第347話 子供か!
温泉での命の洗濯週間も無事終了。いやー、癒やされたわー。帰りは四番湯で合流して、みんなで絨毯を使い帰る。
途中、大公領によって叔父さん大公一家を下ろして行くのを忘れないように。
「もう少しここにいたい……」
「陛下、我が儘を言うのは感心しませんよ」
「ここから直接王宮に帰れば、予定していた帰城の日までまだ間があるだろう?」
「一度砦に戻り、置いてきた馬車を回収しませんと」
「勝手に戻るように命じればいいじゃないか」
銀髪陛下が、領主様相手に駄々こねてます。子供か!
まあ、それだけ王宮での貴族達による自白祭りの後始末が大変だったんでしょう。そこは同情するよ?
でも、それはそれ、これはこれ。
「ここから王宮に直接は行きませんよー」
「何故だ!?」
「目立ちたくないから」
嘘でーす。下からは見えませーん。でも、銀髪陛下には効果があったらしい。何やら考え込んでるよ。
「……では、王宮の裏庭に下りるようにすればどうだ?」
「いや、王都の上を通るんだから、目立つでしょうが」
本当は見えないけど。嘘は突き通せば真実になるって、いつかどこかで聞いた。
空飛ぶ絨毯は私がじいちゃんしか飛ばせないし、じいちゃんはこういった事に関しては判断を私に丸投げする。
だから、私がダメって言ったら、ダメなんですよー。
「まあまあ陛下。また来ればいいじゃないですか」
「本当だな?」
領主様、銀髪陛下と二人して、何でこっち見てんですか?
「別に、来るなとは言いませんが、絨毯は貸し出しませんよ?」
「ケチだな」
おい国王。ケチとは何だケチとは。すわ戦争勃発か、となったけど、私はじいちゃんに、銀髪陛下は領主様に押さえられた。ちぇー。
「バカもん。お主が本気で攻撃したら、ここら一体が陥没するじゃろうが」
小声で怒鳴るという、器用な真似をするじいちゃんにぽかりと頭を叩かれる。痛いー。
でも、せっかく作ったばかりの四番湯を壊す事にならなくて、良かった。
『そうなっていたら、全力で妨害しました』
恐。検索先生を怒らせない為にも、温泉で下手な事をしないと心に誓いました。
叔父さん大公の領地経由で、砦に帰ってきたー。あ、ユゼおばあちゃんとジデジルが出迎えてくれてるー。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
「お帰りなさいませ、サーリ様」
ジデジルが大分泣いていたように、目を腫れさせてるよ。何? どうしたの?
「何でもありませんよ。あなたがいないと寂しいと、毎晩子供のように泣いてただけです」
親と離れた子供か! まったく、銀髪陛下といいジデジルといい、でかい図体して何やってんだ。
まあ、ジデジルに関してはユゼおばあちゃんが、銀髪陛下に関しては領主様が目を光らせているから、問題ないか。
そういえば、今回はやけに剣持ちさんが静かだったなあ。四番湯での銀髪陛下との言い合いなんて、以前だったら視線で殺しかねない程睨んできたのに。
何か、心境の変化でも?
「……何だ?」
「何でもないでーす」
やべ。つい剣持ちさんをじっと見ちゃったよ。へらっと笑ったら、微妙な顔をされた。
これも、以前だったら睨まれていたところだよねえ。下手したら、腰の剣に手をかけていて、領主様辺りに注意されてるところだと思う。
うーん、何だろうねえ……
「……よし、わかんない」
「何がだ?」
「あれ? 銀髪陛下、いたんですか?」
「いては悪いのか?」
不機嫌だなあ、もう。絨毯に乗って王宮に帰れなかったくらいで、機嫌損ねないでよね。本当に子供だなあ。
デンセットで待機させていた馬車も戻し、銀髪陛下達を見送って一安心。ジジ様も大分満足していたようだから、しばらく温泉の事は言われないだろう。
次に言われたら、馬車で行ける二番湯と三番湯を勧めておこうっと。
温泉もいいけど、やっぱり砦は落ち着くなあ。まだ昼に間があるので、自室でゴロゴロするー。
「別荘のベッドもいいけど、やっぱり砦の自分のベッドが一番ー」
『ここにも温泉が湧けば良かったんですけど……』
「うんと深くまで掘っても、ダメかな?」
『無理のようです。残念ながら。本当に残念ながら』
最後の一言に力を込めて言われてしまいましたよ。まあ、西の温泉もそのうち堀りに行きましょう。
今日は大聖堂建設はお休みだそうで、ユゼおばあちゃんとジデジルがずっと砦にいる。
「何で休み?」
「現場で、ちょっとした事故があったのよ」
「事故?」
まさかのおばあちゃんの返答に、また何かよからぬ事を考えた奴がいたのではと勘ぐる。
「襲撃ではないわ。本当に事故。ただ、怪我人が出ているのでね」
「怪我そのものはその場で治しましたが、精神的に少し疲れが出ているようなので、いっその事休みにしようかと」
なるほどー。現場で働く人達の事を考えての休みだったんだね。
「そうすれば、砦でサーリ様をお出迎え出来ますし!」
ジデジル、私のちょっとした感動を返してください。
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