第350話 最南端

 カスートのフルーツ天国を堪能した翌日の朝食は、もちろんフルーツ三昧。それと自家製ヨーグルト、パンは小さいのを少し。あとコーヒー。


「朝から豪勢じゃのう」


 じいちゃんもほくほく顔で食べてる。やっぱり新鮮なフルーツは美味しいよねえ。ビタミンも豊富っぽいし。ビタミンは、欠乏すると体によくないのだ。


 天気がいい中、再び南目指して出発。ここからは、素材を確認しながら飛ぶのでちょっとスピードは落としている。


「木材は、妖霊樹じゃいかんのか?」

「検索先生の話だと、妖霊樹は海水に弱いんだって」


 乾燥させてもその特徴は残るらしく、海水を含んで重くなるそうだ。なので、妖霊樹の木材は船には適さないらしいよ。


「ふうむ。そんな特性があったとはのう」

「まあ、船にさえ使わなければ、雨水には強いそうだから、いいんじゃない?」

「うーむ」


 塩分があるかないかで、水を含むかどうかが変わるってのも、不思議な話。あれか? 浸透圧とか何とかってやつ?


 今回採取する船に適していると検索先生が判断したのは、南大陸の最南端地域に生える「バビソン」という名の木。


 乾燥させると軽くて強靱、しかも水に強い木材になるそうな。ただ、乾燥した木材は固すぎて加工に向かないんだって。


 加工は亜空間収納内で、現実にはあり得ない環境で加工するからいいんだけど。圧力上げたり温度を上げたり逆に氷点下の温度にしたり。


 バビソンは乾くと魔力を受け付けなくなるらしいから、今回は全部物理で加工する予定。といっても、検索先生が全部やってくれるけど。


『バビソンは伐採される機会が殆どない木ですが、自然発火の火事で損失する事が多い木でもあります。南大陸最南端はこれからが火事の本番です。急ぎましょう』


 えーと、南半球は北半球と季節が逆ってやつですね。って事は、この星も傾いているって事かな。今更か。




 大陸のくびれからさらに二日野営して、やってきました最南端。何と言うか、荒涼とした世界が広がってるね。


「風が強いのう」

「本当だね」


 場所のせいなのか、それとも地形のせいなのか。最南端には、すり鉢状の大きな穴が空いている。今、その淵にいるところ。


 この穴、隕石落下かな。ちなみに、バビソンはこの穴の底にわさわさ茂ってます。


 バビソンが強すぎて、他の植物が育てない地獄のような環境らしい。うへえ。でもって、バビソンって木は燃えやすく、夏場はちょっとした事で簡単に火が付いて、穴の中が竈状態になるんだって。


 バビソンはそんな火事の中でも生き残れるよう進化した木で、種が詰まった実は火に強く、火事が終わって焼け野原になった場所で芽吹くそうな。


 そして、このすり鉢の中はただいま空気の乾燥が進んでいる真っ最中。ちょっと枝がこすれただけでも火が付きかねない。


 と言う訳で、すり鉢全体を結界で覆い、まずは酸素を抽出。酸素がなけりゃ、燃えないでしょ。


 そうしておいてから、バビソンの伐採を。これはウォーターカッターで簡単にいけた。妖霊樹の時に作っておいて良かったー。


 伐採したバビソンは片っ端から亜空間収納へ。入れた側から乾燥と板材への加工その他が行われる。魔法って素敵。


 穴の底のバビソンをあらかた伐採し終わったところで、検索先生から次の指令が。


『ここのバビソンはほぼ伐採し終わりました。次の場所へ移動しましょう。そこでもバビソンを伐採します』


 どんだけたくさんあるんだ、バビソン。そして、これらを使う船って、どんだけ大きくなるんだろう?




 その後、何と六カ所も回ってバビソンばかりを伐採した。何か疲れたー。


「随分と大量の木材を必要とするんじゃなあ」

「本当だよね。どんだけでかい船になるんだろう」


 実は私もまだ全貌を知らないんだよね。知ってるのは、検索先生のみ。


 あー、何か疲れたから、砦に戻ったら一番湯にでもしばらくお籠もりしようかなー。


『実は、この周辺にもいい源泉が』


 マジですか? 検索先生曰く、この辺りは誰の土地ともなっていない未開地らしい。


 じゃあ、人知れず温泉掘って別荘建てても、誰も文句言えないって事?


『いっそ、他の人が入れないような仕掛けも施しておきましょう。移動はポイント間移動で』


 検索先生、温泉の事になると途端に悪い方向に知恵が働くな……


『周辺の人間が、温泉の恩恵を知らずに生きているのが悪いのです!』


 検索先生、もうすでに 温泉の神様を信仰している感じ。


 それはともかく、温泉があるなら掘って入ろうじゃないの。


「じいちゃん、この辺りにも温泉があるって」

「何? 本当かの?」

「間違いないみたい」


 だって、温泉にうるさい検索先生がそう言うんだから。きっと間違いはない……はず。


 指示に従って移動し、掘削してみると本当に温泉が湧いてきた。なので、手持ちのあれこれで何とか建物を作り、風呂場も作って入ってみる。おおー、疲れた体に染みるー。


 建物は、とりあえずといった感じのログハウス風。これはこれでこの景色に馴染んでていいのかな。


『いえ! 石材を使ったもう少し重厚な建物を予定しています』


 検索先生は、ここにもしっかりした建物を建てるつもりらしいです。まーいっかー。魔力は使われるけど、全部やってくれるしね。


 私は手間いらずなので、寝て過ごしていいんだし。という訳で、今日は疲れたからお休みなさい。じいちゃんもとっくに夢の中だしね。


 さーて、明日は何を採取するんだろう?

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