第340話 明暗分かれる

 王都はしっかり堪能した。主に食という意味で。さすがに国の中枢、各地からいろんなものが集まる街なんだねえ。


 新鮮なものは王都周辺からしか持ち込めないけど、ドライなものなら割と遠くからでも持ち込めるそうな。


 日持ちしないものを持ってきてもねえ。じいちゃんに作ってもらった食料棚が一般に普及するくらいになったら、食の革命が起こるかも?


 まあ、必要素材が素材だから、そう簡単に普及はしないか。下位とは言え、ドラゴンの血が必要だからさ。


 お昼もしっかり街で食べて、日が暮れかけてきたので王宮に戻る。いや、夏の日って、長いよねえ。夕方くらいだと思っていたら、もう夕飯の時間過ぎてたわ。


「どおりでお腹が空くと思った」

「お主……屋台であれこれ食べておったろうに」

「えー? 軽いものばかりだもん。歩いたからお腹空くよ」


 カロリーはちゃんと消費しているのだ。そのまま貯めたら……怖いから、考えるのやめよう。


 奥宮に戻ったら、何やらどんよりとした空気が。いつもの部屋を覗くと、ぐったりしている銀髪陛下と領主様、扇の陰で眉間に皺を寄せているジジ様がいる。


 ユゼおばあちゃん達は、まだ戻っていないのかな?


「まあ、戻ったのねサーリ」

「あ、はい。遅くなりました……」

「いいのよ、祭りの期間ですものね。ああ、この二人は見逃してやってちょうだい。表があまりにも酷くてね」


 あー、浄化の影響で自白しちゃった貴族の人達かあ。何でも、罪が軽微なものからかなり重いものまであって、しかも関わっている人が複雑なんだとか。


 それを解明するだけでも、かなり時間がかかりそうなんだってさー。お疲れ様でーす。


 実は神子の癒やし能力には、疲労回復も含まれるんだけど、ここで使ったら一発でバレるから使わない。


 ごめんなさい、領主様。その代わり、何か別の形で役に立つようにしますから。


 あ、単に疲れてるだけなら、温泉で癒やすって手もあるなあ。特に四番湯や五番湯は作ったばかりだし、岩盤浴も効くんじゃなかろうか。


「お二人とも、お疲れですね」

「そうだね……見苦しいのは許してくれたまえ」

「書類を読みすぎて頭痛がしてきたぞ……」


 大分疲れが溜まっているご様子。


「温泉って、疲労回復にも効きますよ?」

「それは本当かい? サーリ」

「よし! 今すぐ温泉に行くぞ!」

「え? いやいやいや、今すぐは無理でしょう」


 大体、もう日が暮れかかってますよ。確かに行こうと思えば一瞬で行けるけど、ポイント間移動はまだ教えないって決めてるし。


 絨毯なら行けるか? でも、王都からだと二、三時間はかかるし。あ、でも二番湯と三番湯なら大丈夫かも


 温泉と聞いて、ジジ様も目がキラーンと光る。


「サーリ、温泉なら私達も行きたいわ。でも、それもこれも夏祭りが終わってからよ、カイド」

「うう……まさか今年に限ってこんな事になるとは……」

「男でしょう。弱音は吐かない!」


 いや、ジジ様。男性だって弱音吐きたい時もありますって。




 しばらくしたら、ユゼおばあちゃん達が戻ってきた。ぐったりしている男性陣に比べて、何だか二人とも肌の色艶がいいんですけど。


 何があったの?


「まあ、ユゼ様、お帰りなさい。収穫はありまして?」

「ええ、豊作でしたとも」


 ジジ様とユゼおばあちゃんが、お互いにうふふおほほと笑い合っている。……二人が行ったのって、大聖堂じゃなかったっけ?


 首を傾げていたら、ジデジルがそっと教えてくれた。


「大聖堂の奥に隠してあった、不正の証拠が山程出てきたんです。ついでに、帳簿も大分遡って調べましたところ、横領も見つかりました。他にも、貴族と結託している証拠の契約書等も出て来まして」


 あれー? 王都の教会って、一度じいちゃんと悪行の証拠を総ざらいしたよね? 検索先生に調べてもらったから、抜けはないはずなんだけど……


『あの総ざらいの後に、またしても悪事に手を染めていたようです。また、王都の聖職者が更迭された関係で、各地から人員が集められましたが、彼等が地元で行っていた悪行の証拠も、一緒に王都に持ち込んでいました』


 自ら証拠を持ってくるとは、聖職者ってバカなの?


『自分達の悪事の証拠ではありますが、手を組んだ貴族への脅しの材料にもなりますから、簡単に破棄せず、かつ常に手元に置いておこうとしたのでしょう』


 あー、なるほど。保身の為か。納得。でも、そんな証拠類を、簡単に見つかるような場所に置いていたのかな?


「それ、全部自分達で探したの?」

「いいえ。我々が大聖堂に到着した途端、全員でひれ伏して自ら証拠を差し出してきました。かなり怯えていましたよ」


 ……神子が浄化をしたら、不正をしていた聖職者が怯えるとは、これ如何に。


『強制改心程の威力は持ちませんが、神子の高出力浄化は神罰に近いものをもたらします。だから悪人は改心し、善人や悪人ではない者達にはささやかな祝福になるのです。曲がりなりにも神に近いとされる場所にいる聖職者達は、それを肌で感じ取ったのでしょう。このままでは、次はない、と』


 浄化が脅しになった訳? 何だかなー。まあ、悪い事をしなければいいんだから、心を入れ替えて修業に励むがいいさ。


 その前に、王都の大聖堂からは追い出されるだろうけどね。そこら辺は、この二人は容赦しないと思う。


 それもこれも、悪さした自分達が悪いんだしね。


 それにしても、悪事の証拠を押さえたから、二人とも肌艶がいいのかね? よくわかんない。

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