秋は飛んで冬

第354話 冬支度

 ダガードの秋は短い。北の国だからねー。ちょっと前まで夏祭りで盛り上がっていたかと思ったら、もう秋が終わりそう。


「さて、そこで問題なのが、今年の冬はどこで過ごすか、です」


 そろそろ決めないといけないからね。冬はもう目の前だから。


 夕飯の後のまったりタイムを使って、砦内会議を開催です。参加者はいつものメンバー。じいちゃん、ユゼおばあちゃん、ジデジル、そして私。


 ミシアは大公領に戻ったまま、まだこちらには来ない様子。まあ、あっちが彼女の家だからね。


 ただ、マクリアが少し寂しそうだわ。いっそ、マクリアを大公領に届けてこようかね?


 そんな事を考えていたら、ユゼおばあちゃんから質問が飛んできた。


「冬をどこで過ごすかって……砦で過ごすのではないの?」


 そういえば、去年の冬はまだユゼおばあちゃん達、砦にいなかったね。思わずじいちゃんと顔を見合わせて笑う。


「去年は、違う大陸を回ってたよー」

「まあ、どこに行ってもサーリがやらかしておったがの」

「違うし! やらかしてないし!」


 ちょっと盗賊団を捕まえたり、海賊を捕まえたり、悪い貴族を懲らしめたりしただけじゃん!


 それを言ったら、ユゼおばあちゃんは「あらあら」なんて言いながら笑うし、ジデジルは過保護爆発させてあれこれ問いただしてくるしで、話し合いがまったく進まない。


「去年はいいから! 今年の話をしようよ。もう冬は目の前だし」


 あ、ちなみに冬に船を作るって話は、基本亜空間収納内で作る予定なので、どこでも問題はないよ。


 ただなあ、領主様に何て言おう。国側でも、大きめの船を建造中って話なんだよねえ。


 そうは言っても、こっちが作る船には及ばないと思うけど! 何せ検索先生が監修、製造してますから!


『その為にも、報酬をおねだりします』


 うお! 聞いてたんですね、検索先生。


『今年の冬は、西の温泉を開発してお籠もりしていればいいと思うのです』


 うーん、それも手か? まあ、温泉のお籠もり先としては、五番目までは既にあるしね。


「えー、話し合いの途中ですが、ただいま検索先生から冬の過ごし方の案が提示されました」

「ほう」

「検索先生……とは?」

「サーリ様の技能の一つのようですよ、ユゼ様」


 うん、まあその説明でほぼ間違っていない……のか? あれ? 今更だけど、本当に検索先生って私の技能……スキルなの?


『気にしないのが身の為です』


 そ、そっすか……




 結局、今年の冬は温泉お籠もりに決定。お籠もり先は、その時々で決めるって事で。


 ただ砦を閉鎖するってだけかな。やってる事は普段と変わらないや。


 あ、依頼はお休みするってのは、違うね。指名依頼も受けないから。砦閉鎖してたら、依頼しようにも出来ないだろうし。


 さて、では西の温泉に関してちょっと領主様にご相談。


「という訳で、いよいよ西の温泉を掘りに行きたいです」


 場所は王宮。いや、お伺いの手紙出したら、王宮にいるからすぐにおいでと返事が来たからさ。


 で、ただいま領主様の執務室で対面中。


「なるほどね。で? 先程の話だと、今年は国外に出る事はないというが、本当だね?」

「ええ、温泉にお籠もりしてますから」


 そこ、聞き返すところなんだ。まあ、去年の冬は、戻ったら各方面からお説教食らったしなあ。


 ちゃんとあれこれ言っていかなかったっていう、不義理な面があったから文句も言えやしない。心配からの説教って、ちゃんと私もわかってるし。


 なので、今年はちゃんと国内にとどまるし、こうして居場所の申請もしておく。


 といっても、冬の間はお仕事お休みにするけどねー。その事も、ちゃんと伝えておいたよ。ちょっと渋い顔をされたけどさ。


「まあいい。国外に出ないというのなら、心配は少なくなるからね。では、西の領主達への紹介状を書くから、少し待っていなさい」

「はーい」


 しばらく待っていたら、三通の手紙を渡された。


「それぞれ、以前教えてもらった温泉があると言われた西の領主達への紹介状だ。これを持っていけば、すぐに掘削の許可が下りるだろう。それと、周辺の山を含んだ土地の売買も出来るはずだ」

「ありがとうございます!」


 何でか知らないけど、温泉が出る辺りって魔獣が活発な地域ばかりなんだよね。


 なので、どこの領主も買いたいって言えば文句は言わないだろうって話。ちゃんとお金も払うしね。


 税金とかどうなるんだろうって思ったけど、魔獣を山から出さないのなら、税金免除ってところが殆ど。


 特に冬から春にかけては、山の食料がなくなるからか、人里に下りてくる魔獣の被害が大きいんだって。


 そのくらいならお安いご用ってもんよ。ついでに素材になれば、懐が潤うし。


 正直、亜空間収納の中には現金が唸ってるんだけど、つい庶民感覚が抜けなくてさ。お金はあればあっただけ安心って思っちゃうんだよね。


 毎日の生活に、あんまりお金使ってないのに。北の国々だと家計を圧迫するはずの燃料費だって、うちの場合はゼロだし。


 砦は魔法で暖房を入れてるし、温泉の各施設は地熱で十分暖かい。お金かけるとしたら、食費くらいなもの。


 それも贅沢しないから、デンセットで普通に肉野菜卵牛乳なんかを買ってくるだけ。


 どうかしたら、肉は自前で調達出来るしなー。魔獣の中には、おいしいお肉を持ってる連中もいたりするのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る