第369話 囲まれてるー
ダガードの秋は本当に短い。あっという間に風が冷たくなってきた。
「寒ー」
砦から一歩でも出ると、寒風が吹きすさぶ。うう、デンセットに買い物に行くのも、億劫になりそう。
でも、ミルクや卵は買いに行かないと手に入らないからなー。いっそ砦で牛飼う? 鶏も飼う? 世話はじいちゃんの土人形にお任せで!
ちょっと本気で考えよう。どっちも料理にもお菓子にも使うからね……
震えながら街に到着したら、またしても門番さんが走って行く。呼び止めた方がいいかな……ま、いっか。
大通りを市場目指して歩いて行く。あ、ローメニカさんが来た。
「サーリ!」
「ローメニカさん、こんにちはー。今日は買い物に来ただけですよー」
「そう、じゃあちょっと寄っていきましょうか」
あれー? 今日は組合に来た訳じゃないって、言ったのにー。
いつも通りフォックさんの部屋まで連れてこられたら、いつにも増して渋い顔をしたフォックさんが待ち構えてた。
「……どうかしたんですか? 凄い渋い顔」
「ほっとけ。いや、俺の顔の事はいいんだよ。ちょっと、問題が起こってな……」
嫌な予感。これ、逃げた方がよくね?
「建造中の船の事は、聞いてるか?」
逃げられなかったー。てか、船? 私のは、亜空間収納内で検索先生が建造中だけど。
『もうじき完成します』
あ、そうなんですね。ありがとうございます。
建造中の船って、じゃあ領主様が中心になって造らせてるやつかー。
「船がどう問題になってるんですか?」
「建造現場で騒動があってな。作業が止まっちまってるらしい」
うわあ。何があったか知らないけど、船の建造がストップって、ヤバくね? この船は、国が主導する他大陸との交易の為のものだから、それがストップとか、国のメンツを潰しかねないよ。
「それ、現場に行って何があったのか見てこいってやつですか?」
「いや、解決してこいってやつだ」
もっと面倒な話ー!
「依頼主、誰ですか?」
「……この船の建造話、知ってるんだろ?」
うん、知ってる。っていうか、焚きつけたの、私。
領主様すっ飛ばして銀髪陛下からの依頼かよー!!
「まあ、一応ジンド様から指名依頼って形で、サーリに来てるんだよ」
「あうう」
「で、これが届いたのが本当についさっきでな! いやあ、いい時に来てくれたよ」
そう言って笑うフォックさんの手には、領主様のサイン入りの依頼書。何か、普通の依頼よりも高そうな紙に書いてあるんですけどー。
はー。船が出来ないと向こうの大陸との交易が出来ないし、そうなると砂糖を安価に手に入れる事が出来なくてジジ様が怒るんだろうなあ。
それだけでなく、バニラやカカオを手に入れる可能性が低くなる。となれば、やるしかないでしょう。
「わかりました、行ってきますよ」
「おお! そうか! やってくれるか!!」
最近温泉の整備ばっかりやってたからね。たまには冒険者らしい事もしないと。
あ。
「それで、場所はどこなんですか?」
何で二人して信じられないって顔でこっちを見るのさ。
交易用の船を造ってるのは、デンセットから北東に進んだ港街。というか、今回の交易計画の為に急遽造った街らしいよ。
ダガードの北側は海岸線が広がってるんだけど、小さな漁村が殆どで、後は崖が連なってるだけ。
その崖の中でも、比較的低めのところに港と造船所を造ったそうな。てか、あるものを使った訳じゃないんだ……
崖を切り開いて港を造り、造船所を作り、街を造る。結構大変な工事だったんじゃないのかなあ。
あの後、しっかり買い物をしてからほうきで飛んで来た。馬でも二日はかかるとか言われたけど、空ならあっという間だよ。
ほうきで上から見ると、もうかなり出来上がってる。街の区画も、計画的に造られているせいか、整っていてとても綺麗。道幅も広いわ。
んで、ほうきの上から見ていると、どっかで見た事があるようなものが動いている。
んん? あれ、じいちゃんの土人形じゃね? もしかして、ここの建設に協力してたの?
いつの間に。
ほうきの上で呆然としていたら、下の方で何やら騒ぎが。下からはほうきは見えないから、私が原因ではないはず。
下を見ると、土人形に囲まれた人が、何やら詰め寄られている。
あれ? あの人、どっかで見た事があるような……
『マクリアの親を一撃で倒した魔法士ですね』
あー!! あの瘴気まみれで魔力が一時的に上がっていた人!? そういえば、あの後領主様の元に引き取られたんだっけ。
ここで働いていたのか。てか、あの土人形達を動かしてるの、あの人なんだ。
そういえば、あのダイヤモンド鉱山で土人形を動かしてる人、元気かな。あの人、転生者だって検索先生が言っていたっけ。
その後、話を聞く時間もなかったから、確認のしようもなかったけど。
っと、今はそんな事考えてる場合じゃない。下の人、ちょっと分が悪いわ。いくら土人形に守らせてるとはいえ、多勢に無勢。
しかも、魔法士の人は攻撃しないように気をつけてるのに、囲んでる方は武器っぽいものを手に持って振りかざしてる。
ダメでしょ、それは。土人形を含めた範囲に、防御結界を張る。振りかざしたツルハシだかスコップだかが弾かれて、振り下ろした人が尻餅ついた。
それに怒った人達が一斉に攻撃をするけど、見えない壁に阻まれて攻撃が通らない。それにまた怒ってる。
いい加減、諦めようよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます