第373話 思い出したー
とりあえず、護くんにはそのままお姉さんの監視を続行してもらう。映像を見た私達は、お互いに顔を見合わせていた。
「あの貴婦人の狙いは、港建設計画を頓挫させる事かのう」
「もしくは、この国の利益になる事を壊したいのかもしれないわね」
「それは、国家反逆罪に相当しませんか? ユゼ様」
じいちゃん、ユゼおばあちゃん、ジデジルの言葉はもっともだ。
「とりあえず、相手が貴族っぽいから、ここから先は領主様にお願いしようか」
「その方がええじゃろう」
よし、じゃあ領主様に追加で手紙を書こうか。ついでに、この証拠映像を送りつけちゃえ。
手紙を開封したら、自動的に映像が始まるように組み込んで……っと。よし、これでいいや。
後は本文を書き込んで送ればいい。映像ファイルを添付したメールみたいなものだ。
それを領主様宛に送って、後は結果待ち。さて、どうなるかなー。
結果は、翌日朝一に来た。一文が書かれた手紙が、領主様から届いたんだけど。
「すぐに王宮まで来られたし?」
これだけ? まあ、昨日送った映像に関する事だろうから、行くけどさ。
朝食後、大聖堂建設地へ向かうユゼおばあちゃんとジデジルを見送ってから、じいちゃんに一言入れてほうきで王都へ。
今回は王宮まで行くから、いつものように奥宮の中庭に下りようかな。あれ? 表の方の中庭の方がいいのかな。
ちょっと悩んだけど、すぐ王都に着いたので、奥宮の中庭に下りる。こっちの方が慣れてるから。
奥宮の中庭に下りたはいいけど、そういえば、私ここから一人で表に行った事、ないんじゃなかったっけ?
あったとしても、もう行き方忘れてる……
「どうしよう……」
中庭に立ち尽くしていたら、聞き慣れた声がした。
「サーリではないの。どうしたの?」
「あ、ヤーニ様」
ジジ様の侍女様の一人、ヤーニ様だ。どうやら、偶然通りがかったらしい。
「今日はあなたが来る予定がないから、驚いたわ。ジジ様にご用なの?」
「いえ、それが……」
「陛下か、コーキアン辺境伯閣下に?」
「です」
「お二人のところには、一人で行けて?」
ヤーニ様の確認に、首をぶんぶんと振る。いや本当、ここでヤーニ様に見つけてもらえて助かった。
クスクスと笑うヤーニ様に連れられて、表へ向かう。途中、表と奥宮との境辺りで、こちらに走ってくる人影が見えた。
あ、剣持ちさん。
「ああ、フェリファー卿ね。ここからは、彼に案内してもらうといいわ。あなたを迎えに来たのでしょう。フェリファー卿! 廊下は走らない!」
「も、申し訳ありません」
ヤーニ様に怒られた剣持ちさんは、その場で止まって謝罪した。王宮も、廊下は走っちゃいけないのかー。
「では私はこれで、フェリファー卿、後はよろしく」
「承りました。いくぞ」
「はーい。ヤーニ様、ありがとうございました」
「いいのよ。ではね」
微笑みつつ優雅に立ち去るヤーニ様に、頭を下げる。んで剣持ちさんに向き直ったら、凄い睨まれた。
「どうして奥宮に下りるんだ? 表に下りろ表に!」
「ええー」
だってー、誰かが迎えに出てくれるなんて、思わなかったし。奥宮の方が使い慣れてるから。
そこからは不機嫌全開の剣持ちさんに連れられて、領主様の元へ。というか、ここって銀髪陛下の執務室だっけ。
「連れて参りました」
「ご苦労」
奥の大きな机に銀髪陛下、その脇に領主様が立ってる。二人とも、厳しい顔つきだ。
もしかして、あの映像って問題があった?
「ジンド、人払いを」
「はい」
領主様がちらりと目配せすると、室内にいた他の人達が静かに退室していく。
「サーリ、声が漏れない結界を張ってくれるかい?」
「はい」
遮音の結界を張ると、領主様に促されてソファに腰を下ろした。
「手紙を開けたらいきなり不思議な光景が見えてね。驚いたよ」
あれー? 砦で映像は見た事なかったっけ? ……そっちじゃなくて、手紙を開けたらいきなり始まった事に驚いたのか。
でも、他にスイッチが思いつかなくてさ。今後、要改良だね。
「まあ、それはさておき。あの光景は、間違いではないね?」
「はい。何度でも繰り返し見る事が出来ますよ」
「そうか……あれを、他に多くの人間が集まった場所で、披露する事は出来るかい?」
「出来ます」
ただなあ。こっちでは映像ってまだ知られてないから、証拠として使えるかどうか、ちょっと怪しいんだよね。
それを伝えると、領主様がにやりと笑った。
「いいんだよ、別に。有罪に持ち込めなくとも、相手の評判を落とす事は出来る」
「貴族家当主が評判を落とせば、個人ではなく家そのもの評判が落ちる。それも、数代に渡ってだ」
銀髪陛下の言葉が重い。つまり、あの貴婦人は貴族家の当主で、その評判を落とそうって訳かー。二人とも、やり方がエグい。
でも、あのままだったらゼヘトさんに実害が出ていただろうし、何より港建設の計画がパーになるところだったもんなあ。
ま、悪い事企んだ人が悪いって事で。
「あ、そういえば」
「何だ?」
「あの貴婦人って、誰だったんですか?」
そこ大事。私の疑問に、銀髪陛下は妙な表情で領主様を見ている。
「こいつは知らなかったのか?」
「そうでしょうね。サーリは我が国の貴族事情には明るくありませんから」
「それもそうか」
……いや、確かにその通りなんだけど、なんか引っかかるなあ。それで、あの女の人は誰なのさ。
「あれはネフォウス伯爵夫人だ」
「伯爵夫人? じゃあ、当主じゃないんじゃ……」
「あの家は夫人が実権を握っている。しかも、隣国出身であちらとの繋がりが強固だ」
あれ? どっかで聞いた事があるぞ? んー、あ、そーだ。
「お嬢様の群れに関わってた家だ!」
領主様が盛大に吹いた。
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