第341話 水入らずでどうぞ

 明けて翌日、朝から奥宮に来た領主様と銀髪陛下は、明らかに寝不足の目をしている。


「酷い顔ねえ、二人とも。そんな調子で、王宮の行事を乗り切れるのかしら」

「夏の王宮行事でしたら、特例で中止になりましたよ」

「さすがに、大物貴族があれだけの数、罪の自白をしましたからねえ。しかも、大勢の前で」

「まだ騒動が下々まで下りてはいないが、祭りが終わる頃には、王都中が大騒ぎになるだろうな」


 何でも、夏祭りの間中、王宮では連日催し物が開かれるはずだったそうな。毎年恒例で、街が祭りで騒いでいる間、王宮でも貴族達が楽しんでいたんだって。


 で、今年は集まった貴族の中でも、特に爵位が高かったり権力がある家の当主がこぞって、罪の自白をし始めた訳だ。


 その騒動が収まらないから、今年の王宮での夏祭りの催し物は中止となったらしい。


 それに反対する人もほぼおらず、何人かは既に王都を出て領地に戻ってるんだってさ。


 大変だのう。


「ああ、そうだ。ミシア、叔父上から、明日には王宮に来ると連絡があったぞ」

「本当に? 今年は領地でお母様と二人きりで過ごすと思ったのに」

「娘に会いたくなったんだろう?」

「そうかしら」


 ミシア、ドライだなあ。




 忙しい領主様達は放っておいて、本日も王都を楽しみます。


「うわあ! 凄い人!」


 そして、本日から参加人数が増えました。ユゼおばあちゃんとジデジルはいいとして、何でミシアまで?


「だって、王宮にいてもつまらないもの」

「ジジ様とおしゃべりしてれば?」

「ずっとじゃ飽きちゃうわ」


 ジジ様、哀れ。可愛がってる孫娘が来てるっていうのにねえ。


「だったら、お婆さまも街に下りてくればいいのよ」

「いや、それはちょっと」

「姫、護衛の立場からも、おやめいただたくよう進言いたします」


 剣持ちさんが、凄い真剣な表情でミシアに言ってる。立場的に、ジジ様の警護の方がミシアのそれより大変だもんね。


 まあ、ジジ様が来たとしても、私が結界を張るので危険はないと思うけど。魔法を無効化出来る人って、まだ見た事ないし。


 そういう人が来ても、私の術式だけは破られないからいいんだけどね。


 ぶっちゃけ、私が使うのは「魔法」とはちょっと違うらしいよ。込める力が違うんだって。だから他の人では使えないような術式も、使えるのかな?


 そんなだから、多分魔法を封じるような術式を使う人が出ても、大丈夫だろうっていうのが、じいちゃんの話。


 その割には、じいちゃん特製の魔法封じの腕輪、効いたんだけど。


 じいちゃん曰く「使えないと思い込んだから、使えなかっただけじゃないかのう?」だそうだ。思い込みって……


 まあともかく、今もユゼおばあちゃん達やミシアには、私特製の結界を張ってあるので、安全な訳ですよ。


 人数が増えても、街でやる事はあまり変わらなかった。屋台を見て回り、劇場にかかった芝居のタイトルを見たり、それとは別に見世物小屋や芝居小屋を冷やかしたり。


 ミシアは劇場に入りたがったけど、ネレソールで見たタイトルだから私が断固拒否した。行く時は、剣持ちさんと二人でどうぞ。


 ミシア、むくれてたけどね。私はあんな内容の芝居、二度も三度も見たくないっての。




 そんな王都観光の翌日、朝っぱらから元気な叔父さん大公とフィアさんが、奥宮にやってきた。


「ミシアー! 元気だったかい!」

「会いたかったわ」

「お父様、お母様」


 昨日はあんな事言っていたけど、やっぱり両親を前にすると嬉しそうだねえ。十二歳は、そうでなきゃ。


「王宮は大変だったらしいね。カイドが死にそうな顔をしていたよ」


 叔父さん大公、そう言いつつも顔がにやけてますよ。可愛い甥っ子が大変な目にあってるのに、面白がってるな?


 ……可愛い? 銀髪陛下って、可愛いっけ? まあいいや。


「ナバル、祭りの期間はこちらにいられるの?」

「ええ、何やら神のご加護のおかげで、鬱陶しい連中はまとめて軟禁中ですからねえ」


 例の自白大会をやった貴族達は、現在王宮の一角に軟禁中だそうだ。牢屋行きになっていないのは、腐っても貴族だからだとか。


 見張りも立ててるんだけど、本人達が罪を償う気満々なので、逃げ出す素振りすらないんだって。


 出力大の浄化、恐るべし。




 その後もメンバーを変えて王都に繰り出した。叔父さん大公とフィアさんまでついてきた時には、剣持ちさんの額に青筋が見えたけど。


 まあ、叔父さん大公に悪さしようとするような連中は、軒並み自白して軟禁中だから、今が一番安全な時期なんじゃないかなあ。


 それにしても、親子って興味が似るのかね? フィアさんじゃなくて、叔父さん大公が例の芝居を見ようと言い出したよ。


 今回は親子水入らずで観劇してもらいました。その間、私とじいちゃん、ジデジルは他の区域を見て回った。


 ユゼおばあちゃんは、早々にジジ様と奥宮でまったりする事を選択。体力落ちてるだろうから、無理はよくないよね。


 その割には、じいちゃんはよく動くなあ。いや、じいちゃんまで奥宮でまったりしていたら、下手するとジデジルと二人きりになるので、それは勘弁です。


 少しはまともになったかと思ったけど、基本は変わらないんだもん。ジデジルがまともになる日って、来るのかな?

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