第393話 まだかなー

 治療院で、ユゼおばあちゃんに少年伯爵を預けてほっと一息。ジデジルとお茶の支度をしていたら、領主様からスーラさん。


「はいはーい」

『サーリ……領都が酷い事になっているんだが?』

「はい?」


 はて、何かやったっけ?


『道ばたで倒れている者達が、全員排泄物で汚れているのだよ……』


 あ! かろうじて意識はあるものの、体が動かない人達がおもら……色々、まみれちゃった訳か。


 えーと、それは申し訳ないです……でも、言っちゃなんだけど、領都だって普段から臭うよね? 垂れ流しだもんね?


 おかげで最近は臭いを寄せ付けない結界、常時展開してるもん。そう言ったら、臭いだけの問題じゃなかったらしい。


 まあ、垂れ流してたら、通りとか凄い事になってるだろうね。


「えーと、すみません?」

『はあ……まあいい。それで、ここはもう大丈夫なのかね?』

「ええ、瘴気は綺麗さっぱり。あ、少年伯爵はこっちでお預かりしています。それと、城の中庭にある塔の最上階に、首謀者と思しき二人を縛り上げてありますので、回収よろしくです」

『そうか……感謝する。報酬は期待していたまえ』


 へっへー、やったー。正直、亜空間収納には磁器の売り上げやら何やらで使い切れないお金があるんだけど、これもうじき大聖堂建設に寄付する予定だからね。目減りするだろうなあ。


 大聖堂建設には、ダガード中から人足を集めてるっていうし、デンセットにもお金が落ちるでしょう。


 なんだかんだで、あんまり大きなお金、あの街に使えてないからね……使う場所が見つからないっていうか。


 まあ、またそのうち何かで大きく使いましょう。




 少年伯爵の容態は、思っていたよりも重かったらしい。ユゼおばあちゃんの治癒を受けても、丸二日眠り続けている。


『瘴気に抵抗し続けて、気力体力共に消耗しているのでしょう』


 瘴気って、抵抗出来るものなの?


『魔法処理された魔物から放出される瘴気は、本来のものから変質していました。だから抵抗出来たのだと思います。それと、伯爵本人は自覚がありませんが、魔法の素養があるようです』


 おっと、ミシアに続いて二人目の魔法素養の持ち主が。国内でしっかり探したら、それなりの人数の素養持ちがいるかもね。


『探しますか? 検索に一週間要しますが』


 いや、いいです。そういうのは、領主様や銀髪陛下が考えるべき事だから。


 少年伯爵の容態を見つつ治療院で過ごしていたら、領主様がやってきた。


「また雪深いところだねえ」

「いらっしゃいませ。向こうは終わりましたか?」

「ああ、あらかた終わったよ。後は配下の者に任せてきた。ホーガン伯爵とは会えるかい?」

「それが……」


 思わずユゼおばあちゃん達と顔を見合わせる。代表して、ずっと少年伯爵を診てきたユゼおばあちゃんが口を開いた。


「辺境伯、ホーガン伯爵は衰弱しています。未だに意識が戻らず、このままですと、危険かと」

「なんと……」


 代替わりしたばかりの少年伯爵。当然世継ぎなんていないだろうし、係累から次の伯爵を見つけるのも大変だ。


 何より、そうして見つけた次の伯爵が、善政を敷くとは限らない。まあ、寝ている少年伯爵も、善政を敷くかどうかは未知数だけど。


 考え込んでいた領主様は、こちらに向き直った。


「ユゼ様、ホーガン伯爵の事は、お任せしてもよろしいですか?」

「もちろんです。全力を尽くします」

「お願いします。私は王都に戻り、至急陛下と話し合わなければなりません。何か変化がありましたら、連絡してください」

「わかりました」


 領主様は、すぐさま治療院を去っていく。このゴタゴタ、しばらく終わりそうにないなあ。


 とりあえず、じいちゃんに連絡入れておこうっと。




 少年伯爵の治療は遅々として進まず、治療院に連れてきてから五日が経った今でも、まだ目を覚ましていない。


 途中でおばあちゃんと交代しようかと思ったんだけど、検索先生に止められたから断念。瘴気由来で弱っている人には、私の治癒はきつすぎるらしい。


 きついって……何か酷くない?


 ジデジルは他の病気の人達の面倒を一手に引き受け、ユゼおばあちゃんは少年伯爵にかかりきり。私だけ、やる事ないよ。


 とはいえ、考えなきゃいけない事はある。例の魔法処理された魔物の死骸。これ、誰が作って、何の為にホーガン伯爵家に渡ったんだろう。


 ……考えても何も思い浮かばないー。百年前っていうんだから、私がこの世界に来る前だもん、当たり前か。これは後でじいちゃんに相談だ。


 あー、頭使うのは向いてないわー。何かすかっとする事、ないかなー。


『近場に、いい木材を産出する山があります』


 検索先生、それは切って取ってこいって事ですか? でも、近場の山って少年伯爵の持ち物じゃないの?


 山とか川の権利って、基本土地を治めている貴族にあるから。川は通行税、山は木材や狩りの獲物。


 木の実や山菜、キノコなんかは地元民が入って取ってもいいって事になってる山が殆どなんだけど、けちんぼ領主だとそういうところにも税金をかけるそうな。


 あれ? このホーガン伯爵領って、税金が上がっていたよね? でも、少年伯爵はまだ意識不明だし。


『そろそろ目を覚ましそうです』


 本当に? じゃあ、領主様を通じて木を切ってもいいかどうか、聞いて見ようか。


 その前に、本当に目を覚ましたかどうか確認して、領主様に連絡だ。

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