第349話 天国!

 その日の夜に、砦のみんなに船を作る為の素材採取の話をした。


「南ラウェニアとはのう……」

「まあ」

「だ、大丈夫なのですか?」


 じいちゃんもユゼおばあちゃんもジデジルも、心配するよねえ。


 何せ、ローデンは南ラウェニアでも大きな国だし、あれこれ暗躍していたナシアンはその隣でこれまた大きな国だ。


 どっちも南大陸では発言力の大きな国だから、私が行って嫌な思いをするんじゃないかって思うみたい。


 それに、向こうの国の人は、神子をその目で見た事がある人が多い。北大陸よりも、身元がバレる危険性は高いんだろうなあ。


 まあ、何とかなるでしょ。


「検索先生の話だと、あんまり人のいるところには近寄らずに済みそうだよ」

「でも!」


 ジデジルって、本当に過保護だよなあ。今にも泣いて引き留められそう。何とか宥めようと思ったら、思いがけない言葉が耳に飛び込んできた。


「まあ、大きな街や村に近寄らんのなら、何とかなるじゃろ。わしも行くし」

「え?」


 じいちゃんも一緒!? 聞いていないよ!?


「わしらも、お主が南ラウェニアに行くなど、今の今まで聞いとらんぞ?」


 反論出来ない……


 結局、じいちゃんも一緒に南大陸に行く事が決定。じゃあ、絨毯で行く事になるなー。


 人がいる場所に近寄らなくても、野営は亜空間収納に入れてあるテントで十分だし、食料もたっぷりある。何なら、デンセットで買い増ししてもいい。


 水は自分達で魔法を使えば問題ないし、バストイレは自前の方がいいくらだしねー。


 本当、街に寄る意味ないね。




 翌日には、砦を旅立った。といっても、その気になればすぐに戻ってこられるけど。


「ポイント間移動、マジ便利」

「……多用はするでないぞ?」

「わかってるよー」

「本当かのう……心配じゃわい」


 そんな心配する程の事じゃないよ。大丈夫、もしバレても「気のせい」って事にすれば。


 ……じいちゃん、何でこっちを見て溜息吐いてるのよ。


 絨毯で空へ。ユゼおばあちゃんとジデジルが見送ってくれた。いやあ、ミシアがいない時期で良かったー。


 いたら絶対「自分も行く!」って言っただろうしね。あ、ブランシュとノワールはお供するけど、マクリアは置いて行くよ。


 マクリア、凄く行きたがってたみたいだけど、あの子はまだ子供だから。それに、マクリアに何かあったら、ミシアに申し訳が立たないからね。


 行きはちょっとスピードアップ。でもブランシュもノワールもちゃんとついてきてる。本当、成長したなあ。


 いくらスピードを上げようとも、さすがに北大陸から南大陸まで一時間かそこらで行ける訳もなく、今日はくびれの辺りで野営です。


「それだって、この短時間でここまで来られるとはのう」

「空を行くのって、楽だし見晴らしいいし最高だね!」

「そうじゃのう」


 本当は、ポイント間移動で休憩時間は砦に戻ればいいんだけどね。じいちゃんに多用するなって言われたから、やめておいた。


 大陸のくびれは、ちょうど南北アメリカ大陸を繋ぐ中米と位置的に似てる。中米よりも幅があって国土が広い国が多いけど。


 そんなくびれの国であるキバークダームの山裾で野営。この辺り、街どころか村もないから人目につかないし、いい場所だ。


「ふむ、ここから一番近いのはカスートか」

「じいちゃん、知ってるの?」

「うむ。このカスートの辺りは一年を通して気温が高く雨も少ない。それを利用して果樹栽培が盛んなんじゃ」

「何ですと?」


 果樹と聞いては、黙っていられない。じいちゃんいわく、結構種類豊富な果物を栽培しているんだとか。


「キバークダーム自体、果樹は重要な輸出品じゃ。もっとも、輸出するのは全て干した果物ばかりじゃがの」

「ドライフルーツか……嫌いじゃないし使い勝手もいいけど、やっぱりフレッシュなのが欲しいなー」


 ある程度は砦の温室でも育ててるから好きな時に好きなだけ食べられるけどさ、温室にないものは欲しいよね。


「どらいやらふれっしゅやらが何の事を言っておるのかさっぱりじゃが……まあ、近場のカスートなら寄り道しても問題ないじゃろ」

「うし! じゃあ明日はカスートに寄ってからね!」


 何が手に入るかなー? 今から楽しみ。




 カスートは、この辺りでは割と大きめの街。周囲に果樹農家がたくさんあって、そこの人達がここに作物を持ってきて売ってるらしい。


 もちろん、店と直接契約してる農家もあるんだとか。


「おお」


 門を入る時に、お薦めの果物の店を聞いたら、中央広場で青空市場が立つからそこに行くといいって薦められたんだ。


 で、来てみたら、凄い! 出てる店全部果物を扱ってる。一部、他の農産物を扱ってる店もあるけど、基本はフルーツ。


 見覚えのあるものから、見た事もない形のものまで。うはー。テンション上がるー。


「じいちゃん!」

「好きに回って買うとええ」


 何か呆れたような目で見られた気がするけど、いっかー。果物が私を呼んでいる!


 オレンジ、桃、ブドウ、あとこれ、確かナツメヤシってんじゃなかったっけ? あとこっちはプルーンかな? あっちはスモモ? サクランボもあるー。




 こ こ は 天 国 か。




 おいしそうなものは、見つけ次第片っ端から買って亜空間収納へ。あ、入れる際はバッグに入れるのを装って収納してる。


 リンゴかな? と思ったら、中はイチジクみたいなのとか、パイナップル? と思ったら中身はスターフルーツっぽかったり。


 異世界、侮り難し。ローデンでも、この辺りのフルーツは見かけなかったわ。あれか、輸送に時間がかかると、傷むからかなー。


 カスートで思いっきりフルーツを買いまくって大満足。これでしばらくフルーツ不足にはなるまい。お菓子にも使えそうだし。


 砦に戻っても簡単に買い出しに来られるよう、ポイントを打っておいた。じいちゃんには内緒。

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