第353話 山盛りはいい事だ
ナシアンを出て、野営を挟みつつ砦に戻ってきた。何だか、最後の方で色々思うところがある採取旅行だったなあ。
「お帰りなさい、二人とも」
「お帰りなさいませ! サーリ様、賢者様」
ユゼおばあちゃんとジデジルが出迎えてくれる。あれ? この時間帯、まだ建設地にいるんじゃなかったの?
ちなみに、現在の時刻はおやつの時間を少し回ったところ。
「実は、夕べの祈りの際、二人して神託を受けまして」
どうやら、その神託で私達が帰ってくる事が告げられたらしい。神様、そんな事をお告げしてどうするんですか。
もうちょっと役に立ちそうな事を伝えましょうよ。
お茶の時間でもあるし、みんなでお茶と茶菓子を囲んでおしゃべり。主に、南のあれこれを伝える。
「では、ナシアンは大分変わったのですね」
ユゼおばあちゃんの神妙な声に、じいちゃんが頷いている。
「そうじゃの。変化が大きすぎて、違う国に入ったのかと思ったくらいじゃ」
じいちゃんは、ナシアンには何度も行った事があるらしい。まあ、強制改心が下った国だからねえ。
そういえば、聖地にもそんな神罰、下りましたね……聖地なのに。教会組織の総本山なのに。
「それにしても、南大陸の南端がそんな荒涼とした大地だったとは、知りませんでした」
「私も知らなかったよ。いやー、風が強かったわー」
ジデジルの言葉に、笑いながら答える。いや本当、人がいないのは当然かって思うくらいの場所だったわ。
よく考えたら、あそこって南の極に近い場所だもんね。そりゃ風も強くなるだろうし、気温も低くなるわな。
南半球と仮定して、北が秋口なら南は夏の入り口くらい? これが冬真っ盛りに行っていたら、もっと天候が荒れてたんじゃないかなー。
「いい素材は手に入れられたの?」
「うん、そこはばっちり」
ユゼおばあちゃんに、サムズアップして見せる。首を傾げられたから、使い方を教えておいた。
『サムズアップ。由来の一つに、古代ローマ時代の剣闘士の試合の際、負けた相手の命を救うかどうかの判定を行ったというものがあります。サムズアップは「生かせ」、サムズダウンは「殺せ」。そこから、英語の「GOOD」を現すジェスチャーとして使われています』
う……そこまで厳密には説明出来てません。今回なら「ばっちり」を現す仕草って事で。
亜空間収納内では、急ピッチで素材の加工が行われている。バビソンの木の乾燥、板材への加工はもちろん、端材の処理や胆汁からの合成繊維作成、ミナミヌメリゴマの繊維取り出しや、それを使った糸紡ぎと機織り。
いやー、これらが全て同時進行で行われてるんだから、魔法って やっぱり便利だよね。
そういえば、船の建造ってもう始めるんだっけ?
『冬中に制作を終えて、春には航海を、と計画しています』
あ、そうなんだ。一回制作にストップかかったから、何があったのかと思ったけど、春の航海に合わせる為だったんだ。
『状況も変わってきていますし、これなら問題ないかと』
状況? 何の事? ……返事がない。検索先生、答えたくない時は聞こえない振りするよね。
さて、資材はこれでいいとして、船の建造はまだ始めないそうだから、それまで何をしていようね。
ユゼおばあちゃんとジデジルは、相変わらず大聖堂建設と一緒に、ダガード国内の教会組織の立て直しに奔走しているらしい。
実際走り回っているのは、王都で心を入れ替えた聖職者達らしいけど、入れ替えたっていうか、入れ替えないと怖い事が起きるという強迫観念で動いているってとこかな。どっちでもいいか。
まあ、そんな人達が二人の手足同然に国中を駆けずり回ってるそうだから、国内に限っては教会の腐敗はもう大丈夫っぽい。
じいちゃんはまたしても研究にのめり込んでいる。デンセットで依頼を受けてもいいんだけど、何だかそんな気にもなれないしなー。
しばらくは、また砦でゴロゴロしてようか。果報は寝て待てって言うしね。
そんでゴロゴロ生活三日目に、いきなり思い立った。
「そうだ、タルトを焼こう」
いや、タルトは結構おやつに焼いてるんだけど、今回はほら、カスートでフルーツをたくさん仕入れてきたじゃない?
だから、あれを使ってフルーツタルトを作ろうかと。バニラがないのが痛いけど、まあ何とかなるさ。
まずは土台。薄力粉と砂糖とアーモンドを粉状にしたものを一緒に混ぜる。あ、フードプロセッサー的な魔法も作ってあるから、それで混ぜてるよ。
そこによく冷やしたバターを投入。粉と綺麗に混ざってさらさらになるまで魔法で切り混ぜる。
綺麗に混ざったら、卵黄を入れてさらに切り混ぜる。全体がまとまりかけてきたら、手でちょっとこねてからボウルに入れて亜空間収納へ。
本当は一時間以上休ませるんだけど、収納の中なら温度や時間も好きに出来るから。冷蔵庫並の温度で、時間経過は八時間。
その間に、アーモンドクリームを。バターを柔らかくしてから砂糖を入れて、白っぽくなるまで練る。
魔法でやると楽だけど、これ泡立て器でやると腕が死ぬよ。マジで。それはともかく、練り終わったら粉状アーモンドを投入。
綺麗に混ざるまで魔法で混ぜて、そこに全卵を投入してさらに混ぜる。最後に薄力粉を少量入れて完成。
土台を取り出し型に入れて、余分な生地を取る。そこにアーモンドクリームを絞り入れて、綺麗に均す。
オーブンに入れて焼成。うちのオーブンは魔法のオーブンだから、余熱しなくてもいきなり設定温度になるから便利だよー。
焼いてる間にカスタードクリームを。卵黄に砂糖を入れて混ぜ混ぜ。白っぽくなるまですり混ぜたら、薄力粉を入れて綺麗に混ぜる。
温めた牛乳を少しずつ入れながら混ぜ、全部混ぜたら再び鍋へ。へらや泡立て器で焦げないよう混ぜつつ加熱。
クリームが炊き上がったら、濾し器で濾して亜空間収納へ。本当はラップをぴったり張って冷ますんだけど、ラップはないからねー。
あ、炊き上がった後にバターを入れるレシピもあるけど、今回はバターなし。
焼き上がったタルトを魔法で冷まし、亜空間収納で冷ましたカスタードクリームを塗る。これで基礎分は完成。
あとは、似合いそうなフルーツをカットして盛り付けていくだけ。これ、結構センスのいる作業なんだよね。
そして、私にそのセンスはない。自覚はしてるから、いいんだ。全部のフルーツを細かくカットして、それを混ぜて魔法で上から散らすように置く。
よし、こういうやり方の方が、綺麗に仕上がるんだよね。魔法様様だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます