第380話 冬の依頼

 ポイント間移動をミシアにばらしたおかげで、活動範囲が広がった。もう見られたって大丈夫だもんね。


「だからといって、サーリは使いすぎじゃない?」

「え? だって、何も問題ないよ?」

「そうなの? ならいいのかしら……」


 何だかまだブツブツ言っているよ、ミシアったら。本当に問題があったら、検索先生に止められてるはずだって。




 本格的な冬に入ったら、本当に毎日のように砦の周囲は吹雪いている。これじゃ外に出られないね。


「ダガードの人って、こんなに毎日吹雪で生活出来るの?」

「冬になる前に、しっかり支度をするから問題ないって聞くわよ? 我が家でも、冬の前には保存食作りが大変だったし」


 大変って、お姫様のミシアはやらないでしょうに。と思ったら、なんと叔父さん大公の意向で、保存食は一通り作れるんだって。マジで?


「さすがに解体は見学だけだったけど、お肉を切って塩に漬けたり燻製にするまではやった事あるわよ? お魚は捌いたことがあるし、野菜の酢漬けも最初から最後までやったもの」


 冬の国のお姫様は、なかなかタフなようです。肉類は塩漬けや燻製に、魚も捌いて燻製に、野菜は酢漬けや塩漬けにして保存するそうな。


 それで一冬食料を買わずに過ごすんだって。どこの街でも、冬には店も閉まるそうな。


「そういえば、砦では何も支度をしていないわね。大丈夫?」

「食料に関しては、問題ないからね。畑にはまだ野菜があるし、肉も収納にたくさん入ってるから」


 あっちこっちで狩った魔獣の肉とか、入ってるからねー。あ、カエルは全て買い取りに出したので、余ってません。


「いざとなったら、南の方に買い物に行ってもいいしさ」

「ああ……空を飛べるって、便利よねえ。私も早く自分だけで飛べるようになりたいわ」


 ふっふっふ。空を飛ぶのはまだまだ君には早いよ。




 スーラさんを渡した領主様から、メールが来た。


「おりょ? 何だろ」


 砦の外は、今日はドカ雪。後で壁の外に溜まった雪を溶かしておかなきゃ。


 メールを読むと、何やら依頼があった。


「えーと、例の港街まで食料を運んでほしい?」


 どういう事? もしかして、あの街今でも作業を進めているのかな?


 折り返しでその辺りをメールで訊ねたら、通話で返ってきた。


『いちいち文章を打つのが面倒でね』


 あー、その気持ちはちょっとわかります。


「それで、食料の運搬ってありましたけど」

『ああ、あの街にいる船大工達に、食料を届けてほしいんだよ。食料というか、料理だね』


 はて、それだと毎日のように配達って事?


『料理は以前バム殿に作ってもらった食料棚に入れてある。それを運んでほしいんだ』


 あー、なるほど。あの中に入れておけば、腐らないし温度も落ちない。だから棚ごと運んでくれ、と。


 はて、でもあの棚、容量に上限があった気がするんだけど。


「食料棚って、入れられる量が限られてましたよね?」

『数を揃えてもらったからね。で、それに目一杯詰め込んだから、多分冬の間分くらいはもつはずだ』


 じいちゃん、いつの間に……まあ、最近は別行動をする事も多かったからね。


 それに、あれは船に乗せる前提で開発したもの。船が出来上がる前に必要数を揃えるのは当たり前か。


「わかりました。いつ棚を取りに伺えばいいですか?」

『今すぐ頼むよ』


 そりゃまた急な話だね。




 領主様がいるのは王宮で、そっちに来て欲しいという依頼。食料棚自体は、王宮の厨房に並んでるんだってさ。


 表の中庭に下りるよう指示が出ていたので、今日はそっち。お? 何か見覚えのある人が二人……


「遅いぞ」

「いやいやいや、十分早いですよ。今日、雪降ってるんですから」


 眉間に皺を寄せる銀髪陛下と、その後ろで苦い顔をして銀髪陛下を見ている剣持ちさん。


「早く入れ。外は寒い」


 寒いって、そんな豪勢な毛皮の外套着てるのに? まあ、確かに私のいつもの格好だと、見ているだけで寒いか。


 ほうきに乗っている時も今も、結界で全身を包んでいるから、寒くないんだけどね。


 何故かそのまま、銀髪陛下が先導して王宮の中を歩く。


 あれー? 今回の依頼、領主様からじゃなかったっけ?


 さすがは王宮に住んでる人、迷いもなく進んで行く。でも、食料棚がある場所って、王宮の厨房じゃなかったっけ? 王様が知ってるの?


 疑問に思いつつもついていくと、本当に厨房に出た。王宮の地下一階……というか、半地下? な場所に、凄く広くて天井の高い厨房がある。


 へー。ここで料理を作ってるんだー。何度か王宮にお泊まりしたから、おいしい料理が出てくる事は知ってるけど、どこで作ってるかまでは知らなかった。


 きょろきょろ辺りを見回す私を置いて、銀髪陛下は厨房の入り口から少し入ったところにいる人に声をかけた。


「料理長はどこだ?」

「お待ちを。料理長ー! 陛下がおいでですよー!」


 え? そんなんでいいの? 普通、こういう場所って高貴な身分の人達って、来る事ないんじゃないの?


 奥の方から、大柄な人がのっしのっしと歩いてきた。あの人が、料理長? 何か、軍にでもいたほうが似合いそうな筋肉だよ?


「こりゃカイド様。またつまみ食いですかな?」

「違う! ……例の食料棚を運ぶ人間を連れてきた」


 銀髪陛下、つまみ食いって……人の仕事の邪魔しちゃだめですよ?


 料理長は銀髪陛下の言葉を聞くと、目を丸くして驚いている。


「この嬢ちゃんがか? 雪は厄介だぞ? 本当に大丈夫かい?」

「平気ですよ。空を行きますから」


 地道に街道を行くなんて、するはずがない。亜空間収納に食料棚を入れたら、ほうきでひとっ飛びだ。

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