第360話 暑苦しい
「よーし、出来たー」
まずは六番山の六番湯が完成。一つ作って、それからほぼ同じものをもう一つ丁度向かい合うようにして建てる。右が男性用、左が女性用。
何か目印が必要だなあ。よし、入り口に女性像がある方が女性用、男性像がある方が男性用にしよう。
石材はあるので、それっぽいデザインをパク……参考にして、魔法でぱぱっと作る。別に美術品じゃないから、これでいいのだ。
外観は地味だけど、中身は壁にポルトガルのアズレージョ風タイルで壁画っぽくし、床はモザイクで飾ってみた。
作ったのは、どっちも検索先生ですが。
『温泉を飾るのは、大変いい事です!』
はりきってくれましたよー。張り切り過ぎて、浴場に富士山のモザイク画を出現させたのはびっくりしたけど。
これ、どうなんだろうか?
『こちらにはない文化ですから、いいと思います』
文化なの? これ。銭湯じゃないんだけどなあ。ま、いっか。ここの浴場には景色を見る窓はないから、こういうのもありかもね。
ただ、見た人はこれが富士山とはわからないよなあ。
一軒出来てしまえば、二軒目からは早い。多分、検索先生の腕が上がっていってるから。
七番湯は、外観こそ六番湯同様シンプルに見えるけど、使ってる石材の色を変えてグラデーションにしている。
内装はタイルとモザイクで一緒だけど、六番湯とはまた違うモチーフで飾ってた。
で、こっちの浴場の壁面には、何故か港街の様子が。
「これ、どこの景色?」
『神子の世界から得た形式で、イタリアのナポリ湾の景観です』
何故、浴場にナポリ湾。いや、古代ローマも風呂には情熱を注いだとか何とか聞いた事があるけど。
港街から遠くに見える山と、手前の湾に浮かぶ古いタイプの船……多分漁船なんだろうね。それらを風景画として壁面に描いている。
すんごい細かいモザイク画。人の手で作ろうと思ったら、結構な時間がかかるんだろうなあ。
本当、魔法って便利ー。
八番湯は、外観が石材ではなくレンガになっていた。レンガなんて、持ってたっけ?
『七番山にいい土があったので、こっそり採取して焼いておきました』
いつの間に? 全然気づかなかったよ。とうとう勝手に採取されるようになってしまったとは。
どうやら、とーるくんにアクセスして採取するよう命令していたみたい。そんな事まで出来るんだ?
『とーるくん作成時に、私の命令も実行するよう仕組んでおきました』
えー? 本当、全然気づかなかったー。でも、実害ないからまーいっかー。
八番湯の浴場の壁面には、何やらどこかで見た憶えのある景色が描き出されている。
これ……
『神子と賢者以外気づかないでしょう』
そうだろうね。現在の魔大陸の様子なんて、他の人は知りようがないし。
八番湯の浴場を飾っているのは、今の魔大陸の景色だ。丁度中央に、神馬たちの大好物である果実の木が大きく描かれている。
いや、あの木は本当に大きいから、これでいいのか。
ちなみに、浴槽のタイプは六番、七番、八番湯それぞれ形は同じで、中央の彫像のデザインだけ変わってる。
六番湯が一人、七番湯が二人、八番湯が三人の女性……女神像だと思う。
特に八番、これパリスの審判がモチーフでしょ。一人の女神が手にリンゴ持ってるし。って事はこれがアフロディーテだな。
六番と七番はこれといった特徴がないから、ちょっとわからないなあ。
『六番はアルテミス、七番はアステリアとアストライアです。六番は弓矢を手に、足下には猟犬を。七番は二人とも手に星モチーフを持たせました』
アステリアとアストライアは「星の女」「星乙女」という意味があるそうで、同じ「星」くくりで揃えたんだって。知らなかったわー。
で、最後の三人はパリスの審判のヘラ、アテナ、アフロディーテ、という訳か。
これ、男性用の浴場も同じ彫像なのかな。
『男性用の浴場には、男性像を配置しました』
そうなんだ。何だろう、すごくむさ苦しいイメージが湧いてくるんだけど。まー、向こうに入る事はないからいっかー。
『今なら誰もいませんから、見ても問題はないかと』
「ちなみに、向こうの彫像のモチーフは?」
『六番湯がアポロン、七番湯がアンテロスとエロス、八番湯がゼウス、ポセイドン、ハデスです』
エロスは恋愛の神様だっけ。アンテロスって、誰?
『返愛の神だそうです』
一応、どっちも愛に関する神様ってくくり? 六番は一人だからくくりなしだし、八番は王座を争った三兄弟だっけ。
いや、男性用の浴場もなかなか濃いようで。あ、見学はいいです。暑苦しそうだし。
防犯対策も出来たし、魔獣対策も併せて出来た。建物も無事建ったしいつでも温泉に入れる。
という事で、西の温泉開発計画完了ー。いつの間にそんな計画が立っていたんだって気もするけど、気にしちゃダメ。
もう日が暮れてきたので、お試しは明日以降にしよう。はー、これで自由に入れる温泉が増えたわー。
『最近ご無沙汰の一番から三番までの温泉も、順次回りましょう』
そうですねー。短期間とはいえ、なかなか濃い数日を過ごしたから、疲れを取る為にも行きましょう。
一人で行ってもいいけど、多分ジデジル辺りが拗ねるしなあ。それに、ユゼおばあちゃんの疲労もまだ完全には取れてないし。
二人の都合のいい時を選んで、みんなで来ようか。じいちゃん、男性用に一人で寂しがるかな?
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