第370話 予備はあるよ
しばらく上から見ていて、攻撃している人達が疲れるまで待った。いや、何かあの中に下りていっても、興奮させるだけかなーと思って。
やっと何かおかしいと思い始めた人達が、お互いに話し合ってる。これで引いてくれれば、あの魔法士の人に話を聞けるんだけどなあ。
「憶えてやがれ!」
お、捨て台詞を吐いて、攻撃側がその場を離れた。よし、今のうち。
「こんにちはー」
「うお!? な、何だ!?」
あー、やっぱり驚かせちゃったか。魔法士を覆っている結界の中に、ほうきで下りて彼の真ん前にいきなり現れたからね。
「えーと、ここで起こってる騒動を治める為に、デンセットから来ました」
「デンセット? って事は、閣下から話を聞いたのか」
うーん、話を聞いたんじゃなく、依頼を受けたんだけど。しかも、指名依頼。
領主様、ここが面倒臭くなってるってわかってて、私に依頼したな? 相変わらず腹黒いんだから。
でもまあ、ここの計画が潰れると、向こうの大陸との交易が出来なくなる可能性が高いので、何とかする。
まずは、目の前にいる魔法士に事情を聞かないと。
「えーとですね。領主様から依頼は受けましたが、具体的にここで何が起こっているかまでは知らないんです。なので、教えてほしいんですけど。さっきの人達、どうしてあなたを攻撃していたんですか?」
「それが……」
何でも、数日前からあの連中が街に来て、邪魔ばかりするらしい。最初は作ったばかりの建物を壊そうとしてたんだけど、作るそばから壊れにくくする術式を組み込むようにしたから、一向に壊されなかったんだって。
何をやっても壊せないとわかった連中は、今度は造船所を狙った。でも、そっちは船大工達が一歩も現場に踏み込ませなかったらしく、襲った連中が逆に追いかけられる始末だったそうな。
最初の建物への攻撃の時点で領主様に報告していたそうだけど、ここからだとどうしても日数がかかる。
で、やっと領主様が事態を把握して私に依頼したって事らしい。タイムラグの間にも、今度は魔法士自身を狙って攻撃してくるようになったんだとか。
それに関しては、土人形達が彼を守っていたらしい。偉いな、君達。護くんみたいに警護専門じゃないのに。
魔法士が言うには、一定の時間が経つと、さっきみたいに集団で帰って行くんだって。まあ、暴れすぎると近くの街から衛兵を呼ばれちゃうからね。
つか、領主様も最初からちゃんと衛兵を置いておいてよ。
「それで彼等って、どこの人?」
「それもわからないんだ。この街は新しく造っている最中だから、元から住んでいる住人はいないし、造船所の船大工達も知らない顔らしい」
街自体や建物、港なんかを造るのは全て土人形だけ。だから、目の前の魔法士……名前、何だっけ?
『ゼヘトです』
そんな名前だったんだ。その、ゼヘトさんが一人いれば事は足りるらしい。なので、他の人足とかはいらないし、いないはずなんだけど。
ちょっと、おかしくね?
『まずは街の護りを固めましょう。護くんを配置して、余所者が入れないようにします。もちろん、ゼヘト自身にも護くんを付けます。それと、先程の連中がこの街から離れて、近くの森に入っていくようです』
まだ造ってる最中の街だから、壁とかも後回しなんだね。よし、護くんはいつ必要になるかわからないから、予備をたくさん用意しておいたから、それを出そう。
「な、何だこれは?」
「これは護くんといって、街とあなたを護ってくれます。浮いて自分で動くので、放っておいて大丈夫」
「そう……なのか?」
ゼヘトさんは恐る恐る護くんをつついてるけど、下手な事をすると攻撃と見なして反撃されるよ?
そう言ったら、慌てて指を引っ込めてた。街の周囲にも、等間隔に護くんを配置。一応、敵に対してはデストロイはやめて捕縛オンリーに設定。
まだ、相手がどんな存在かわかんないからねー。
さて、次は逃げた連中だな。そっちは検索先生に頼めば居場所がわかるから、面倒はなし。
『森の中に、簡易の小屋を建てて、そこで寝泊まりしているようです』
計画的だね。って事は、この港建設を邪魔したい勢がちょっかいかけてるって事かな?
よーし、じゃあ森の中に踏み込もうか!
ただいま、森の中の簡易小屋の前に来ております。中からは、何やら声が聞こえてくるのですが。
『馬鹿者! またしても失敗しおって!』
『も、申し訳ありません!』
『ですが、あの魔法士、妙な技ばっかり使って、こっちの攻撃が通らないんですよ……』
『言い訳はいらん! そこを工夫するのがお前らの仕事だろうが!』
『すみません……』
あらー? 何やらとーっても怪しい雰囲気ー。
『いいか? このまま成果を出せないままだったら、あの方からどんなお叱りがあるか。わかっているな?』
『は、はい!』
『次に来る時までに、結果を出せ。いいな?』
『はい……』
む、誰か出てくるよ。結界で姿は見えないし、気配も消えるようにしてあるので、向こうからは見えない。
でも、こっちからは見えるんだなー。小屋から出て来たのは、そこそこいい仕立ての服を着た四十がらみの男性。
見た事ない顔だわ。誰だろ?
『後を付ければわかると思います』
ですよねー。って事で、ほうきで男を追跡! 向こうは森の中に隠してあった馬に乗り込んで走り出した。
そのまま後を付いていくと、休憩を挟みつつ三時間ちょっと走ってある街に辿り着いた。小さな宿場町って感じ。
ここが、目的地? 男は寂れた感じの宿屋に入り、カウンターに小声で何かを言って二階に向かう。
ここで、誰かと落ち合うとか?
「待たせたな」
「遅かったわね」
え? 女の人? しかも若くて美人。ボンキュッボンのスタイル抜群。
「で? 現場はどうなっているの?」
「あの魔法士、思っていたよりも腕がいいらしい」
「ゼヘトが? おかしいわね……そんな話、聞いていないけど」
あのお姉さん、ゼヘトさんの事、知ってる?
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