第366話 ダメだからね!
翌日一番湯から順にあらいさんを設置していく。今のところ、四番湯以外は無人だから、あらいさんの出番はない。
各温泉の周辺は、護くんととーるくんがしっかり警護してくれてるし、盗賊その他が入り込む隙はない。ありがとう、護くん、とーるくん。
さて、次は四番湯だけど、あの二人湯あたりとかしてないかな。
「ちわーす。あらいさんのお届けでーす」
入り口で声をかけてみるけど、聞こえないっぽい。あ、ここの男性用あらいさん、いつ置こう……
「来ていたのか」
あら、剣持ちさんに見つかっちゃった。って、声かけたんだから、当然だわな。
「ちわーす。あらいさんのお届けでーす。今、銀髪陛下って温泉に入ってる?」
「アライサン? 何だそれは。陛下は先程まで入浴されていたが、今は休憩中だ」
「じゃあ今は誰もいませんねー」
ちゃちゃっと置いて来ちゃおう。やっぱり脱衣所に置くのがいいよね。丁度良いスペースがあったから、そこに設置。ふう、ミッションコンプリート。
さて帰ろうと思ったんだけど、そういえばあらいさんの説明、しておかなきゃね。
四番湯の主な休憩場所は中庭だ。覗くと、やっぱりあの二人がいる。あれ? 銀髪陛下、具合悪そうじゃね?
「こんちはー」
「ああ、お前か……」
剣持ちさんの方にそっと近寄って、こそっと囁く。
「銀髪陛下、何か具合悪そうなんですけど?」
「夕べも少し調子を崩されてな……やはり、お疲れが溜まっているのだろうか」
銀髪陛下の顔が赤い。ぐったりしてるその様子から、のぼせたんじゃないかと思うんだけど。
ちょっと鑑定。
『状態 のぼせ』
やっぱり。
「水分補給水分補給」
あと、のぼせには何が効いたっけ。
『高温の湯に長時間入らない事が肝心です』
それは予防策ですねー。そういえば、この二人だけで温泉に入らせるのって、初めてか。
銀髪陛下に冷たいレモン水を渡し、全部飲むよう伝える。
「これからは、長時間お湯につかりっぱなしてはダメです。今日みたいに具合悪くなりますからね。こまめに湯船から出て、水分補給をしてください」
「そうすれば、こうはならないのか……?」
「多分防げます」
さすがに浴場に給水用の何かを置く訳にはいかないよなあ……ほっとくんの小型で、飲み物専用のものを置いておこうか。
グラスとワンセットで、ほっとくん内部に洗浄浄化補修機能も付けておけば、グラスの交換や補給はいらなくなるし。
いやあ、結構抜けが多いね。
大きなグラスに入れたレモン水を、銀髪陛下はぐいぐいと飲み干していく。やっぱり喉が渇いてたんだろうな。
「ふう……ところで」
「何です?」
「この器は、水晶か?」
「んなわけないでしょうが。ガラスですよ」
「ガラス? これが?」
……何で二人して、そんな怪訝な顔でグラスを見てるのやら。何の変哲もないガラス製の代物ですよ。ドラゴンの鱗とか、使ってないからね。
『こちらでは、まだ透明のガラスは出回ってません』
しまったああああ!
「器もそうですが、中にあるのは氷ですね。これはどこで手に入れた?」
剣持ちさんが、ぎらりとした目で睨みながら聞いてくる。
「水を凍らせて作ったんですよ。あ、魔法です」
「なるほど……」
ダガードは北国だから、冬になれば氷なんていくらでも手に入る。でも、こうやって飲み物に入れるって発想はないのかもね。
夏は短いし、その頃には大抵どこの氷も溶けてるから。
「こうも冷やせるとは、驚きだ。庶民は、井戸や川の水で果物を冷やすと聞いたが」
「そういえば、夏祭りで果物をその場で冷やしていたな」
ああ、あれですね。温い果物より、冷たい方がおいしいと思ったからさー。
そうだよ、あの時剣持ちさんはその場で見ていたじゃない。なのに氷ごときで睨んでさ。
ちょっと拗ねた目で見たら、目線を逸らされた。謝ってくれても、いいのよ?
「……この時期の氷は、王家で管理している氷室にしかないはずなんだ」
だからそこから盗んで来たとでも?
「王家の氷室なんて、場所すら知りませんけど」
「お婆さまから、聞いていないのか?」
「聞いてません。第一、氷は欲しければ作りますから」
簡単なのよ、氷作るのって。綺麗な水さえあればいいし、何なら泥水を浄化して綺麗な水を作ってもいい。
まあ、気分的によくないので、川や泉から汲んだ水を浄化するけど。生水飲むとお腹壊すからダメ、絶対。氷も多分一緒。
銀髪陛下に目で促されたからか、剣持ちさんが謝ってくれた。
「疑った事を謝罪する」
「受け入れました」
謝ってくれたら、ちゃんと許さないとね。許せない事もあるけど、このくらいなら別にいいや。
よし、じゃあこれで帰れ……ないよ! 肝心なあらいさんの説明、してないじゃん!
二人を急き立てて脱衣所へ向かい、あらいさんの使い方を説明する。といっても、衣類を入れてスイッチ一つで終了だけど。
あ、一応布類以外は入れないでね。革製品も多分出来るだろうけど、入れちゃダメ。
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