って王宮まで。今日は領主様のお迎えなので、表の中庭に。


 あれ? 何か見慣れた色があるんだけど。しかも二人分。


「……領主様だけじゃないんですか?」

「断ったんだけどねえ」

「ジンドが行けるんだし、既に兵士も入っている場所だろう? 俺が行ったところで危険はないはずだが?」


 そういう事じゃないと思うよ? 銀髪陛下。まあ、絨毯で行くから一人二人増えたところで問題ないけどさー。当然のように剣持ちさんもいるし。


 国内とはいえ、王様がこんなふらふら出回っていていいのかね?




 ひとっ飛び、ツオト村の外れに作った治療院へ。銀髪陛下が見上げて呟いた。


「こんな辺鄙な村に、こんなしっかりした建物があるとは……」

「あ、必要だったんで、作りました」

「はあ!?」


 驚いたのは、銀髪陛下と剣持ちさんのみ。領主様は「そうなのか」と言っただけ。慣れてきてますね、領主様。


 まだブツブツと言っている銀髪陛下と剣持ちさんを放っておいて、治療院の中へ。


「お待ちしておりましたよ、辺境伯。さあ、どうぞこちらへ。あら、国王陛下もいらっしゃったのね」


 あら、いつの間にか立ち直って二人とも入ってきてた。


「お手数をおかけします、ユゼ様」

「邪魔をする」

「失礼します」


 銀髪陛下も剣持ちさんも、先程までのショックを綺麗に隠してユゼおばあちゃんに挨拶してる。こういうところ、やっぱり王侯貴族だよなあ。


 弱みはなるべく見せない。じゃあさっき私の前でショック受けていたのはなんだよって思うけど、そこはそれ。弱み見せても問題ない相手と思われてるんでしょ。


 確かにそうだねー。神子って肩書きはまだ生きてるみたいだけど、それだけ。政治にも関わらないし、権力だって持ってない。


 まあ、実力行使は出来るけどねー。


 少年伯爵が寝ている部屋へ案内すると、伯爵は起きて待っていた。


「お久しぶりです、閣下」

「楽にしなさい、カドス卿。君にはまだ療養が必要のようだ」

「ですが――」

「大体の事は、既に把握している。大変だったな」


 領主様の言葉に、少年伯爵の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。声もなく泣く彼に、領主様は「大丈夫だ」と、ずっと声をかけ続けてた。




 少年伯爵が落ち着くまで、全員で別室にて待つ事になった。伯爵にはジデジルがついている。もしもって事があるからね。


「ホーガン伯爵は、大変な目に遭っていたようですね」

「ええ、伯爵家の家臣団でも古い家二つが、今回の件の首謀者でした」


 って事は、あの塔の上の部屋で縛り上げたのが、家臣団の人達だったのか。


「家臣団でも一、二を争う家柄ですが、いつまでも伯爵家の陪臣から抜け出せず、王家の直臣になれない事に対する恨み辛みで、今回の事をしでかしたのだとか」


 んー? でも、あの魔物の死骸って、確か百年くらいあの場所にあったんだよね?


『おそらく、今回の事は最終段階であり、その前から仕組まれていたのでしょう』


 つまり、百年前からその二つの家は、伯爵家を呪っていたって事?


『そうなります。人の感情程厄介なものはありませんね。ただ、あの魔物の死骸……呪物の入手先が気になります』


 ですよねー。

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