第345話 四番湯 or 五番湯?
最初に四番湯を楽しんで、その後五番湯を試す。で、気に入った方に数日滞在する事になったらしい。
「食事とか、どうするんですか?」
「運ぶ荷物に食材や調味料が入ってるんだ。悪いが、一緒に収納して運んでもらいたい。料理人も温泉の建物に入れるようにしてもらいたいんだが」
なるほどー。身分の高い人がこんだけいれば、料理人も一緒に移動させた方がいいって訳だね。
毒殺の危険性とかもあるだろうし。
「……それなら、前に見せた食料棚を貸しますから、そこに当面の料理を入れて持っていってはどうでしょう?」
出発が遅れるけれど、調理の場は砦の来客用の棟を貸すし、そこの厨房を使えば問題ないと思うんだ。
デンセットも近いので、足りない食材なんかはそこから調達する事も可能だし。
ここならユゼおばあちゃんもジデジルもいるから、買ってきた食材を浄化して万一がないように出来るしね。
浄化って、毒の除去も出来るし、食材の傷んだ部分の除去も出来るんだ。結構使い勝手いいよね。
領主様に提案したら、とても喜ばれました。
で、調理の間は、皆さんで砦にご滞在ー。別に見るところはないけどね。
料理人の人達に、来客棟の厨房の使い方を説明して回り、ついでに部屋割りを決める。
銀髪陛下は前に来た時と同じ部屋でいいって言うし、剣持ちさんはその隣の部屋を、領主様も並びに用意した。
叔父さん大公は夫婦で泊まれる部屋か、家族用かで迷ったけど、ミシアが砦にいるなら丸塔の自分の部屋で寝ると言うので夫婦用に。
ちょっと叔父さん大公とフィアさんが寂しそうにしてた。でも、子供なんてそんなものでしょ。
到着したその日は、料理人さん達は揃ってデンセットへお買い物。荷馬車も引き連れていったから、多分大量の食材を買ってくるんじゃないかなー。
……亜空間収納に、いくつか食用の肉類とか、あったよね。
『出すと、時間停止の収納を持っている事がバレますよ』
そうだったー。出せないわ。
四番湯のある、旧ザクセード領とアメデアン領の境にある山地を目指して、空を行く。
大型の絨毯なので、十人+じいちゃんと私の十二人全員乗れてます。
結局、料理を作り終えるのに三日かかったっていうから、どんだけ作ったのと料理人さん達を労いたい。お疲れ様でした。
料理は出来た側から食料棚へと入れられて、無事じいちゃんの収納に入っております。
食料棚にいれた時点で時間が停止するから、じいちゃんの収納の中でも停止したまま。腐敗は怖いからね。
絨毯のスピードはちょっとゆっくり目。初めて乗る人が多いから、配慮した結果なんだ。
おかげで、領主様は下を覗き込みながらきゃっきゃとはしゃいでいる。
「おお! これは愉快!」
結界が張ってあるから落ちないけど、あんまり乗り出さない方がいいですよ、領主様。
叔父さん大公とフィアさんは、お互いにしっかりと手を握り合って固まってる。
「お父様、お母様も大丈夫?」
「う、うん、何とかね?」
「だ、大丈夫よミシア。私は二回目だもの」
最初の時は寝ていたから、殆ど記憶にないんじゃないかなー? まあ本人が大丈夫って言うんだから、大丈夫なのか。
ジジ様は、侍女様方と一緒に涼しい顔。時折遠くを眺める余裕まであるよ。さすがです。
「……本当に空を飛んでいるんだな」
しみじみ言うのは銀髪陛下。剣持ちさんは、空の上でも周囲への警戒を怠らない。護衛の鑑だね。
そろろ山地が見えてくる。
「……あの周囲を廻るのは、堀か?」
銀髪陛下は、山地の周囲に張り巡らせた堀に目を付けたらしい。
「そうですよー。侵入者対策と、山の魔獣が出てこないようにと思って」
「ああ、確か、魔獣だらけの山という話だったか」
そうなんだよねー。だから道を作る事もなく、放置されたままだったんだ。
難工事にはなるだろうけどこの山地に道を通せば、アメデアンと旧ザクセード領の行き来が楽になっただろうに。
さすがに魔獣がたくさん出るんじゃ、道を作るメリットよりもデメリットの方が勝るからね。
ここまで来れば、四番湯はもうすぐだ。
「……あれは?」
「あれが、四番湯ですよ」
「これはまた、変わった建物だねえ」
「まあ、何と美しい宮殿でしょう」
いや、ジジ様。宮殿じゃありません。温泉別荘です。見た目はイスラムのモスクを真似たけど、中身とか細かいところは全くの別物ですし。
建物の前に下りたら、全員がぽかんと建物を見上げている。それはそれで、ちょっとおかしい感じ。
ここも、普通に宿泊出来るように個室が作ってある。もちろん、五番湯の方もそう。
さて、誰がどっちの温泉を選ぶかな?
『温泉はそれだけで貴いものです。選ぶなどもっての他!』
別に、どっちが優れている劣っているって訳じゃないから、好みで選んでもいいと思うんですけどね。
ちなみに、私は五番湯の方が気に入ってる。岩盤浴は正義ですよ!
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