第383話 アップルならぬリーユパイ

 結局ユゼおばあちゃん達の話でお腹いっぱいになっちゃったから、昼食時に私の方の話は出来なかった。


「ユゼおばあちゃん、さすがだね」

「聖地の女帝と呼ばれておったのを思い出したわい」


 そんな呼び名があったの? 知らなかった……私が知ってるユゼおばあちゃんは、いつものニコニコ顔で聖地の奥にいる姿だから。


「そういや、手紙でジデジルを馬車馬のように使い潰せとか書いてきたっけ……」

「その程度、まだ可愛いもんじゃったな……」

「そうだね……」


 まあ、色々理由付けてサボろうとした人達が悪いって事で。真面目な人達もいたみたいだし、そういう人達に頑張ってもらいましょう。


 聖職者に関しては、一回聖地に神罰が下っているので、余程の事がない限りいい加減な仕事はしなくなったみたい。


 今大聖堂建設地にいる人達は、ユゼおばあちゃんが太鼓判を押すくらい真面目で有能な人達らしいから、問題ないだろうし。


 そういえば、この国でもピンポイントで神罰落ちてるね……


『強制改心を食らった連中は、現在戒律が大変厳しいとされる修道院で、自ら進んで厳しい修行に明け暮れているようです』


 そうなんだ。これまで悪い事をしてきたんだから、しっかり反省してもらいたいね。


「ミシアや、午後は自習にするから、しっかり修業するんじゃぞ」

「はーい」


 残っていたミシアも、じいちゃんから自習を言い渡されて自室へと引き上げた。


「さて、港街で何があったんじゃ?」


 ありがと、じいちゃん。こうして聞いてくれる場を作ってくれるのも、じいちゃんの優しさだ。


「実はね……」


 私は今建設中の新しい港街での事を、話し始めた。


「という訳で、神子とバレたら問題かなーって。砦持って逃げるのはいいんだけど、ユゼおばあちゃんはまだしも、ミシアもジデジルも置いて行く事になるしさ」

「ふうむ。その程度なら、誤魔化せるんじゃないかのう」

「へ?」

「要は、収納量がおかしいという事じゃろう? 収納の術式は、魔力に依存する事が多い。そして、魔力は親族間で似る事が多いという。お主はわしの孫娘という事になっとるから、わしの魔力量に似たと言い逃れられるじゃろ」

「おおー。じいちゃん冴えてる!」

「伊達に長くは生きておらんわい」


 頼れるうー。




 とりあえずの悩み事が消えたから、心が軽くなった。後はあの港街が完成して、航海に出るだけだね。


 しばらくは依頼もないし、採取もない。あら、暇だわ。


「よし、久しぶりにお菓子を作ろう」


 でも、冬定番のチョコレートはないんだよなあ。早くカカオを探しに行きたい。


 少量なら魔法で作る事も可能だけど、やっぱり天然ものがいいよね。


 他に冬の定番といえば……あ。


「アップルパイ!」


 とはいえ、リンゴはないんだっけ。でも、似たような果物のリーユがあるから、いけるいける。


 酸味が少なくて甘みが強いリーユだけど、そこはレモン汁で何とかなるでしょ。レモンは温室で少しだけ栽培してるから。


 そういえば、温室の果物も増えたね。ミカンも植えたし梨、柿、他に栗も植えた。


 定番ケーキだから、ほっとくんにレシピが登録してあるんだけど、お菓子って作るのが楽しいところもあると思うんだ。


 もちろん、食べるのも楽しいけど。


「うーんと、あ、収納内のパイ生地が切れてた」


 仕方ない。生地から作るか。あと、下に敷くスポンジも焼いておこう。


 まずはパイ生地作ってー、生地を休ませてる間にスポンジの生地作ってー、焼いてる間にパイ生地を折り込んでー、リンゴ代わりのリーユも煮ておかなきゃ。


 下に敷くのはスポンジ以外にカスタードクリームやクッキー生地でもいいんだよねー。


 バニラが手に入ったら、絶対カスタードクリームでリベンジする。


 全部が出来上がったら、いよいよ組み立て……じゃなくて、型に敷き込むぞー。


 まずパイ生地、それから三枚に切ったスポンジ、その上に煮たリーユをたっぷりと。


 上からパイ生地をリボン状にしたものを編むようにおいて、縁にも綺麗に敷いて出来上がり。


 最後に焼き目が綺麗に付くように、溶き卵を刷毛で塗ってオーブンへ。これで焼き上がりまで待てばいい。


 ふと外を見るともう真っ暗。パイ作りに夢中になっていて、お茶の時間をすっ飛ばしちゃった。


 ユゼおばあちゃんとジデジルは、最近建設地の方でお茶の時間を過ごすらしいから、お茶菓子と一緒にポットとカップを渡してある。


 じいちゃんとミシアには、悪い事したなあ。その分、夕飯にちょっと色つけようか。


 といっても、今日は作り置きだけどねー。お、パイが焼けるいい匂い。


 焼きたてを今夜のデザートにしようっと。

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