第392話 塔の上

 ベッドに寝ているのは、苦しそうな顔の小柄な少年。ガリガリに痩せて、顔色も悪い。


「この子、ユゼおばあちゃんのところに連れて行って大丈夫かな?」

『辺境伯に聞いてみるのはどうでしょう?』

「あ、そっか」


 こういう時の領主様だ。って訳で、スーラさんで通話っと。


『現ホーガン伯爵が死にかけている!?』

「かなり状態は悪いです。ユゼおばあちゃんに治してもらっていいですか?」

『頼む!』


 よっし、許可は出た。では、シーツでくるんで連れて行っちゃおう。


『ここで軽く治癒の術式を使っておきましょう。帰り際、証拠の品を持って出るのもお忘れなく』


 はーい。検索先生、忘れ物防止機能までついたのかな。


 シーツにくるんだ少年伯爵を宙に浮かせて廊下を行く。まだ倒れ込んだ人達はまともに動けないらしく、浮かぶ布の塊に驚いた顔を見せてくるよ。


『まずは一階に下りましょう。目的の品は城の奥です』

「了解でーす」


 検索先生のナビに従って、廊下を過ぎて階段を下り、城の奥へと向かう。


 ロの形をした城には、中央に中庭があり、そこに塔が立っている。高さは……六階くらいかな。証拠の品は、ここにあるそうだ。


 塔の入り口にも、倒れている兵士達。厳重に管理しているって事は、大事なものがあるって事だよね。


 塔の入り口には、大きな扉。もちろん、鍵もかかってる。でも、物理だけの鍵なんて、魔法士にとってはかかっていないも同然だよ。


「なに……もの……」


 苦しいだろうに、自分の仕事をしようと頑張る兵士。でもごめんね。邪魔はさせられないんだ。


 彼等が苦しんでるのも、ここに置かれている「もの」が原因みたいなものだからね。瘴気って、本来は人にとっては猛毒みたいなものなんだけど。


 たまにねえ、いるらしいんだ。その猛毒に慣れちゃう人。そうなると、今度は瘴気がないと生きていけないって体になるらしい。


 恐るべし、瘴気。


「はいはーい。失礼しますよー」


 塔を護っていた兵士の前で、鍵もなく扉を開ける。いや、中のシリンダー? のパターン、凄く単純だし。開けるの簡単だよ。


 これまた凄く驚いた顔の兵士達を置き去りにして、塔に入る。入ってすぐは狭いスペースと、右手に上へと伸びる狭いらせん階段。


 それに、目の前の壁にある小さな木製の扉。


『目当ての品は、最上階です』

「これ、上るのかあ」


 あ、ほうきで上っちゃえばいいのか。バカ正直に階段使う必要、ないよね。浮かせているとはいえ、少年伯爵も一緒だし、時間短縮しよう。


 ほうきを取り出してまたがり、階段の上を滑るように上っていく。少年伯爵は、ほうきの後ろをついてくるようにした。だってこの階段、狭いし。


 階段は塔の外周を回るように設置されていて、外周側に窓が等間隔にある。塔の正面部分に踊り場と扉があって、塔の真ん中にある部屋に入れるみたい。


 私の目当ては最上階なので、全部の扉を無視して先を急ぐ。ゲームだったら、全部の扉を開けるところだけどねー。


 ほうきで上れば、六階程度あっという間だ。最上階はワンフロアが部屋で、扉もない。


 とりあえず、何があるかわからないから、少年伯爵は階段で待っててもらおう。意識ないけど、なんかごめんね。


 奥に大きな窓。周囲にも階段にあったとの同じ大きさ、デザインの窓がある。


 そして、大きな窓の手前には凝ったデザインの台が置いてあって、その上に真っ黒い干からびた何かが入ったガラス瓶。


 台の下には、倒れている老年の男性が二人いた。


「あれが?」

『そうです。倒れているのは、領の実権を握っていた者達でしょう』


 という事は、税金を不当に上げていたやつらか。このまま放置してもいいんだけど、それだと後が困るかも。


 とーるくんを亜空間収納から出して、二人を捕縛。その後に軽い治癒術式を使ってみた。


 顔を歪めて苦しみ始めたけど、一応体の方は瀕死状態からは何とかなったかな。


「き、きさま……このような事をして、ただで済むと思うなよ……」


 ぜーぜーしながら言われても、怖くもなんともないなー。


「そっちこそ、ただで済むと思わないでね。王宮には報せてあるから」


 私の一言に、二人して顔色を変えたって事は、悪い事をしていた自覚はあるんだな。


 無言でその場を立ち去ると、背後から「待て!」とか聞こえてきた気がするけど、気にしない。


 少年伯爵を、あの最上階の部屋に入れないでおいて良かった。




 必要な証拠も取ったし、少年伯爵も救出出来たし、これで一安心かな。


『王宮から使わされた軍が、じきにこちらに来るでしょう。早急に離れた方がいいと思います』


 おお、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだわ。少年伯爵の事も、ユゼおばあちゃんに診てもらわないといけないしね。


 今度は絨毯を出して、ツオト村へ。でも、王宮からここまで、そんなに早く軍隊を動かせるものなのかな。


『水運とそりを使って、一日程度で到着する予定です』


 早。軍の船は、兵士達が漕ぎ手になるので他の船より速いそうな。軍の皆さんも、ご苦労様です。

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