第384話 まさかこんなところで
北国ダガードの冬は、雪雪雪雨雪雪曇り雪雪雪ちょっと晴れって感じ。
「今日も雪だねー」
最近は朝の空の散歩がなかなか厳しい事になってる。いっそ雪雲の上に出ちゃえばいいんだろうけど、そうするとそこらを縄張りにする魔獣に出くわすというね。
今のところ、ほうきだけでなく二匹の周囲にも結界を張っている。でも、最近二人がその結界を鬱陶しいって言うんだよね。
やっぱり、風を受けて飛びたいらしい。何とか出来ないかなー。
「砦の周りはかなり積もってるわ」
「んじゃ後で処理しておこうっと」
「あ、私がやる!」
ミシアもそろそろ、術式を使う修業になってきてるらしい。積もった雪の処理は、炎か熱系の術式を使う。
特に砦の壁は頑丈だから、ちょっと出力間違えてもどうにかなるし、実践には丁度いいかもね。
砦は至って平和。今でも偶に侵入しようとする連中がいるけれど、護くんに捕縛されてデンセット送りにされるから、問題なし。
もう面倒なので、送るまでを自動で行うように設定してある。一度ローメニカさんに話を通しておいたし、問題なし。
凍った湖から侵入しようとしたのもいたけど、結果は同じ。護くんに死角はないのだ。何せ複数台で死角を潰し合ってるからねー。
そんな平穏な砦に、ちょっとした依頼の通話が入った。
「王宮までの移動を、絨毯で?」
『そうなんだよ。この雪だろう? そりで行こうにも、馬が足を取られてしまってねえ。それに時間もかかるし』
通話の相手は叔父さん大公。検索先生が通話を通したという事は、この依頼は受けておけという事なんだろう。
「わかりました。すぐに行きますか?」
『いや、出発は三日後で頼むよ。それと、ミシアも一緒に連れてきてくれないか?』
フィアさんが娘に会いたくなったのかな? それか、行き先が王宮だから、ジジ様と会わせたいとか。
どちらでもいっか。親が娘と会いたがるのは、多分普通の事なんだろうし。うちは親が普通じゃなかったから、そこんところがよくわかんない。
雪処理から戻ったミシアに伝え、三日後に大公領に行く事が決定。今回は叔父さん大公夫妻を王宮に送り届けるだけだから、ミシアと私だけで行く。
そして、三日なんてあっという間に過ぎた。まだ暗い早朝の時間帯に、ミシアと二人で乗った絨毯で、大公領に到着する。
「やあ、久しぶりだね」
「ご無沙汰してます」
「元気にしていたかしら? ミシアは迷惑をかけたりしていない?」
「お母様、酷い」
そんな挨拶が飛び交い、和やかな空気のまま空へ。一番大きな絨毯で来たから、四人乗ってもまだ余る。
今回空を行くので、護衛の兵士達は全員置いて行くんだそうだ。まあ、さすがに全員乗せるまではスペースないからね。
絨毯で飛ぶ高度なら、魔獣もいないし。普通の鳥はいるけれど、結界を二重三重に張ってぶつからないように気をつけている。
大公領から王宮までは、大体四時間くらいと思ってる。雪のない道を馬車で行けば、三日以上はかかるっていうから、大分短縮出来てるでしょ。
道中は親子の会話で賑やかだ。やっぱり離れて暮らす娘の事が心配みたい。それに、ちゃんと魔法修行出来てるかも。
「大丈夫ですよ。ここ最近は実践的な修行もやってますし」
「というと?」
「砦の周辺に雪が積もってるんですが、それを魔法で溶かすんです。数日前から、ミシアがその担当になりました」
「本当かい? ミシア」
「ええ、本当よお父様」
炎とか熱系の術式って、攻撃に転じやすいものだから割と重宝されるんだ。魔獣相手でも、火を使える魔法士は人気だっていうし。
ただ、その分戦争となると確実に前線にかり出される魔法士でもあるらしい。この辺りは、じいちゃん情報。
でも、今のところダガードが余所の国と戦争するって話はないみたいだから、大丈夫じゃないかな。というか、そう思いたい。
王宮までの空の旅の途中で日の出を見て、ちょっと軽食をつまんで、おしゃべりして。なかなか楽しい時間でした。
王宮では、表の中庭に下りる。これは叔父さん大公からの指示。
「あの通話機は本当に便利だねえ。ジンドとも楽に話し合えるよ」
はっはっは。スーラさんを使って今日の事も決まったらしいしね。便利に使ってもらえれば、いいんじゃないかな。
中庭に三人を下ろしたらお役御免と思ったら、そのまま出迎えに出てきた領主様に捕まり王宮の中へ。
「いや、珍しい人物が来ていてね。サーリにも引き合わせようかと」
珍しい人物? 何でそんな人を、私に引き合わせるんだか。何かちょっと、嫌な予感。
『嫌な予感程、当たると言いますよね』
ここでそれ言いますか!? 検索先生! てか、嫌な相手だっていうのなら、逃げていいですかね?
……先生からの反応なし。最近、都合が悪くなると黙る事が増えた気がしますよ。
連れて行かれた先は、銀髪陛下の執務室かと思いきや、公的な応接室だって。応接室に、公的や私的があるんだ。さすが王族。
その公的応接室には、既に先客がいた。眼鏡をかけた痩せぎすの、神経質そうな中年の男性。
あれ? 何かどっかで見たような気が……
「ああ、来たようだ」
「ご無沙汰いたしております、陛下」
公的な場という事で、叔父さん大公が臣下として国王である銀髪陛下に礼を執る。親族でも、そういうけじめは必要なんだろうな。
でも、それが気に食わないって、銀髪陛下の顔におっきく書いてあるよ。領主様が咳払いする程。
「陛下、客人を殿下方にご紹介してもよろしいですか?」
「許す」
「ありがとうございます。殿下、こちらは南方からいらっしゃった魔法士でメヴィアン師です。メヴィアン師、こちらがツエズディーロ大公ナバル殿下ですよ」
「お目にかかれました事、光栄です」
メヴィアン師と紹介された男性は、無礼にならない程度に素っ気ない態度で叔父さん大公に挨拶する。
「それと、こちらが我が国の魔法士のサーリ。今は私の領の街であるデンセットで冒険者をやっている」
「冒険者? はて……」
メヴィアン師が何やら首をひねっている。でも、視線はこっちに固定したまま。
名前に覚えはないんだけど、見覚えがあるって事は、どっかで会ってると思う。でも、誰だったか思い出せないんだよなー。
内心首をひねっていたら、領主様から声がかかった。
「サーリ、引き合わせて早々悪いが、メヴィアン師を砦に連れて行ってくれないか?」
「はへ? な、何でですか?」
「実は、彼は賢者殿に会いに来たというのだよ」
「え? じいちゃんに?」
じいちゃんの知り合い? 魔法士っていうから、単純に賢者に憧れて、って線もあるか。
じいちゃんって、あれでいて魔法士の世界では有名人だから。
でもなあ、いきなり砦に連れていくのは……ん? 何か、あのメヴィアン師って人から、妙な視線を感じる。
こう、じーっと見られてるんだけど。
「メヴィアン、いくら同じ魔法士とはいえ、年若い娘をそんなにじろじろ見るのは不躾だぞ」
お、珍しく銀髪陛下がまともな事言った。でも、メヴィアン師は不思議そうな顔で銀髪陛下に言い放った。
「いえ、どうして神子様があのような格好をしているのか、不思議でして」
バラしたあああああ!!
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