第389話 山裾の村

 さてピンポイントで強化版浄化をかけてみたところ、とんでもない事がわかった。


 彼等は一番湯がある山の麓の村に住んでいる人達で、その村は山を境に領主様の領地と隣り合っている場所。


 旧ウーズベルとは、ちょうどデンセットを挟んで真逆の位置関係かな。


 で、その領地では、去年からどんどん税金が値上がりしているんだって。


 何とか支払ってきたんだけど、とうとうこの冬の為の支度の分まで取られちゃって、今村はお腹を空かせた人達ばかり。


 それで、まだ村でも動ける彼等が食料を求めて越境して山に入り、迷った末に一番湯を見つけて食べ物を探そうと侵入しようとした訳だ。


 そこを護くんと連携したとーるくんに捕まったんだね。…護くんをデストロイモードにしていなくて、本当に良かった。


「これは、コーキアン辺境伯にお報せした方がいいでしょう」


 ジデジルの言う通りだと思う。でも、その前に村の人に炊き出ししないと。この寒さの中で飢えたら死んじゃうよ。


 楽しい温泉のはずが、一転して村人を救う緊急クエストになっちゃった。




 まずは人命最優先って事で、ほっとくんを用意して捕まえた人達の村へ急ぐ。


 あ、ちゃんと彼等も連れてるよ。ついでに、ちょっと治癒をかけてから栄養たっぷりのスープを飲ませておいた。ほっとくん、やるう。


 絨毯で移動しているので、あっという間に問題の村に辿り着いたのはいいんだけど……何か、もめてる?


「ええい! 領主様に逆らうもりか!」

「税金が払えなければ、娘を差し出せ!」


 なんと! どこの時代劇の悪役だ! 腰に佩いた剣を抜いて、村人を脅してる。


「あいつら、うちの村の娘達を!」

「待った待った! そんなひょろひょろ状態で出ていって、どうするつもり!? ここは任せて!」


 ユゼおばあちゃんとジデジルに捕まえた人達を預けて、面倒だから取り立て? の人達に強化版浄化を一発!


 一瞬光り輝いた彼等に、村の人達が驚いているけれど、本当の驚きはこれからだ。


 先程まで偉そうに取り立てていた二人組が、いきなりその場で両手と膝をつき、泣き出した。


「うわああああああ。俺だって、本当はこんな事やりたくないんだ! でも、やらないと出世出来ないし、出世出来ないとあの子と結婚出来ないし!」

「神様、ごめんなさい! 手軽に金儲け出来ると思って、悪いと知りつつこの仕事に就きましたあああああ」


 ……改心したのはいいけど、何と言うか、ね。


 とりあえず、泣きじゃくる二人から剣を取り上げ、とーるくんのロープでぐるぐる巻きにしておく。予備はいつでも亜空間収納に入ってるのさ!


 それから村の中心に連れて行ってもらって、全員に軽い治癒の魔法をかけてから、ほっとくんに栄養満点のスープを出してもらう。


 長い事食べてないっていうから、いきなり固形物食べさせるのは危険だと思ったからね。内臓がしっかりしてから、おいしいものを出そう。


 村人全員にスープが行き渡り、みんなが笑顔になったところで、村の長が出てきた。


「助けてくださり、ありがとうございます」

「いえいえ。それで、彼等にも聞いたんだけど、困ってるんですよね?」

「はい……」


 長が言うには、どうも税金が上がり始めた頃に、領主が代替わりしたらしい。その情報が回ってきて少ししてから、税金が上がり始めたそうだ。


「見ての通り、ここは貧しい村です。領主様が言われるような税金を払っていては、食べるものも食べられません。領主様は、私らに死ねと言っているのでしょうか……」


 おじいさん長が涙ながらに語るのを聞いて、ジデジルが既に沸騰寸前です。


「大方私利私欲の為のみに税金を上げているのでしょう。許せません!」

「まあ、本当にここの領主がそうしてるとは限らないけど、困っている人がいる以上は、見過ごせないよね」


 といっても、下手に私達だけで首を突っ込む訳にいかないけど。だから、そういう事に詳しい領主様に連絡連絡ー。


「という訳なんです。何とかしてもらえませんか?」

『一番湯のある山の裾というと、ホーガン伯爵領か……あそこは確か、夏祭りの一件で代替わりしたばかりのはずだったが』


 夏祭りってーと、例の自白大会ですか? って事は、先代も悪いことしてたの? ホーガン伯爵って。


『しかし、おかしいな。届け出られている新当主は、まだ十三才のはずだが』


 十三!? 子供じゃん! あ、でもミシアも十三になったんだっけ? 異世界の十三才、恐るべし。


『まあ、新当主が自分で税金を上げているのか、それとも裏で糸を引いている存在がいるのか、はたまた途中で抜いている連中がいるのか。いずれにせよ、領内に問題ありとして、こちらから介入するいい口実が出来たな』


 あれ? おかしいな。何だか領主様が嬉しそうなんですけど。心なしか、黒いものがスーラさんを通して漂ってきますよ?


『サーリ、雪の中悪いんだが、依頼を受けてはくれないかな?』

「えーと、内容によります」

『そこの村同様、食べるに事欠く村が他にもあると思う。そういった村を回って、住民に食料を配布してほしいんだ。食料はこちらで用意する。行ったり来たりさせてしまうが、引き受けてはもらえないか?』

「いいです、やります」


 そういう事なら引き受けるさー。食べられなくて寒い中、倒れてそのままなんて、やだもんね。


 王宮ですぐに食料を手配するそうだから、それを受け取って各村へ配布……いっその事、ほっとくんを一台ずつ置いてくか。


 この騒動が終わったら、引き上げればいいんだし。それと、ぐるぐる巻きにした連中みたいのがまた来ないとも限らないから、護くんととーるくんを置いていこう。他の村にもね。


 さて、じゃあ王宮に行きますか。

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