第379話 内緒の話
なんだかんだで、ダガードで過ごす初めての冬です。
「寒ー!」
砦の外は、猛吹雪。壁の内側は気温が制御されているのでそこまで寒くないし、風も入ってこない雪も入らないのでいいんだが。
ちょっとした好奇心で門から一歩外に出たら、もの凄い寒さだった。ダメだこれ。ほんの少しの時間でも耐えられない。
「サーリは何をしているの?」
角塔の前で、ミシアが不思議そうに門から戻ってきた私を見ていた。
「ちょっと、外の寒さを体感してみようかと」
「何でそんな事をするの?」
ミシアの、バカなの? と言いたげな表情に、返す言葉もございません。
日本でも豪雪地帯の様子とか、毎年テレビで見ていたけどさ、関東の平野部に住んでいたから、雪とか縁がなかったんだよ。
風は凄い吹くけどね。冬は本当、風が強くて困った。
「去年はダガードにいなかったから、今年がこの国で過ごす初めての冬だからさー」
「だからって、そんな薄着で外に出るなんて。死ぬわよ?」
さらっと怖い事言わないで。でも、ミシアは大公家のお姫様だけど、さすが北の国育ちなだけあって、防寒に関する心構えが私とは違う。
まあ、いざとなったら結界張って温度調節するけどね。
「いやあ、北の冬がこんなに寒いとは」
角塔の居間で熱いお茶を啜りながら、しみじみ呟く。そんな私に、ミシアが呆れた声を出した。
「何を当たり前の事を言ってるの」
「えー? だって、今までこんな寒い場所にいた事ないからさあ」
「そういえば、サーリは余所の国の人なのよねえ」
余所の国どころか、余所の世界の人間でーす。
「まあ、ここは北でも特に雪深いと言われておるからのう」
そうなんだ。それは知らなかった。てかじいちゃん、いつの間にそんな情報仕入れてたの?
「お主が作ったこれじゃよ」
「あ、スマホもどき」
あれからあれこれ試行錯誤して作ったスマホもどきは、既に配るべき人に全部配っている。
一応、個別の番号で識別出来るので、直接かけて通話が可能。結局メール機能は全員分に付けたよ。
砦以外からの通話に関しては、実は検索先生によるフィルタリングがなされてる。時間帯とか、かけてきた人とかでね。
たまに領主様や銀髪陛下から一言メモみたいなメールが届く。どうも、練習中らしいんだ。お互いに送り合えるんだから、お互いで練習しなよって思うんだけど。間違ってないよね?
ちなみに、私のが一番グレードが高くて、次にじいちゃん。なので、じいちゃんのスマホもどきには、検索機能がついている。
もちろん、検索先生経由なので、多分調べられない事はないんじゃないかな。
これ、領主様や銀髪陛下達につけなかったのは、下手すると他国の内情まで検索できるから。それはダメでしょ。
その点、じいちゃんなら政治や戦争には絶対使わないのがわかっているからね。
しかし、これもいつまでもスマホもどきと呼ぶのも面倒だなー。何かいい名前、ないものか。
うーん、護くんシリーズのように、人の名前っぽく聞こえる方がいいかな。でもあれ、ほっとくんだけ鬼子状態なんだよね……
スマホもどきでスー……やべ、これはダメなやつ。うーん。もどきって英語でライクとも言うのか。
じゃあ、スマライかスーラ。後者の方が外国の女性っぽいかも。じゃあスーラさんで。
「決定。スマホもどきは以降スーラさんと呼びます」
宣言したら、居間にいるみんなが微妙な顔でこっちを見た。いーじゃんよ! こっちにスマホはないんだし! 新しい呼び方作ったって!
さすがに吹雪の中だから、大聖堂建設は止まっている。これだけの悪天候の中で作業を進めたら、人死にが出かねないからね。
なので、ユゼおばあちゃんもジデジルも一日砦にいます。それなら、温泉にでも行こうか。
「ポイント間移動をミシアに見せるのは、感心せんぞ?」
うーん、とすると、絨毯で? まあ、結界張るし、絨毯でも問題なく行き来出来るからいんだけど。
ポイント間移動、そろそろミシアには見せて口止めしておきたいんだよなあ。
「先生とサーリが、二人で何かこそこそやってるんですけど」
「あまり首を突っ込んではいけませんよ、ミシア」
「そうですよ、ミシアさん。あの二人の事に首を突っ込むと、普通の人は後悔しますから」
ちょっとジデジル。それどういう意味? そしてミシア、そこで納得して頷かないの!
「そんな事言ってると、ジデジルとミシアだけ砦に置いて行くよ?」
「置いて行くって、どこへ行く気? この吹雪の中を」
「ふっふっふ、温泉に決まってます。寒いからこそ、温かい温泉に入るのですよ!」
「それはいいけど、砦の中は壁の向こうに比べれば、十分暖かいと思うわよ?」
もー! ああ言えばこう言う! 温泉行きたくないの!? 行く気があるなら黙ってましょうね。
「ところで、ミシア」
「なあに?」
「約束は守れる?」
「サーリとの? もちろんよ」
「ジジ様にも領主様にも、もちろん銀髪陛下やご両親にも内緒だよ?」
「いいわよ。でも、そんなに隠す事って、何?」
「これから見せるから」
ユゼおばあちゃんとジデジルがちょっと心配そうにしてたけど、じいちゃんが何やら小声で囁いて押さえてくれた。
「では、ちょっと目を瞑ってくれる?」
「ええ。これでいい?」
「いいよー」
では、ポイント間移動!
各温泉施設には、砦メンバーの着替えがある程度置いてあるので、手ぶらでいっても問題なし。
タオルなんかも各建物専用のものが置いてある。あらいさんも何台か置いてあるので、洗い替えも問題なし。
そして、今日来たのは一番湯。やはり雪といえばここでしょう。こっちは山の中なのに、吹雪いてなくてしんしんと雪が降っている。
「ミシア、もう目を開けていいよー」
「……え? ええええええ!?」
さすがに、さっきまで砦にいたのに、目を閉じて開けたら温泉でした、はびっくりするよねー。
約束だから、誰にも内緒だよ?
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