第348話 そう来たか

 夏祭り期間が終わって、砦にもデンセットにも日常が戻ってきた感じ。砦でのんびり過ごすこの心地よさよ。


「んー、風が気持ちいいー」


 たまには壁の上を歩く。丸塔は壁と接しているから、壁の上にも行ける。


 この壁は第一区域から伸びて、一部第二、第三とも繋げたので、丸塔から出発してぐるっと壁を一周出来るのだ。


 んで、歩いていたら、湖の向こう側、森の右側に何やら見えた。


「あれが、大聖堂建設予定地?」


 大聖堂って、普通は街中に作るものなのにね。何故かここの大聖堂は、街から外れた湖の畔に作ってる。


 といっても、デンセットが大分手狭になってきてるから、多分あそこまで街を拡張するんじゃないかってのが、じいちゃんの読み。


 湖をぐるっと囲むように、拡張するのかね?


 その大聖堂建設予定地では、ただいま基礎工事の真っ最中。建物の基礎は大事だからね。


 聖地から持ってきた聖針樹は、いつの間にか一度伐採されて、新しい芽から既に次の若木が育ってる最中なんだとか。早いなあ。


 この砦は私がいるし、ユゼおばあちゃんとジデジルもいるから、聖地よりも空気が清浄なのかも。


 あの木、肥料はもちろんの事、清浄な空気がないと育たないそうだから。


 大聖堂建設予定地から視線を上に向けると、上空でブランシュとノワールが飛ぶスピードを競っていた。


 砦に帰ってきたその日のうちに、島ドラゴンのところに行って三匹を引き取ってきたんだ。


 親グリフォンもいたから、ブランシュは久しぶりに親に甘えられたのかも。ノワールとマクリアは、いつの間にか師弟関係のようになってるし。


 島ドラゴンの元で、一体何があったの?


「プープー」

「マクリア。どうしたの?」

「プー」

「ミシアなら、しばらく大公領に戻ってるから、会いたいなら連れて行くよ?」

「ププー」


 首を横に振ってるから、違うらしい。相変わらずグリフォンの鳴き声はよくわかんない。


 それに、マクリアの鳴き声はちょっと特殊らしい。親グリフォンがそんな事を言っていたなあ。


 何でも、本来は親の鳴き声を聞いて練習するらしいんだ。卵の段階で外の音を聞いていて、親の声もちゃんと認識するらしい。


 マクリアは、卵の段階で親から引き離されたのかも、という事なんだけど。でも、この子は親が誰に殺されたか、知ってたはず。


 それって、現場を見ていたって事じゃないの?


「マクリア、あんた何でそんな鳴き声なのよ」

「プー?」

「ブランシュとは、近いような遠いような鳴き声だよね。ちょっと前はまた違ったし。どうしてなんだろう」

「プー……プープープー」


 うん、わかんない。ノワールが帰ってきたら、通訳してもらおう。


 その後、空のスピードレースから帰ってきたノワールに通訳してもらったところ、卵の中でも周囲の状況はなんとなくわかるんだってさ。


 で、親が殺されたのは卵で生まれてすぐくらいの頃で、そこから人の手で卵を孵されたらしい。


 だから、親から鳴き方を教われなかったのか。独自の鳴き方が、今のこれ。


 ま、可愛いからいっか。それに、マクリアはミシアのグリフォンだし。




 砦の日常はのんびり時間が過ぎていく。時折果実を島ドラゴンの元に届ける以外、砦に閉じこもってゴロゴロしてた。


 地下室は、しばらく封印しておく。中途半端なままで放っておくのはちょっと心苦しいけど、アイデアがまとまらないから仕方ない。


 そんな夏も終わりを迎えようかというある日、検索先生から指令? がきた。


『そろそろ、船を作る支度を始めましょう』


 おお! 大型船建造ですね!


『まずは、手持ちの素材に加えて、新たな素材を採取しに行きます』


 行きますって、決定ですか。いや、船は作るんだから、決定でいいのか。


 で? まずはどこに何を採取しに行くんですか?


『南ラウェニア大陸まで、木材を伐採しに行きます』

「え……」


 まさかの、南ラウェニア大陸ですかー。

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