第390話 領都以外全部
王宮で無事食料を渡してもらい、そのまま村巡りに出る事に。なんかね、王宮にはいざという時の為の、備蓄食料ってのがあるらしいよ。
でも、王都から遠い場所で何か起こったら、どうやって送るんだろう?
「水運を使うんだよ」
ダガードには川がいくつか流れていて、船での輸送、水運が発達しているそうな。
で、船着き場からはそりに乗せて運ぶんだって。馬車と同じかそれ以上のスピードが出せるから、迅速な対応が出来るらしい。
ただ、今回の村の場合は、上に問題がありそうなので、緊急事態として私に依頼してきたって訳。
「各村の事は、頼んだよ」
「了解でーす!」
自分達が悪い訳じゃないのに、飢えて大変な思いをするなんて、酷すぎる。手助け出来る事なら、何でもやるよ。
ただし、あまり手を出しすぎると「甘やかすのはいかん!」ってじいちゃんに怒られるから、ほどほどにね。
今回は領主様からの依頼って事で、そこからはみ出ない範囲でやるさー。とりあえず、炊き出しと取り立て人の捕縛、村の警備だね。
村の場所は、検索先生に頼んでマップに展開。一人で行くはずだったんだけど、ジデジルが静かに怒っている。
「自分の領地の領民にこのような無体を強いる領主など、滅びればいいのです。それと、村人に病人がいてはお困りでしょう。私だけでも同行します」
「そうね、ジデジルは連れておいきなさい。重病人が出たら、この村につれてくるといいでしょう。私が診ます」
という訳で、最初の山の麓の村……ツオト村を出て、周辺の似たような村を目指した。
ツオト村同様、飢えてこの冬を乗り越えられるかどうか怪しいって村は、他に十五もあった。
ツオト村から見て、領内の最南端にある村でも危険な状態だったから、村だけでなく街でも飢餓状態に陥ってるところがあるかも。
途中、領主様にそのことを報告して、街でも同様のところがないかどうか調べた。もちろん、検索先生が。
そうしたら、何と領都以外全部危険。街では食料が入ってこない状態になっていて、下手したら村よりも酷い事になっていた。
本当、この領ってどうなってんの?
「重病人は街の方が多かったですね……」
「そうだね」
回った村には、飢えた人はたくさんいたけど、病人は少なかった。いてもジデジルの治癒術式だけで治ったし。
でも、街ではたちの悪い流行病が蔓延していたんだ。それも、瘴気由来の。
街に入る時に、全体が黒い靄で一杯だったからすぐにわかった。その場で私が浄化しようと思ったんだけど、ジデジルがやってくれたよ。
一応、今バレている人以外に私が神子だってバレないように。
ただ、ジデジルの浄化だと瘴気由来の病気までは一気に治せなくて、何度もツオト村と往復して病人を運ぶ事になった。
ユゼおばあちゃん、大変だろうなあ。とりあえず、ツオト村の外れに即席で治療院を建てておいた。亜空間収納内に木材がたくさんあって良かったよ。
ツオト村に張った結界を拡張して、治療院も暖房がいらない状態にしておく。
食べるにも事欠く村には、暖房用の薪なんてないからね。なので、他の村にも簡単な結界を張ってある。
正直、これに関してはユゼおばあちゃんとかなり話し合った。やり過ぎなんじゃないかって。
人間って弱いから、一度楽をすると元には戻れなくなるっていうから。でも、今って緊急事態だと思うんだ。
ここで出来るのに結界を張らずに住民で何とかしてね、って言ったら、飢えではなく寒さで死人が出そう。
だから、彼等が薪で暖を取れるようになるまでの、緊急措置として認めてもらった。大分渋々だったけどね。
街にいた重病人の運搬は、これで最後。街にも結界を張って、護くんととーるくんを配置。これで領主側の人間が入れないようにしておく。
各村や街に配置したほっとくんは、メニューを少しいじってこの地方の料理のみ出せるようにしてある。というか、住民側でメニューが選べないようにした。
この辺り、ユゼおばあちゃんにしっかり言われました、はい。知らない味って、おいしければ何度でも味わいたくなるもんね。
でも、自分達の手で再現出来なかったら、それはそれで何が起こるかわからない。なので、再現可能な料理のみ提供する事が決まりましたー。
各村、街ごとにほっとくんの係の人を決めてもらって、毎日九時、十二時、十八時にそこにいる人数分の食事をほっとくんが提供するようにしてある。
係の人は、時間がきたら住民をほっとくんの前に並ばせる係ね。その場で食べてもいいし、持ち帰って家で食べてもいい。
食器は返却制。返さない人がいたら、とーるくんに捕まりますので気をつけるように。
ほっとくんが置かれているのは、村でも街でも必ずある広場だから、面倒くさがらずにちゃんと返しましょう。
人数の多い街には、複数台のほっとくんを置いておく。さすがに五十人の村と、二百人の街で同じ台数はないでしょ。
これらを、領都以外の街や村全部で行った。さすがに領主側もおかしいって気づくでしょ。
どうするんだろうね?
「もういっそ、領都に強化版浄化を一発かませばいいんだと思うのー」
治療院の端に作った一室で、ユゼおばあちゃんとジデジルと、お茶とお菓子で一服中。
色々動いたから、甘いものが身に染みる。
「確かに、瘴気の影響を受けている以上浄化は必要なのだけど」
「浄化でしたら、このジデジルにお任せください! 神子様のお手を煩わせる必要など、ございません!」
「ジデジル、呼び名が元に戻ってるー」
「今はそれどころではございません!」
いや、これも大事。慣れって怖いんだからね。でも、ユゼおばあちゃんが言うとおり、領都に浄化は必要。
瘴気が靄のようにかかっているのは他の街とも同じなんだけど、何か嫌な感じがする。
検索先生、何があるか、わかりますか?
『魔物の死骸があります』
「え!?」
思わず声に出ちゃった。ユゼおばあちゃんとジデジルが、びっくりしてこっちを見ている。
魔物って、死んだら……というか、浄化したら死骸は残らないんじゃなかったっけ? 存在全体が瘴気の塊だから。
『そうです。ですから、あれは浄化でしたのではなく、人の手で仕留めた後に魔法処理をしているのだと思います』
魔法処理……という事は、国内で作られたものじゃないよね。ダガードは長らく魔法士がいなかった国だから。
『巧妙に隠されていますが、あの死骸が作られたのは、おそらく百年以上前だと思われます』
百年!? そりゃまた古い。
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