第362話 ほっとくんの試食会

 試作機でのお試しの前に、くびれに行って足りなくなりそうなスパイスやらコーヒー豆やらを買う。


 ダガードでも売ってるんだけど、輸送費がかかるせいか高いんだよね。しかも王都でしか取り扱ってないし。


 ネレソールならあるんじゃないかと思ったけど、甘かった。香草はフレッシュもドライもふんだんにあるんだけどねー。


 という訳で、自力で安い国まで来て買い付ける。まずはコーヒー豆だ!


「そこの棚にある分、全部ちょうだい!」

「……嬢ちゃん、店でも開くのか? だったら、卸の方に行った方がいいぜ」

「そうなの? 個人でも買える?」

「組合に参加してりゃあ買えるんだが……参加してねえ? んじゃあ、一回に買う量が店並のとこだな」


 店開く訳じゃないから、商業組合の方は確か登録していない……はず。


 つか、ここ国が違うんだから、こっちで登録しないとダメなんだろうね。




 紹介された店は、普通の店みたいに見えるんだけど、いわゆる業務用の量でしか売ってくれない店。


 何人かでシェアする人達もいるようだけど、ばら売り等はしない店なんだとか。


 別にいいけどね。袋いくつとか、樽いくつとかでも買えるし、消費するし。


 ちなみに、この店で扱っているのはコーヒー豆と茶葉。ほほう、茶葉も扱ってるのかー。


 くびれの国は、どこも南と北のものが集まりやすく、しかも数は少ないとは言え他の大陸とも交易を行っている。


 一応航路は開発されてるそうだけど、季節によっては航行不能になるそうで、一年のうちに行き来出来る期間が少ないらしいよ。


 そんな事もあるから、ダガードでも大型船作ろうって話になってるんだけど。いや、たき付けた自覚はあるけどさ。


 話が大きくなったのって、絶対うま味が大きいって領主様達が考えた結果だよね。あと砂糖が欲しいジジ様か。


 店ではコーヒー豆を二十袋と、茶葉を三十缶買った。この缶、空いたらお菓子入れに使おう。見た目が好みー。


 後はスパイスだな。ここと似たような、大量売りしかしないスパイスの店があるっていうから、そこを教えてもらった。


 コーヒーの店のすぐ近くにあるスパイスの店は、最低単位が樽だって。しかも私の腰辺りの高さの結構な大きさのもの。


 あれこれ迷った結果、検索先生からのアドバイスに従って、三十種類を一樽ずつ購入。


 こっちのスパイスって、地球のとは違うらしいんだ。でも、似たような味と香りのものがあるので、代用が可能なんだって。


 で、代用可能なものばかりを選んでもらったって訳。これでカレーも作れるそうな。よし、ほっとくんに作らせる料理の第一号はカレーだな。


 他にも、デンセットよりも安い食材を大量買いして、本日のお買い物は終了。面倒なので、街から出て目立たない場所からポイント間移動で八番湯へ。


 ほっとくんの動作確認をしないとね。と言うわけで、亜空間収納内の食材から、カレーを作ってもらう事にした。


 ほっとくんの外見は、子供の頃誰もが書いて遊んだ可愛いコックさん。立体にするから、多少デフォルメが入ってるけど。


 大きなコック帽にどんぐり眼、分厚い唇、丸い手先。よく店先に置いてある客寄せ人形みたいな感じかな。


 胴体の上の方にタッチパネルがついていて、ここからメニューが選べる。よし、カレーも入ってるな。


 ちなみに、レシピに関しては検索先生が監修してくれている。なので、まずいものが出来上がる事はないと思うんだ。


 ただ、微調整は必要かも。何せ、全部自動調理だからね。包丁も鍋も何も使わないけど。全部内部空間を使った魔法での調理です。


 さあ! ほっとくんの最初の料理やいかに!


「よし、出てきた出てきた。おー、普通のカレーライスだよー。では、試食を……」


 おお、おいしい! ってか、レトルト風の出来上がりを想像していたんだけど、これ、どっかの名店のカレーと言われても驚かないよ!?


『都内の有名店のレシピを参考にしました』


 なんと! 検索先生って、そんな事まで出来るんだね。タッチパネルには色々なメニューがあるから、順繰りに試してみようっと。


 とりあえず、本日の昼食のカレーはおいしゅうございました。トッピングも楽しめるみたいだから、次は何かアレンジしてもらおうかな。




 本当は試食を一人でやるつもりだったんだけど、複数人でした方が一度に多くの試食が出来る、と検索先生に言われたので、じいちゃん達にも手伝ってもらう事にした。


「ほう……これが新しい温泉かのう」

「見た目は、今までで一番質素ですね」

「あら、でも建物が三つもあるのねえ」


 じいちゃん、ジデジル、ユゼおばあちゃんは、八番湯を見ながらそれぞれの感想を口にする。


 まあ、見た目はのっぺりした単純な作りに見えるからね。


「こっちだよー」


 宿泊施設には、男女どちらかの建屋のホール部分からしか入れない。今回は女性が多いという事で、女性用の建屋から宿泊施設に入った。


「むう」

「まあ、天井が高くて、いいですねえ」

「開放感があるわねえ」


 ふっふっふ、そうでしょそうでしょ。それを狙ってのこの天井ですよ。折角温泉でリラックスするんだから、圧迫感なんて感じたくないもんね。


 ほっとくんに作ってもらったのは、オムライス、白身魚のフライ、ミートソーススパゲティ、煮魚、大型の魚の兜焼き、角煮、餃子。


 なんとなく好みで選んだら、偏った感じ? ただ、じいちゃん達にはどれも好評だったから、試食会は大成功ってところかな。


「不思議な料理が多かったですが、どこの料理なんですか? サーリ様」

「あー、私の世界の料理なんだ」


 しかも、一部日本人による魔改造が為された洋食だよ。おいしいからいいんだ。


 ここにいるのは、私が召喚された神子だって知ってる人達ばかりだから、こういう事も気軽に言える。


 身内だけの場って、気軽でいいなあ。

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