第361話 試作第一号

 六番、七番、八番の温泉も、大変いい温泉になりました。連れて行った砦メンバーは、今回の建物にも驚いてくれたよ。


 あ、じいちゃんは一人で寂しがるかと思ったけど、広いお風呂を独り占め出来て喜んでた。


「ただのう。風呂から上がった後は皆と一緒の場所も欲しいのう」


 という事で、急遽二つの向かい合った建物に、クロスするような場所に宿泊出来る棟を作った。


 いやあ、ポイント間移動で砦に戻ればいいんだけど、長居したい時もあるじゃない?


 宿泊棟は、基本円形。外周に沿う形で個室を作って、中央の部分に共有スペースを作った。


 宿泊棟と温泉の建屋とは、渡り廊下で結ぶ。外に出ないまま移動出来るのはいいよね。


 渡り廊下は、北国仕様で屋根だけでなく壁も窓も付けた。これで寒い時期でも大丈夫。


 基本、温泉の周辺は結界を張ってるんだけど、その中は温度湿度共に好きに変えられる。


 一応、建物にぴったり沿うように結界を張って、その中だけ温かくしておくよう術式を組んだ。


 ほら年寄りもいるから、気温差で心臓止められると大変だし。とはいえ、寿命でない限りは何とかなるし、するけど。


 あ、自動調理器ほっとくんも作らなきゃ。とーるくんや護くんをたくさん作ったから、そろそろ素材が怪しい。


 採取に行かなきゃなあ。




 という訳で、ノワールを拾った因縁のある山まで来てみた。護くんの素材って、ほとんどこの山で採取したんだよね。


 七番山でも採取出来るか検索先生に聞いてみたら、三種類ほどあの山にはないって言われたから、こっちまで足を伸ばしてる。


「何か久しぶり」

「久シブリー」

「ピイピイ」

「プイイイ」


 本日の採取、ノワール、ブランシュに加えて、何故かマクリアも参戦。


 ミシアは、しばらく砦に来られないらしい。フィアさんが離れたがらないんだって。


 まあ、余命宣告受けるような状態で、もう会えないと思っていた娘と再会出来ただけでなく、この先もずっと一緒に暮らせるとなったら、そりゃ手放したくないでしょうよ。


 一応、魔法の訓練は向こうでも続けるらしいので、しばらくマクリアをよろしくともあった。


 忘れがちだけど、グリフォンって一応討伐対象なんだよね……


 会話が出来る相手だし、場合によっては話し合いで問題が解決する事もあるけれど、基本幻獣は討伐対象だから。


 マクリアにも、その事を説明してミシアが砦に戻るまで、離ればなれになる事を伝えた。


 落ち込んでいたけど、うちにはそんなの関係ねえって言うお兄ちゃんズがいるからね。


 いや、ブランシュはお姉ちゃんなのかもしれないけど。ノワールは確実にお兄ちゃん。


 そんな二匹に引っ張り回されて、マクリアは今のところ寂しいと感じる暇もないらしい。


 偶にぷんすか怒ってるのを見るけど、ノワール曰く照れ隠しなんだそうだ。本当かね?


 その三匹には、採取の間好きに山の中で遊んでいてもらう。もう天馬はこの山にこないんだって。検索先生が言っていた。


『以前、神子が一団を吹っ飛ばした関係で、彼等の中ではこの山が忌避すべき場所と認定されたようです』


 二度と会いたくないから、ちょうどいいや。ノワールを捨てた事、種族として仕方ないと言われても、絶対に納得しないから。




 採取は順調に終わり、いよいよほっとくんの試作。あれ? 今まで試作って、した事あったっけ?


『ないですね。ぶっつけ本番です』


 今更ながら、結構な事やってきたなあ。


 ほっとくんは護くんや見張るくん、とーるくんみたいに数がいる訳じゃないから、少し大きめにしてもいいかな。


 大体、建屋一つに一体くらい。あ、ほっとくんも亜空間収納にアクセス出来るようにしておこうっと。


 そうすれば、作った料理をすぐ収納に入れられるし、食材も収納から勝手に取り出して調理可能。


 野菜の下ごしらえはもちろん、肉や魚も捌けるように。あ、そうしたらほっとくん経由ですぐに調理できる形で収納されるのか。便利便利。


 調味料も収納から。そういえば、よく使う香草とかスパイス系、あとコーヒー豆の在庫が心許ない。明日にでも大陸のくびれの国に行って買ってこよう。


 さて、ほっとくんの続き。煮る、焼く、炒める、蒸す、揚げるの工程がきちんと出来るように。温度管理と時間管理をしっかりと。


 調理中の食材の内部温度も管理するようにしておこうかな。生煮えとかあると大変だから。


 こっちではまだ生ものは食べてないなあ。卵ですらきちんと火を入れてるよ。食中毒怖い。


 まあ、収納に入れている間に、浄化で殺菌洗浄しておけば、問題ないとは思うけど。肉や魚に関しては、寄生虫が怖いかな。


 ほっとくんの調理も、基本魔法頼り。刃物を内部に仕込む訳じゃないから、メンテナンスの手間が少しは省けるかな。


 もっとも、調理の後は毎回洗浄殺菌をするよう組むけど。内部の調理空間を形成する素材は、それらに耐えるようにしないとね。


 あとは、登録するレシピかー。あ、研究用の料理を入れたら、それを解析して必要な食材と調味料、調理方法がわかるように出来ないかなー。




 あれやこれや機能を盛り込んで、なんとかほっとくん試作一号が完成ー。明日にでも、温泉別荘に持っていって試してみようっと。

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