第391話 城の奥

 検索先生からの情報を、早速ユゼおばあちゃん達と共有。


「魔物の死骸ですって!?」

「何故、そのようなものが領都に!?」


 さすがは教会関係者。魔物の危険度をよく理解してるから話が早い。


「どんな魔法処理をしたのかまではわからないけど、死骸とはいえ魔物がいるなら、浄化は私がやった方がいいと思うんだ」

「そうね……私達の浄化では、弱すぎるでしょう」

「ですが、神子様の浄化ではその死骸とやらは跡形もなく消えてしまいますよね? 証拠品がなくなるのは困りませんか?」


 うーん……今後の事を考えて証拠品保全を優先するか、浄化を優先するか。


『神子の浄化ですが、出力を弱めれば死骸から発する瘴気のみを浄化する事が可能と思われます』


 マジでー!? だったら、証拠は残るから、それでいこう!


「ユゼおばあちゃん、ジデジル。今検索先生に聞いたら、私の浄化を出力弱めで使えば、死骸を残したまま瘴気だけ浄化出来そうだって!」

「まあ、本当に? 良かったわ」

「でも、また神子様のお手を煩わせる事に……」

「それはまあ、もういいよ」


 この世界に神子として召喚された時点で、ある程度諦めてる事だからね。別に世直しだの世界平和だのを掲げたりはしないけど、手の届く範囲で、自分に出来る事ならやるってだけ。


 浄化に関しては、ユゼおばあちゃん達より私の方が使いやすいしねー。


「じゃあ、早速行ってこようかな」

「お待ちなさい。辺境伯には、先に報告をしておいた方がいいでしょう」


 それもそうか。ユゼおばあちゃんの助言に従い、スーラさんで領主様に連絡を取る。


『魔法処理した魔物の死骸だと!? しかも瘴気を出す!? 何て事だ!!』


 領主様、スーラさんに怒鳴ったりしないでください。こっちにまで大声が届いております……


『こうしてはおれん! ああ、浄化だったな。もちろん頼むとも!』


 言い終わるやいなや、通話が切れた。多分、王宮で「お話し合い」があるんだろうなあ、各部署で。


『場合によっては、軍が動く事態です』


 そっか。何せ死骸とはいえ魔物、しかも瘴気を出すとなれば、所持しているだけで重罪だ。


 ともあれ、許可は得たから行ってこよう。治療院の方も、二人に任せておけば問題ないし、各村や街も危険はないしね。




 ホーガン伯爵領の領都は、相変わらず真っ黒だ。ここも街の周囲を壁で囲う城塞都市なんだけど、その壁の向こう側をすっぽり覆うように黒い繭のように見える瘴気が覆っている。


 さすがの検索先生も、瘴気で覆われている街の中は、あんまりよく見えないらしい。精度が落ちるんだって。


 なのによくぞ魔物の死骸なんてものを見つけてくれたものです。ありがとうございます。


『どういたしまして。神にとっても、魔物や瘴気は見過ごせない存在です。邪神の残した痣のようなもの。見つけ次第取り払わねばなりません』


 ですよねー。その為にも、私が異世界から喚ばれてここにいるんだから。


 さて、ではやりますか。出力調整はよろしくお願いします!


『お任せください』


 浄化の調整は検索先生任せなので、楽ちん。まずは街を結界で覆って、中からも外からも出入り不可能にしておく。


 それから結界内に浄化を。内部をいっぺんに綺麗にするように、隅々までまんべんなく力が行き渡るように。


 時間にして、数秒くらいだったかな。先程まで街を覆っていた黒い靄は、綺麗に消えてなくなった。


「おおー」


 瘴気特有の、あの嫌な感じもない。んじゃ、街中に入ってみますか。


 壁の向こうに一歩足を踏み入れたら、そこはバタバタと倒れている人、人、人。


「え……まさかこれ、死んでるんじゃないよね?」

『死んではいませんが、瀕死状態です』

「ダメじゃん!」

『街全体に治癒の術式を使ってください。出力はこちらに』

「了解です!」


 今度は治癒の術式を使う。細かいところは検索先生がやってくれるので、私は魔力を術式に通して放つだけ。


 これまたものの数秒で、通りに倒れていた人達がうめきつつも起き上がり始めた。


『これで問題ありません。では、証拠押収と犯人捕縛に向かいましょう』

「了解……って、それは領主様の仕事じゃないの?」

『捕まえておけば、後は差し出すだけで終わります』


 いや、そうなんだろうけど……まあ、いっか。




 街中でも一番大きな建物が、領主の屋敷だった。屋敷っていうか、城だね。宮殿ではなく、城。軍事に使うのが目的の建物だ。


『まずは瀕死の人間がいますので、そちらを確保。後に魔物の死骸を押さえます』

「はーい」


 もう検索先生に黙って従っておこう。でも、治癒の術式を使ったのに、まだ瀕死の人がいるなんて。


『瘴気の影響が、他の人間よりも濃かったようです。彼の身柄を確保する事は、この先有利に働きます』


 ……なんとなく、検索先生が誰を助け出させようとしているか、見えてきたぞ。


 でも、そうするとやっぱり黒幕は別の人なんだね。


 城の入り口にも、兵士がぐったりとしている。意識はあるんだけど、まだ動けないみたい。


「な……何者……」

「怪しいものじゃないけど、証明は出来ないね。お邪魔しまーす」


 追いすがろうとしたみたいだけど、ろくに動けないんじゃ無理だよね。他の入り口なんかも全部そうで、城の中でも倒れている人ばかり。


 私は検索先生のナビに従って、階段を上り廊下を歩き、城の奥へと向かう。


『この扉の向こうです』

「ここがゴールかー」


 いや、ゴールは死骸が置かれた場所か。多分地下とかじゃないかなー。


 それはともかく、部屋にいるのは予想通りの相手かな?


「お邪魔しまーす」


 開けた部屋の向こう側には、広い空間があった。その右手奥に、天蓋付きのベッド。


 そこには、痩せこけて青い顔をした少年が横たわっている。


「彼が……」

『現ホーガン伯爵です』


 代替わりしたばっかりって言っていたもんね。

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