第381話 そろそろ慣れそう
筋肉隆々の料理長に案内された先には、凄い数の食料棚。じいちゃん、頑張ったんだね……
「辺境伯閣下に依頼されて、料理作ってこの中に入れてったはいいけどよ。この数の棚、どうやって運び出すんだ?」
「問題ないでーす」
綺麗に並んでいた棚を、一瞬でその場から消す。いや、本当に消した訳じゃなくて、亜空間収納に入れただけ。
それでも、料理長達は顎が外れそうになってる。まあ、初めて見る人はそうなるよね。
「何度見てもでたらめだな」
失礼だな。南じゃあ割と使われている術式なのに。もっとも、普通の人の収納魔法って、容量限界が割と小さいし、時間停止もないけど。
簡単に作ってるけど、さっきの食料棚だって、じいちゃんじゃなかったら到底作れない代物なんだから。
運ぶものをしまい終えたので、とっとと港街へと出立。何故か厨房の料理人達が大勢ついてきて、表の中庭から飛び立つのを見送ってくれた。
王都から建設中の港街まで、馬車を使って急いで六日、早馬なら頑張って二日ってところ。
でもほうきなら、一時間かからずに到着するんだなあ。かなり飛ばすけど。
雪がどかどか降る中、猛スピードで飛んでいくほうき。これがそりなら、もうちょっと違うかな。地球のクリスマスには、まだかなりあるけど。
港街が見えてきた。……のはいいんだけど、土人形達、動いてない?
『動いていますね』
雪の時くらい休もうよ。まあ、ゼヘトさんが頑張り屋って事なんだろうけど。
……そういや、届ける食料って、船大工達の分じゃなかったっけ? って事は、船もずっと造り続けてるの? この雪の中を?
街中に下りると、前回見た時よりかなり変わってる。建物の数が増えてるし、舗装された道路が伸びてるよ。
周囲を見回しても、土人形だけでゼヘトさんの姿が見当たらない。どこにいるんだろう?
『マップで確認する事をお勧めします』
そうだった。改めて確認すると、建物の中にいるらしい。すぐそこだね。扉をノックすると、少しして中からゼヘトさんが出てきた。
「おや、君はいつぞやの」
「ちわーっす。お届け物でーす」
「え? ああ、とにかく中に入って、外は寒いだろう」
結界張ってるので、寒くないよー。でも、これは言わない方がいいんだろうな。
中は暖炉に火が入っていて、とても暖かそうだ。
「それで? 届け物と言っていたが」
「王宮から、料理のお届けですよー」
「そうか。そろそろ備蓄が底をつきそうで困っていたんだ。閣下が手配してくださったんだな」
この新しい港街、領主様も関わってるけど、国の主導なんだよね。つまり、国家事業。
その割には、何だかあちこちずさんじゃないかなあ。衛兵すら置いてないし。
まあ、今は護くんを配置しているから、人間であれ魔獣であれ入る事は出来ないけど。
「そういえば、雪なのにお仕事続けてるんですね。こういう天気の時は、休むものだと思ってました」
「いやあ、それが……」
ちょっと照れた様子でゼヘトさんが言うには、土人形達があっという間に街を造っていくのが楽しくて、止めどころを見逃していたらしい。
完成予定は来年の春だし、まだまだ余裕はあるそうな。
「あまりにも楽しいから、ついやっちゃったってとこですか?」
「そ、そんな感じ、かな」
ああ、魔法士ってこのタイプ多いよね。仕事が面白過ぎて、ついやり過ぎるってやつ。
じいちゃんも、ああ見えて研究に熱中し出すと周りが見えなくなるんだよねー。そういう時は、私が止める。
そして私が暴走してる時は、じいちゃんが止めてくれる。お互い様なのだ。
街の方はそれでいいとして、船の方は大丈夫なんだろうか。雪が降る中、作業を続けてるのかな。
「ゼヘトさん、船大工さん達の方はどうですか?」
「ああ、向こうは心配いらないよ。賢者様が立派な屋根付きの建物を作ってくださったからね」
何ですとー!? じいちゃん、いつの間に……
ゼヘトさんに案内されて、造船所のエリアへ移動する。
「結界というのは、凄いものだね……」
「まあ、便利ですよ」
二人まとめて結界で覆っているので、寒さも雪も問題ない。足下に積もった雪も、結界に阻まれるので靴が濡れる心配もなし。
もっとも、街中の雪に関しては、土人形達がせっせと除雪してるけど。あ、よく見たら屋根の雪も落としてる。
土人形、働き者だね。
造船所に着くと、確かに大きな建物。あれ? これ素材は普通の木材?
『そこに、魔法処理を施して耐久精度を上げているようです』
防腐や防汚処理も施されてるね。じいちゃんは仕事が細かい。私はそういうのが苦手だから、いい素材を使うのだ。
自分で取ってくるんだから、いいんだもーん。
入り口には、いつぞや襲撃者を押し込めた建物の入り口を見張っていた人達と同様、がっしりした体格のおじさんが二人。
……今日の天気、雪だよね? 今も結構どかどか降ってるよね?
なのに何で、二人はノースリーブなの? しかも、何か肌から湯気が上がってるんですけど?
「やあ、お疲れ様」
「お、ゼヘトさんじゃねえか。そっちの女の子は、誰だい? 姪っ子さんか何かか?」
「違うよ。ほら、前に街におかしな連中が来ていただろう? あの連中を捕まえてくれた冒険者だよ」
「え?」
おじさん達二人が、驚きに固まっている。もう、こういう反応にもそろそろ慣れてきたよ……
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