第357話 浄化一発

 一番から三番までは、和風建築、四番五番はハマム風。六番から八番までは、どんな建築様式がいいんだろう。


『その前に、早めに片付けておかないとならない案件があります』


 あ、魔獣討伐か。


『盗賊問題です』


 そっち?


『魔獣が里に下りてくるにはまだ間がありますが、盗賊は人間故いつ行動を起こすか読めません。早めに対処しましょう』


 盗賊は、おじいさん伯爵のところだっけ。他二つの周辺には、盗賊の反応がなかったんだよね。


 あれか、はげ山は隠れる場所がないし、甲冑伯爵んところはしょっちゅう私兵団が来るから、捕まる恐怖が強かったのかな。


 んじゃ、盗賊退治を先にやりますか。




 善は急げという事で、甲冑伯爵のところからの帰り道に、やる事にした。別に下準備はいらないしね。


「盗賊って、捕まえたらおじいさん伯爵のところに連れて行けばいいのかな?」

『連れて行かずとも、自ら出頭するようにすればいいのでは?』

「? どうやって?」

『ネレソールでやったではありませんか』


 何やったっけ? ……あ!


「浄化だ!」

『そうです。盗賊のアジトをピンポイントに狙って、強力な浄化を放てば後は彼等自身が勝手に悔い改めて自首します』


 そうかー。そんな盗賊の退治方法があったとはー。神子限定だけどね。


 でも、手間いらずだからそれでいきましょう。




 おじいさん伯爵の領地に戻り、買った山を目指す。検索先生情報によれば、盗賊のアジトは山の中腹らしい。


「魔獣、大丈夫なのかな?」

『うまい具合に魔獣が近寄らない場所に潜伏しています。おそらく、土地鑑があるのでしょう』


 という事は、地元民って事? 何だかなあ。食い詰めて、っていうのもわからないでもないけどさあ。


 とはいえ、私は食べられない辛さも知らないし、恐怖も知らない。ありがたい事に、こっちに来る前も来てからも、食べる事だけは出来たから。


 よし、じゃあ山全体に浄化をかけようか。うまくしたら、魔獣も綺麗さっぱりなくなるかも?


『残念なお知らせです。魔獣は浄化では消えません』


 そうなの!? そういえば、魔獣相手に浄化は使った事がないかも。


『魔獣と魔物の違いはそこにもあります。魔獣は土地の魔力が凝って生み出されるもの。魔物は瘴気の塊です』


 んー? って事は、魔獣は魔力の塊って事?


『いいえ。土地の余剰魔力から生み出されていますが、物質化した時点で魔力の塊とは言えません。半分は生物のくくりに入ります』


 半分なんだ。えーと、土地の魔力が集まって、魔獣に変化したって感じでいいんですかね?


『概ね、それで間違っていません。ただ、生まれた魔獣は同種族同士で繁殖が可能です。それ故、半分は生物になります』


 魔力から生まれたのに、繁殖もするとは。だから魔獣はいつまで経っても減らないんだな。


 んじゃ、強めの浄化はアジトの周辺のみにかけますか。




 ほうきから見る山は、普通に山だった。大分寒くなったこの時期でも緑って事は、常緑樹が多いんだね。


 盗賊がいるのは、山と山が連なる谷に面した洞穴。全員集まってるな。入り口に見張りがいる程度。


 んじゃ、一発きつい浄化をどうぞ!


 洞穴周辺が真っ白に光り輝き、しばらくは白一色になる。徐々にその白が引いていって、残った洞穴から、ぞろぞろと男達が出てきた。


 と思ったら、その場に跪いて泣き出してる。何か懺悔っぽい事も言ってるんだけど、泣きながらだからかうまく聞き取れない。


『これまでの罪の自白をしているようですね』


 いや、それは自首してから担当者に向かって言いなよ。中にはその場で土下座状態の人もいる。


 だから、とっとと立ち上がって、領都まで自首しに行きなってば。


『一人に軽く暗示を与えましょう。後はその者が引っ張っていくでしょう』


 そんなうまく行くのかな。でも、確かに一人が自首を声高に叫んだら、我も我もと動き出したよ。


 何だろう、凄い清々しい顔してるんだけど。罪の度合いによっては、捕まって即処刑なのに。


 相変わらず浄化の結果は訳わからん。


 盗賊が片付いたので、魔獣の一掃は明日以降って事で。浄化って結構疲れるし、何よりそろそろ夕飯の支度の時間だから。


 今日は何にしようかなー。肉が続いていたから、魚にしようかな。香草とオイルで南仏風とか? シンプルだけど、おいしいよね。


 それにオニオンスープとパンでいいか。材料はあるから、とっとと砦に戻ってご飯の支度しようっと。

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