第371話 とりあえずぐるぐる巻き

「あの男、たいした魔力は持っていないはずよ?」

「だが、大量の土で出来た人形のようなものを扱っていたというぞ」

「土人形? 賢者までいるの? この国。色々情報が遅れてるわ」


 うーん、土人形でじいちゃんを連想する辺り、じいちゃんそのものを知ってるって事かな。


 賢者イコールじいちゃんは、南ラウェニアでは知られてるけど、土人形からじいちゃんを連想するのは、普通の人じゃない。


 魔法に深く関わっている人か、もしくは国の上層に食い込んでいる人か。どっちだろう。


 どっちにしても、あのお姉さんは南の人だ。


「まあいいわ。私はあちらに報告してくるから。あんたはちゃんと結果を出してね」

「わかってる……だが、魔法士相手にどうしたもんか」

「魔法士は一人なんだから、数を増やして襲えば大丈夫よ。ごろつき程度、いくらでも雇えるでしょ?」


 じゃあね、と言い置いて、お姉さんが部屋を出て行く。実は男の人が入るのに合わせて、私も部屋の中に入ってたんだよねー。


 で、今度はお姉さんに合わせて、部屋を出る。でも、男の人よりこのお姉さんの方が鋭いらしい。


 部屋を出てすぐ、廊下でこっちをじっと見るからバレたかと思ったよ。首を傾げて階段を下りていったから、気のせいとでも思ってくれたみたい。


 ふー、助かった。それにしても、二手に分かれちゃったなあ。


『こちらには護くんを監視モードにして置いて行ってはどうでしょう? 女性の方は追いかける事を推奨します』


 そっか。護くんにはあれこれ便利機能を組み込んでいるから、監視モードにしておけば姿も消せるし、相手の動きをカメラで撮影しておける。


 じゃ、あのお姉さんの方を追いかけようか。


 お姉さんの格好、よく見たら普通に裕福な店の奥さんって感じだ。その彼女は、二人乗りの一頭立て馬車に乗り込んで、宿場町を後にする。


 このままついていけば、黒幕のところまで案内してくれるかな? この辺りの街道はろくに整備されていないみたいで、馬車もスピードを上げられないみたい。


 結構のろのろで進んで行く馬車は、日が落ちる前にある街に入った。さっきの宿場町よりは大きいけど、デンセットよりは小さい。


 ここは単純に宿泊目的で入ったみたい。宿屋に入って食事して、そのまま寝ちゃった。


 一応監視役の護くんを置いて、私も砦に帰ろうっと。




 護くんに監視してもらってるから、お姉さんがどっかに到着するまではそのままでいっか。それに気づいたのは、翌日の朝でした……


 とりあえず、お姉さんが誰かに会ったら、その場でカメラを回すように護くんに命令を出して、後は砦でのんびり……じゃないよ。港街に行かなきゃ。


 また今日もあの襲撃者達が来る可能性があるし、ゼヘトさんにも事情を説明しておかないと。


 あと、中間報告を領主様に手紙でしておこうかな。ありのままを書いて、飛ばしておく。


 いい加減返信用の封筒を同封するのが面倒だから、いくつかまとめて渡しておこうかな。


 それとも、通信機器みたいなのを渡した方がいい?


『今のスタイルの方が、面倒がなくていいかと思いますが』


 そうなの? ……言われてみれば、そうか。簡単に連絡が取れるって事は、簡単にあれこれ依頼されるって事だもんね。


 ダガードは好きだし、ジジ様も好き。領主様や銀髪陛下は……腹黒だったり我が儘だったりするけど、嫌いじゃないよ。


 でも、いいように使われるのは、やっぱりちょっとなあ。ギブアンドテイクが出来る関係性が一番だと思うんだ。


 使われるだけ、使うだけは嫌。権力持っている人達に頼らざるを得ない事も、これから出てくるかもしれないからさ。


 一応、恩は売っておいて、でもいいなりにはならない。そんな関係が一番かな。




 港街では、ゼヘトさんが土人形達を操って街を造ってる最中だった。


「こんにちはー」

「おお、あんたは昨日の」


 はーい、そうでーす。この港街の問題を解決するよう依頼された冒険者でーす。


 って言おうとしたら、口にする前に焦った様子のゼヘトさんにまくし立てられた。


「街の外にぐるぐる巻きにされた男達が転がされてるんだよ。あれ、毎度襲ってきた連中だよな!? あれ、あんたがやったのか!?」


 うん、まずは落ち着こうか。


「そうだけど、その連中は今どこに? 一応、領主様からひとまとめにしておいてほしいって言われてるんだけど」


 ついさっき、手紙の返事が届きましたよ。それによると、引き取り手を送るからしばらく監禁しておいてほしいってさ。


 それを伝えると、ゼヘトさんは頷いた。


「今のところ、街の外で縛り上げられていた連中は一カ所に放り込んであるんだ。船大工のみんなが手伝ってくれてな」

「そうなんですね。じゃあ、そのままでいいかな。あ、一応監視はつけておいた方が――」

「それも、問題ない。船大工達が交代で見張りを申し出てくれてるんだ」


 え? 大丈夫なの? だって、普通に大工やってる人達でしょ? 護くんの捕縛術からは逃れられないと思うけど、万が一って事もある。


 そう言ったら、ゼヘトさんが笑って襲撃者達が放り込まれている建屋に案内してくれた。


 ……何? あの入り口に立つ生きた仁王像。


「あそこで見張りをしてくれているのが、船大工だよ。他の連中も似たり寄ったりでね」


 船大工、恐るべし。筋骨隆々で、格闘家って言っても通りそうだよ。んじゃこっちは大丈夫そうかな。


 そうこうしていたら、仮小屋にいた仕立てのいい服を着た男につけていた護くんから連絡。あの森の中の小屋に、その男が入ったらしい。


 ついでだから、あの男も捕縛して一緒に放り込んでおこっか。

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