第364話 増えた……

 食い下がるローメニカさんを、当日のお楽しみですと言いくるめて、何とかデンセットから帰ってきた。


 いや、温泉って説明するより体験してもらった方が早いと思って。


「と言うわけで、砦に住んで一周年記念パーティーを開きたいと思います」


 その日の夕飯の席で発表する私に、三人はちょっとだけ驚いている。


「ほう、もうそんなになるかのう」


 そうなんだよ、やっと一年経つんだよ。時の流れは速いよね。


「あらまあ」


 ユゼおばあちゃんは、この間来たばかりだけど、砦の住人なので参加してもらいますよー。


「パーティーですか? どれくらいの人数を招くのでしょう? 砦に入りきるでしょうか」


 いや、ジデジル、あんたどんだけ呼ぶつもりでいるのよ。


「パーティーって言っても、内々でやる食事会だから。ここにいる人達以外だと、デンセットのフォックさんとローメニカさんを呼ぶくらいだよ」

「ふむ。領主殿達は招待せんのか?」

「うん。だって、相手貴族だし」


 王侯貴族は鬼門だから。……その割には、最近交流が多いよね。おかしいなあ、私は庶民のはずなんだけど。


「料理は砦用のほっとくんに任せる予定だから、準備等は特にいらないよ」


 ほっとくんは、あの後も順調にテストを重ねて、検索先生と一緒に少しずつアップデートを行っている。


 と言っても、試食を兼ねているのであんまり多くはテスト出来ていないけど。


 でも、今のところ不具合は起こしていないから、大丈夫かな。機械っぽいけど、魔法だからかも。




 パーティーの日取りも決まり、砦メンバーにも周知した。フォックさん達には、手書きの招待状を作ったので、これから持っていく。


 さーて、メニューは何にしようかなー。


 デンセットの門を潜ったら、珍しく門番さんが走っていかない。おや? 今日はローメニカさんに報せにいかなくていいんだ。


 久しぶりに一人でデンセットの大通りを歩く。いつもローメニカさんに引っ張られながらだから、ゆっくり見回すのはいつぶりくらいだろう。


 ダガードは夏祭りが終わると、短い秋を惜しむように冬支度に入る街が殆どだって話。


 デンセットも例外じゃないらしく、街は何だかせわしない空気に包まれてる。日本の年末も、こんな感じだったなあ。


 そんな街中を眺めつつ、組合に到着したら、見知らぬ職員さんに捕まってフォックさんの部屋に放り込まれた。


「あれ? 何で……」


 中にいたのは、フォックさんとローメニカさんだけでなく、領主様と銀髪陛下、剣持ちさん。


 何か、嫌な予感。


「やあサーリ。酷いじゃないか。何故我々を招待してはくれないんだい?」


 やっぱりー。思わずフォックさんを見たら、目線を逸らされた。情報源は、どう考えてもあなた方ですよね?


 ローメニカさん、何「自分は知りませんでした」って顔で微笑んでいるんですか? 絶対同罪ですよね!?


 もー。何でこのメンツに話を持っていかなかったか、察してよ。


「一応、庶民の私が開く食事会なので、えー、やんごとない身分の方々はご遠慮いただきたく」

「悲しいよ、サーリ。そんな言い訳を言うなんて」


 言い訳って。剣持ちさんも、何やら頭を抱えて溜息吐いているし、何気に失礼だなあ本当。


「どうせ、砦の顔ぶれはいつも通りなのだろう? なら、俺達が行っても不都合はあるまい?」

「いやいやいや、何言っちゃってんですか銀髪陛下は! 一国の国王だって立場、忘れないでくださいよ!」

「ここは王宮じゃない」


 きー! 何ドヤ顔してるのさ! 領主様もにこにこしてるし! 剣持ちさん! あんた銀髪陛下を窘める立場なんじゃないの!?


「砦では、身分を忘れて無礼講という事にすればいいじゃないか」


 領主様がそんな提案してくるけど、そういう事じゃない。


「お言葉ですけどー。身分のある方々がいらっしゃらなければ問題ないんですがー」

「おや? 確か総大主教猊下は、さる国の大貴族のご令嬢だったはずだが」


 しまった。ジデジルの出自って、隠されてないから知ってる人多いんだった。


「えー……でも、ジデジルは俗世からは離れてますから……」

「そうだとしても、聖地の重鎮。下手をすれば、俗世の我々よりも身分や地位は高いのでは?」


 うぬう。それを言っちゃうと、元教皇って立場のユゼおばあちゃんは、引退した今でも結構な重鎮ですよねー……


 ダメだ、断る方法が見つからない。


「サーリ、諦めろ。ジンド様を言い負かせる人間は少ないんだ」

「フォックさんの意地悪ー。何で領主様に話しちゃうのさー」

「いや、ジンド様達を招待していないとは思わなかったんだよ……」


 口止めしなかった私の負けか……




 結局、押しに負けて三人に追加でジジ様までご招待する羽目になりましたー。いや、ジジ様に会えるのは嬉しいけどさ。


 手書きの招待状は、その場で領主様達の分も書かされたよ。馴れないペンを使ったから、手が痛い。


 もう、この疲れた心と体を温泉で癒やそう。と思ったのに。


「何で付いてくるんですかねえ?」


 私の後ろには、銀髪陛下と剣持ちさんがいる。


「一周年記念のパーティー当日まで、砦に厄介になる」

「はあ?」


 何勝手な事言ってんのー!?

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