第386話 丸く収まった

 その後も二人に絡まれる……なんて事はなく、問題は元凶おじさんとじいちゃんに移った。


 いや、元凶おじさんがうるさくてさ……今もギャンギャンとじいちゃんとやり合っているんだけど、その内容が何かずれてるような。


「な、何故ですかお師匠様! 私はお師匠様に会えると思ったからこそ、北の果てのこの国まで来たというのに!」

「いや、わし、今はサーリのところの居候じゃからの」

「誰ですか!? そのサーリとかいう不届き者は!」

「ほれ、そこにいるじゃろうが」

「え? 神子様?」


 元凶おじさんがこっちを見ながら眼鏡をくいっと押し上げる。そのままずいっと近づいてきた。


「神子様、常々申し上げようと思っていましたが、いくら神子とはいえ、賢者様に対して馴れ馴れしすぎやしませんか?」

「はい?」

「じいちゃんなどと軽々しく呼び、今も居候だなどと。あなたの方から賢者様に住まいを提供してどうぞおくつろぎくださいと申すべきでしょう!」


 えー……何この人ー。ジデジルだってこんな事言わないよー。彼女はじいちゃんの事、ちゃんと賢者として敬ってるから。


 助け船を出してくれたのは、領主様だった。


「メヴィアン師。それ以上神子様に迷惑をかけるようなら、即刻国外退去してもらうぞ」

「それは困ります! お師匠様がこの国にいる以上、私もこの国にいなくては。神子様、謝罪いたします」

「はあ」


 何と言う手のひら返し。さすがの領主様も、ちょっと頭を抱えている。


「ともかく、我が国に滞在したければ、二人に迷惑をかけないように」

「失敬な! 神子様はともかく、私が賢者様に迷惑をかけるなど――」

「今現在、十分迷惑じゃぞ?」

「そ、そんな……」


 神子はともかくって何ー。まあ、別に元凶おじさんに特別待遇をしてほしい訳じゃないけど。出来れば絡んでこないでほしいだけだし。


「理解出来たかな? メヴィアン師。貴殿の実力はよく知っているので、我が国の為に働くというのであれば、それなりの待遇を約束しよう。そうでないのなら――」

「いいでしょう。この国にいる為なら、このメヴィアンの才能を提供しようではありませんか!」

「ではあちらで詳しい話を」

「え? いや、私はこれからお師匠様と――」

「さあさあ」

「ま、待ってくれえええええ」


 元凶おじさんは、無事領主様にドナドナされていきました。仔牛ほど可愛くないし、可哀想でもないけど。


「何だか、疲れたねえ」


 叔父さん大公の一言に、その場の全員が無言で頷きましたとも。




 場所を移して奥宮。ただいまミシアがジジ様に私が神子だったって事を報告しております。


「酷いと思わなくて? お婆さま。サーリったらずっと黙っていたのよ?」

「それは仕方ないでしょう? 彼女には彼女の事情というものがあるのだから」

「……お婆さまは、サーリが大事な事を黙っていた事に、お怒りにならないの?」

「この年になるとね、些細な事でいちいち怒っていられないものよ。あなたも遠い未来にわかるようになるでしょう」


 さすがジジ様。言葉に重みがありますなあ。そして、これにてダガードの偉い人達の一部に、私が神子だって事がバレましたー。


 でも、思っていたよりも対応が変わらなかったので、いいのかな? ミシアが怒っているのも、私が神子だって事より、黙っていた事に対してみたいだしねえ。


「サーリ」

「はい」

「あなたはこのまま、一庶民としての生活を望みますか?」

「はい」


 ジジ様からの問いに、即答する。悩む必要なんてない。北のこの国に来たのは、まさしくそういう生活をしたいと思ったからだもん。


 ジジ様は深く頷いた。


「わかりました。あなたの生活を脅かさない事は、私が保証しましょう。いいですね? カイド」

「……わかっております」

「まあ、何をふてくされているのやら」

「カイド兄様は、私と同じでサーリに神子だって教えてもらえなかったから、拗ねていらっしゃるのよ」


 え? そうなの? でもなー。領主様にすら教えなかったんだから、銀髪陛下に教える訳ないよねー。


 まさか、そこに気づいてないとか、ないよね?


 当人は、ミシアの言葉に反論はせずに「違う」と小さく言っただけ。いや、その態度は肯定と取られますよー。現にミシアはほら見ろと言わんばかりだ。


 でもまあ、これで隠し事がなくなったので少し気が楽になったかなー。平穏な生活はジジ様が保証してくれたし。


 やっぱジジ様最強ー。




 一応、奥宮の三人の侍女様方にも情報共有がなされるみたい。ただ、やはりあのジジ様に仕える侍女様方。動じてなかったわー。


 私がこれからも変わらずあの砦で暮らす事、ジジ様に呼ばれたらいつでも奥宮に来る事などを約束した。


「良かったわ」

「これで温泉は安泰ですね!」

「そろそろ入りたいと思っていたのよ」


 あ、温泉っすね。お任せあれ。ジジ様に確認したら、五番湯に行きたいそうなので、日程を整えてお迎えに来る事が決定ー。


 フィアさんも行きたがっているので、ついでに連れて行く事になった。彼女は病み上がりだからね。温泉で体を癒やすといいですよ。


 依頼も終わったし、イレギュラーなあれこれも終わったので、じいちゃんと帰りまーす。


 あ、ミシアは置いて行っていいんだった。そう言ったらふてくされてたんだけど、何で?

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