第342話 命の洗濯~

 王都の夏祭りが終わった。本来なら、王宮であれやこれやあったんだろうけど、今回は自白祭りがあった事で全てキャンセルに。


 おかげで好き勝手に王都を見て回れたからいいけどねー。あれ、通常通りだったら、多分王宮のイベントに私もかり出されてたんだろうな……


 今、目の前に積み上げられているドレスが、それを物語っている。


「これはサーリの分だから、大事にしまっておくわね」


 何故保管? しかも、夫人が。聞いて見たら、大変いい笑顔で「夏はまだ終わっていないわよ?」って言われたんですけどー。


 折角ドレス三昧から逃げられたと思ったのに。



 砦までは、絨毯でひとっ飛びする事が決定。領主様や、とりわけ夫人が絨毯に乗りたがったけど、丁重にお断りしておいた。


「すみません、定員を超えてしまうので……」


 嘘だけどねー。あ、ミシアはしばらく大公領に里帰りする事が決まったよ。フィアさんがミシアと一緒にいたいって希望したんだって。


「だって、ろくに側にいられなかったから」


 そうだよねー。病気があったもんね。ミシアもなんだかんだ言いつつ、両親と一緒にいられるのが嬉しいみたい。


 という訳で、絨毯には私とじいちゃん、ユゼおばあちゃん、ジデジルの四人です。いつも通り、奥宮の中庭から出発だ。


「温泉、楽しみに待っていますよ」


 あ、そうだった。疲労回復や怪我、病気からの回復にいいのは四番湯五番湯なので、そっちに誘おうかな。


 疲労回復だけなら一番湯でもいいんだけど。ここはやっぱり、一番新しいところがいいでしょ。


 次行く時は、最初から銀髪陛下の参加も考えておいた方がいいんだろうなー。領主様も一緒かな? その時は、馬車で現地まで来てもらおう。




 王都から砦までは、最速記録を出してみた。いやあ、頑張れば片道一時間で何とかなるんだね。


 数日留守にしていたけど、不在の間も魔法で浄化や洗浄がされるから、砦の中は綺麗なまま。


 帰ってきたばかりだからか、みんなもちょっとお疲れモード。ポイント間移動で温泉にでも、と思ったけど、明日でいいや。


 今日は手持ちの料理で簡単に食事を済ませ、明日みんなで四番湯に行こうと決める。


 砦の自分の部屋で寝るのは、何だか久しぶり。素材にはこだわって作ったベッドと寝具、枕だから、領主様のお屋敷や王宮の寝具にも負けないよ。


 今日は移動だけで何にもしていないはずなのに、妙に疲れてる。ああ、ネレソールと王都で、目一杯力込めて浄化をやったっけ。


 多分、その疲れが今来てるんだなあ。まだ午前中だっていうのに、何だかやたらと眠い。


 昼寝ならぬ、午前寝だね。お休みなさーい。




 翌日は、予定通り四人で四番湯を堪能しに行く。


「ほう。こりゃまた変わった建物だのう」

「なんて綺麗な……」

「夢のようです」


 ユゼおばあちゃんとジデジルは、イスラム風の建物を見上げて溜息吐いてる。ふっふっふ、そうでしょそうでしょ。綺麗でしょ。


 青のグラデーションを出すのに、苦労したんだから。主に素材集めで。いやあ、あのワニは二度と狩りたくないわー。


『魔獣ですから、放っておけばあの沼に再び湧きます』


 マジでー!? 皮が高値で売れるからいいけど、あの大口開けた姿は、あんまり見たくないのになあ。




 四番湯には岩盤浴がないので、お昼を食べたら五番湯の方も試してもらおうっと。


 今は四番湯でまったりくつろいでおります。


「景色が見られないのは残念だけれど、この壁に描き出された模様が美しくて、見飽きないわ」

「本当ですねえ。素晴らしい出来です」


 女性陣二人には、好評のようです。後でじいちゃんにも感想を聞かなきゃ。


 湯上がりには、いつものようにイチゴミルクと、今回はちょっとしたサプライズを。


 ジャジャーン、作務衣でーす。ヌメリゴマから取った糸で織った布で作ってるから、肌触りもいいし、薄くても暑さ寒さをしのげる優れもの。


「まあ、これは何?」

「作務衣っていうの。上衣と下衣に別れてるから、こうやって着てね」


 こっちの世界、一応下着のパンツはあるんだけど、いわゆるドロワーズなんだよねえ。


 なので、下着ももうちょっと裾を短くしたタイプを用意。二人に渡して着心地を聞いてみた。


「肌触りがいいわねえ」

「これ、動きやすいですよ」


 とりあえず、二人には好感触。じいちゃん用も作って渡しておいたけど、どうかなあ? そろそろ向こうも、上がったかな?


「おお、こりゃ、この着方で間違っておらんかのう?」

「うん、大丈夫。よく似合ってるよ、じいちゃん」


 作務衣は男性でも女性でも着られるから、楽だよね。女性用は、心持ち下衣の裾を長目にしておいたよ。


 四人で中庭に出て、冷たいお茶で一服。あー、気持ちいいなあ。


「日の高い時間から、お風呂に入ってまったり出来るなんて、贅沢ー」

「本当に」

「温泉は気持ちいいですものねえ」

「命の洗濯じゃわい」


 ユゼおばあちゃんもジデジルもじいちゃんも、温泉で疲れを取るといいよ。私も、浄化の疲れを癒やしておこうっと。


 さて、ここでお昼を食べたら、今度は五番湯を試そうか。岩盤浴は、また違った気持ち良さがあるからね。

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