第385話 重いー

 室内はしんと静まりかえっている。みんなの視線が、私に集中していた。


「え……と……」


 言葉が出ない。ここでおろおろすると疑われるだけってわかってるんだけど、でも誤魔化すいい言葉が思いつかない。


「メヴィアン、それは本当か? 嘘偽りを言う事は許さんぞ?」

「我が師への思いにかけて、嘘など申しませんとも」


 銀髪陛下の問いに答えるメヴィアン師の返答が、何か変じゃね? 呆然としていたら、またしても爆弾投下。


「私は他者の魔力を色で見分ける事が出来ます。神子様の魔力は目に痛い程輝いているので、見間違いなど有り得ません。それに、我が師を『じいちゃん』などと呼ぶのは、憶えている限り神子様だけです」


 色々な点からバレてました。つか、魔力を色で見分けるって、かなりレアなスキルだな!


 心なしか、領主様と叔父さん大公の目に、哀れみの色がにじんでいるんですけど。何で?


『彼等二人は、神子の素性に気づいていた可能性が高いです』


 そういや、じいちゃんもそんな事言っていたっけ。あー、折角この国にも慣れたと思ってたのになー。


 砦持って、向こうの大陸にトンズラするか。


『その決断は、少し待ってはどうでしょう?』


 どうして?


『今後の展開次第では、今までと同じように暮らせる可能性があります』


 ……そうかな。この世界……っていうか、この大陸の人達って、神子って存在を人間とは思っていないんじゃないかって思う。


 私は地球の日本からいきなり連れてこられたただの人間だよ。そりゃちょっと他の人とは違う魔法の使い方をするけどさ。


 魔法も、本当は魔力とは違う力を使ってるって話だ。だから目に痛いって事?


 ぐるぐる考えていたら、元凶のおじさんがイラッとした様子で言った。


「ともかく、神子様はどうでもいいのです。早く我が師に合わせて頂きたい」


 どうでもいいんだったら、何でバラすかなあ!? ちょっと身体強化かけて、ぶっ飛ばしてもいいですかねえ?


 さすがの銀髪陛下も、元凶おじさんの言葉には面食らっていたみたいだけど、領主様に何事か小声で囁いて、元凶おじさんに向き直った。


「とりあえず、賢者殿には連絡しよう。お前が本当に賢者殿の弟子であるなら、当人がこちらに来るだろう」


 領主様は、いつの間にか部屋から消えていた。この部屋でスーラさんを使わなかったのは、元凶おじさんに見せない為かな。


「何と! 我が師と連絡を取る手段があるのですか!? 今すぐ、今すぐ問い合わせてください!!」


 ……何だろう、この元凶おじさん見ていたら、誰かを思い出したよ? 砦にもいるよね? こんなテンションの人。


 もしかして、この元凶おじさんはジデジルと同類?




 重苦しい空気の中、結局来る事になったじいちゃんを待っている。空気が重いのは、銀髪陛下とミシアのせいかなー。


 二人からの圧のある視線にも、そろそろ耐えられなくなりそう……


 そんな大変嫌ーな空気の中、じいちゃん到着。


「ほ? こりゃまたどうした事かのう?」

「じいちゃあああああん!」


 助かったー。地獄に仏とはこの事。ソファからはねる勢いで立ち上がってタックル。じいちゃんがちゃんと受け止めてくれて良かった。


「何じゃ、子供のように。して、何があったのかの?」

「お師匠様! お久しぶりです!!」

「……はて? どちらさんかのう?」


 あ、元凶おじさんの眼鏡にヒビが入った。ように見える。




「ふうむ、そうか、学園の出身者とはのう」

「そうです! 私はお師匠様の講座を受講していて、成績では一番だったではありませんか!」

「あの講座、人数が多くてのう。直弟子ならばまだしも、学園関係の生徒一人一人までは憶えとらんよ」

「そ……そんな……」


 ちなみに、じいちゃんの直弟子と呼べる人は、大体がもうかなりの高齢なんだよね。あ、私とミシアはピチピチです。


 元凶おじさんは、その場に手を突いてしまってる。そんなにショックだったんだ。ミシアが直弟子って知ったら、この人どうなるんだろう。


「……何だか、どこかで見た事があるような光景じゃな」

「うん、私もそう思った」


 やっぱり、ジデジルと同じ属性だよなあ。じいちゃんと二人でこそこそ離していたら、銀髪陛下が睨んでくる。


「それで? サーリが神子だというのは、本当の事なのか?」


 じいちゃんがちらりと私を見てくる。私は、未だに床に手を突いてうなだれている元凶おじさんをちらっと見た。


 これだけで大体を把握してくれるじいちゃん、大好き。


「……この者とどこかで会ったかの?」

「憶えてない。魔力の色が見えるんだって、このおじさん」

「ふむ。珍しい能力ではあるが、ない訳ではない力じゃな。それでお主の色を見分けた訳か。一方的に見て知っていたんじゃろ」


 あー。神子として人前に出る事はそれなりにあったからねえ。どっかで見られて魔力の色を憶えられていたって訳か。


 今度から偽装する時は、その辺りも考えないとなー。


「その様子からすると、本当なんだな?」

「だったら、どうしますかの?」

「……わからない」


 あれ? 銀髪陛下の事だから、国を挙げて神子として優遇するーくらい言うかと思ったのに。


「俺の立場で言うべき事ではないが、こいつを神子として遇するのが正しいのかどうか、判断出来ない。それよりも……」


 ちらりとこちらを見た。あれ? 何か、拗ねてる?


「今まで黙っていた事の方が腹立たしい。お前、以前俺が聞いた時、誤魔化したよな?」

「ナンノコトデショー」

「とぼけるな。……まあ、あの場で言えなかったのは、わかる。だが、その後でも言う機会はあったんじゃないか?」


 いやだって、バラすつもりなかったし。


「そうよね。私は砦にいるんだから、いつでも言えたと思うんだけど」


 ミシアまでー。人には言いたくない事も言えない事もあるんだよー。

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