第387話 男らだけの一番湯

 無事砦に着いて、ほっと一息。いやあ、何だかえらく疲れたわ……


 角塔から、ジデジルが出てきた。


「お帰りなさいませ、お二人とも……どうかしましたか? 酷くお疲れのようですが……」

「ああ、うん。ちょっとね……あ、ジデジル、ユゼおばあちゃんいる?」

「はい、居間でお茶を飲んでいらっしゃいます」

「そっか」


 んじゃ、二人一緒に伝えておこう。角塔に入って居間に行くと、ユゼおばあちゃんがお茶を飲んでいた。


「あら、お帰りなさい。まあ、疲れた顔をして。王宮で、何かあったの?」

「それが……」


 思わずじいちゃんと顔を見合わせつつ、神子だとバレた事を伝えた。


「そう。大変だったわね」

「そのメヴィアンとかいうのは、どういった人物なんですか?」


 いたわってくれるユゼおばあちゃんと、怒るジデジル。


 どうやら、ジデジルは私の意思ではなく神子だと知られた事、それを口にした元凶おじさんに対して怒ってるらしい。


「じいちゃんの弟子って言ってたけど……」

「学園の生徒と言っておったが、あの学園、そこそこ人数多かったから、いちいち顔も名前も覚えとらんよ」


 学園かあ。南ラウェニアには、いくつか魔法を教える学校があって、中でもローデンにあった王立魔法学園は有名な学校だった。


 何でかっていうと、じいちゃんが教師として在籍していたから。有名な分人気も高く、入学を希望する学生は毎年多数。


 学園の規模も年々拡大していって、私がこの世界に来た辺りでは、もう全学年合わせて三千人以上という規模。


 その中の一人を憶えていろと言われてもねえ。いくら成績優秀者とはいえ、そうそう記憶には残らないでしょうよ。


「そうですか。学園の一卒業生の分際で、神子様の素性を話すとは。私自ら躾け直してあげましょう」


 いや待って。何を持って躾け直しって事になるの。大体、おじさんの方がジデジルよりも年上だよ。


 そりゃ空気読まずにペロッとこっちの事を口にしたのは許せないけど。でもジデジルとあのおじさんを一緒にするのは、ヤバい気がする。


「あの元凶おじさん、気質がジデジルと同じだから近づかない方がいいよ」

「え?」

「まあ、厄介ねえ」

「あの」

「そう言いつつ、こっちを見て笑うのは何故かのう? 婆さん」

「それって」

「あらあら、年のせいかしら? 目が悪くなっているようよ、爺さん」

「待って」


 ジデジル、諦めなさい。あんたのストーカー気質を、ここにいる全員が理解してるから。


 そして、同じ気質持ちのあの元凶おじさん、近いうちにこの砦に辿り着きそうな気がする。


「じいちゃん、あのおじさん、そのうち砦に来るんじゃない?」

「そんときゃお主の護くんで捕縛すればええ」


 いいんだ、その扱いで。一応、魔法士として国の役に立つかもしれないのに。


「いいんじゃ。あやつ一人分くらい、わしの土人形でどうとでもするわい」


 じいちゃん、わかる。わかるよ! ちょっとの労力を割いてでも、ストーカーは遠ざけたいよね!?


 ジデジルの場合は、こっちの許容量を測る能力が高いから、本当に逃げ出すような事はしないんだけど、あのおじさんには無理そうだし。


 自分の欲全開で突撃してきそう。まあ、そうなったら護くん達に頑張ってもらおうかな。


「そうだ、近いうちにジジ様達と温泉行く事になったんだ。二人も一緒に行かない?」

「あら、素敵ねえ。是非ご一緒したいわ」

「私もです」


 よし、同行者二人ゲット。じいちゃんは?


「わしは一番湯に行ってくるわい」


 さすがに女性だけの中には入りたくないらしい。一番湯にもほっとくんやスペンサーさん、あらいさんを置いてあるから、問題ないでしょ。




 冬は、王宮も暇になるらしい。絨毯で王宮までジジ様達を迎えに行ったら、何だか人数が増えてました。


「何故銀髪陛下達まで」

「俺たちがいたら悪いのか?」


 そうではないですけどー。一国の王が、ほいほい王宮から離れていいのかねー?


「冬は王都も雪に閉ざされるからねえ。我々も、この時期だけはゆっくり出来るんだよ」


 なるほどー。それで女性だけと思っていた温泉行きに、男性陣も参加してる訳ですか。


 領主様は夫人と一緒。それに銀髪陛下と叔父さん大公と剣持ちさんが加わっている。


「ところで、バム殿は?」

「じいちゃんなら、一人で一番湯の方に行ってますよ」

「ほう。……なら、私も一番湯の方に下ろしてはもらえんかな?」

「構いませんよ」


 絨毯なら、寄り道もおつなもの。話し合いの結果、領主様と叔父さん大公の二人が一番湯行きとなりました。


 夫人やフィアさんは一緒じゃなくていいんだ。


「たまには夫と離れて、女性だけで楽しみたいものよ」

「私は娘と一緒に過ごしたくて」


 なるほどねー。それはなんとなくわかるかも。


「銀髪陛下達は、男だらけの一番湯でなくていいんですか?」

「何だそれは。……前は四番湯だったから、今回は五番湯を楽しみたいんだ」

「私は陛下の護衛ですから」


 女性だけの中に、男が二人。結構きついと思うけどなあ。まあ、五番湯なら浴室自体も小分けにされてるから、問題ないか。

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