第372話 お姉さんの行き先
無事仕立てのいい服の男も捕縛完了。何も疑わずに森の仮小屋に入るんだもん。警戒心なさすぎ。
あとはここにいる連中、まとめて領主様が送ってくる衛兵に引き渡せば一応完了。
さて、お姉さんの方はどうしたかな?
『馬車を急がせているところです。めぼしい街も素通りしている事から、やはり王都が目的地かと』
んー、って事は黒幕は王都にいるって事かなー。一回強めの浄化で綺麗にしたばっかりだってのに。
瘴気は綺麗に消えたから、それに引っ張られるタイプの人はもう悪さしないだろうけど、罪悪感を持たないタイプ、もしくはそれが必要と思ってるタイプには、浄化での改心は見込めないらしいんだよね。
あれか、サイコパスと確信犯には効きづらいって事か。
しばらく待っていると、街の外に配置した護くんからお知らせが来た。
『騎馬の一団が向かってきます』
映像で確認したところ、そろいの制服に身を包んだ衛兵達だ。彼等は通してよし。捕縛しちゃダメだからね。
衛兵の一団が建設途中の街に入ってきた。まっすぐこっちに向かってくるのは……あ、護くんが先導してる。
驚かないのかな……
「コーキアン辺境伯閣下からの命令で、こちらに捕らえられている不審者を引き取りに来た」
「この建屋の中ですよー」
一団の偉い人らしき人が、一枚の紙をぺらっと出した。見ると、領主様のサイン入り命令書。
「それと、サーリというのは貴殿か?」
「へ? あ、はい。そうですが……」
「これを。閣下からお預かりしてきた。必ず本人に渡すようにと」
何だろ。手紙? 開けて中を読むと、彼等が本当に自分が送った衛兵達である事、不審者は全員引き渡してもらえれば、後はこちらで処理するとの事。
処理!? 何か、怖いワードがあるんですが……これは、あれだよね? 牢屋に入れるとか、そういう事だよね?
『そうでない場合も有り得るかと』
やめてー。怖いからやめてー。未だに人が死ぬのはどうにも無理。甘ちゃんと言われるんだろうけど、死ぬなら私の見えないところでって思う。
騎馬の一団は最後尾に運搬用の荷馬車も用意してきたらしく、ここから王都まで彼等を運ぶらしいよ。うわー、大変だ。お疲れ様です。
あ、襲撃してきた連中は、護くんのロープでぐるぐる巻きのまま荷馬車に乗せられてたよ。本当に荷物みたい。
あれ、下の人苦しいだろうなあ。見ないでおこ。
衛兵団を見送って、ここでの問題は一件落着。後はお姉さんの黒幕が誰かを調べて、領主様に報告すればいいや。
貴族の問題は、貴族に任せる。いや、まだそうだと決まった訳じゃないけど、多分そうでしょ、ここの邪魔をするのは。
商人は、大半が歓迎してるんだって。そりゃそうだ。儲け話に繋がるもんね。大きな商会を持ってる商人であればあるほど、歓迎ムードらしいよ。
だから、邪魔をするなら貴族かな。でも、国益に繋がるかもしれないプロジェクトなのに、どうして邪魔するかな。
とりあえず、手紙で領主様に港街の警護は固めた事、実行犯とそこに指令を出していた人物は衛兵に引き渡した事、指令を出していた人物とはなしていた お姉さんの行方を引き続き追ってる事を手紙に書いて送る。
さて、これで砦に帰れる。あとはお姉さんが誰に会うか、何を話すかを護くん越しに確認すればいいや。
ちゃんと音声付きで録画もしているので、証拠にもなるでしょ。
お姉さんが王都に到着したのは、砦に帰った翌々日の事。結構時間かかったねえ。
お姉さんにつけた護くんから、連絡がきた。ちょうどお昼を食べ終わって、後片付けしてるところ。
砦にもほっとくんを置いたので、食器をテーブルからほっとくんのお腹に放り込むだけなんだけどね。
後は内部で洗浄・浄化・修復を行ってくれるから、手間いらず。なので、ささっと終えてダイニングの椅子に座る。
まだじいちゃんもユゼおばあちゃん達もいるから、みんなで見てみよう。
「ほう。これが港建設の邪魔をしてきた女かの」
「うん、そうなんだ。現場に直接行く相手に、黒幕からの命令を伝える役目みたい」
「随分と用心深い相手じゃな」
だよねー。でも、その用心も魔法の前には無駄なのだ。
映像の中では、やっぱり貴族の屋敷らしき廊下を歩くお姉さんの後ろ姿が映っている。
「でも、これ面白いわね。本当にその場で見ているみたいだわ」
でしょでしょ? ユゼおばあちゃんも、この映像が気に入ったらしい。
「それにしても、この廊下はどこなんでしょう? 様式的に、少し古いようですが」
ジデジルが言うように、今お姉さんが歩いている屋敷の建築様式は、ちょっと前に流行ったものらしい。
まあ、貴族の屋敷なんてそんな簡単に建て直したりはしないんだろうけど。
映像の中のお姉さんは、一つの扉の前で止まった。
『私です』
『……入りなさい』
あれ? 中から聞こえた声、これ、女性の声? お姉さんが扉を開いたその先には、重厚な調度品が並ぶ部屋がある。
そして、大きな三人掛けのソファに優雅に腰掛けているのは、やっぱり女性だった。
目元がきつい感じの、結構な美人。身につけているものも、お金がかかってそう。見るからに、貴婦人って感じだ。
お姉さんは部屋に入っても立ったままで、貴婦人に礼を執る。それから、口を開いた。
『あちらの方は、手を打って参りました』
『そう』
『ですが、少し時間がかかりそうです』
『何故?』
『魔法士が関わっています』
『どれくらい?』
『一人です』
『……それなのに、時間がかかるの?』
怪訝な顔をした貴婦人に、お姉さんは怯まない。
『魔法士は一人ですが、後ろに賢者が控えているようです』
『そう』
お姉さんの言葉に、貴婦人は納得したような、していないような。しばらく考え込んだ後、貴婦人はお姉さんに指令出した。
『ともかく、あの港の計画が潰れればいいわ。どんな手を使ってもいいから、必ず潰しなさい』
『承りました』
言い終えたお姉さんは、来た経路を戻っていく。あの貴婦人が、黒幕って事?
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