第339話 通常運転

 銀髪陛下によると、侯爵が作り上げた密売組織は、本当に色々なものを扱っていたらしいよ。


 その中でも一番たちが悪いのが、人身売買。


「盗賊に攫わせた女達を、南大陸に売りさばいていたんです。しかも、自分に疑惑の目が向かないよう、自領は一切使う事なく、組織運営も幾人も人を挟んでいたのだとか」

「努力するべき点を間違えているわね」

「まったくです」


 どうせ努力するのなら、まっとうな方面に力を注ぐべきだったのにねえ。その努力も、こうして浄化の力の前にもろくも崩れた訳ですが。


 何だっけ? こういうの言い表す古典の言葉があったような……


「諸行無常……おごれる者は久しからず?」

「何をブツブツ言ってるんだ?」

「あれ? 銀髪陛下、ジジ様とお話ししていたんじゃないんですか?」


 いつの間に目の前にいるんですか、本当にもう。しかも、人を見下ろしながら眉間に皺を寄せてるし。癖になるよ?


「やかましい」

「あれ?」


 また口にしていたらしい。やっべー。癖になってるっぽいよ。


「ともかく、ガリヤバーン侯爵の一件だけでも、全容解明に時間がかかりそうです」

「そのようね。でも、犠牲者がいる以上早期解決するよう、力を尽くしなさい」

「心得ています」


 ジジ様も銀髪陛下も、貴族達の罪の自白にはらわた煮えくり返っている様子。


「さて、ジデジル、私達はそろそろ参りましょうか」

「はい、ユゼ様」


 ユゼおばあちゃんとジデジルは、王都の大聖堂に行くらしい。……私の浄化じゃ、聖職者の強制改心まではないんだよね?


『安心してください、ありません』


 良かった……これで聖職者まで強制改心していたら、ちょっと浄化を使うのが怖くなるところだったわ。


「あら、ユゼ様はどこかにお出かけ?」

「ええ、ちょっと大聖堂の方に」

「ああ……ご武運を」

「ありがとう」


 ジジ様とユゼおばあちゃんが、お互いにサムズアップしてる様子が見えた気がしたけど、幻影だったらしい。


 武運には、確かに勝ち負けに関するものもあるらしいね。でも、この世界だとまんま戦に関する方が強いはず。


 大聖堂行くだけなのに。内容考えると、確かに「戦い」に近いのか。


 どっちかって言ったら、ユゼおばあちゃん達の圧倒的パワーで敵をなぎ倒すイメージだよね。




 王宮組も聖地組も何だか忙しそうだから、じいちゃんと二人で王都の街に出てみようという事になった。


「なのに、何でいるのかな? 剣持ちさんは」

「フェリファーだ。お前、本当に人の名前を覚えないんだな」

「失礼な! ちゃんとフォックさんやローメニカさん、ジジ様や侍女様達の名前は憶えていますよ!」

「なら、どうして閣下や陛下、俺の名前は覚えないんだよ!」


 うーん、どうしてだろうね? 首を傾げておいたら、剣持ちさんが諦めたらしい。


「まあいい。陛下からも頼まれているから、王都の案内くらいならしてやる」

「ありがとー!」


 やだ、剣持ちさんったら、ちょっといい人になった?


 王宮から街までは、馬車を出してもらった。


「この馬車なら、行き帰りの検問に引っかからずにすむ」


 あれかー。そういえば、あそこにいた門番の人達、ちゃんとお風呂に入るようになったかな? 臭かったからねえ。


 貴族のお屋敷街を抜けて、検問を出てちょっと行った先に、小綺麗な宿屋がある。お金を持った商人とかが使うらしい。


 そこに馬車を預けて、いざ王都見物へ。いや、何度か来てるけど、いつも王宮とか領主様のお屋敷に直行してたから、あんまり街は見てないんだ。


 それに、今日はいい案内役もいる。そういえば、剣持ちさんって前もお屋敷街の案内をしてくれたっけ。


「ここをまっすぐ行くと、王都でも一番大きな広場に出る。この時期は屋台も多いし、広場に面した劇場では、特別公演も行われているな」

「ほほー」

「屋台なら、覗いてみるのもええのう」


 そうだねー。まだ午前中だから、屋台は冷やかし程度かな。お芝居は、ネレソールでミシアに付き合わされたから、しばらくいいや。




 広場の屋台は、食べ物だけでなく木工製品やら農機具、果ては銀細工まであった。カオス。


「木の皿売ってる隣に短剣売ってる店があったり、その前には銀細工の店があったり、ごちゃ混ぜな感じだね」

「向こうには、近隣の農家が野菜や果物を売ってる。その場で食べられる店もあるぞ」

「おお」


 果物くらいなら、入る入る。さすがに夏だから、動いて汗かいてるし。水分補給代わりに、ちょっと買って食べようかな。


 行ってみたら、結構大きな屋台だ。売り子のおばちゃん達も複数いて、売り場には果物や野菜が山盛り。


 その場で食べられる果物は、専用の売り場があるみたい。でも、そっちで扱ってる果物の種類は、売ってるものより少なめかな。


「こっちのも、この場で食べられればいいのに」

「おや、こっちのが食べたいのかい? なら、一かご買って向こうのに渡して剥いてもらいな」


 あ、そういうサービスもやってるんだ? よし、ならこれとこれとこっちのを買おうか。


 三種類の果物を買って、剥いてもらってその場で食べる。売り場に置いてあったからか、ぬるいなあ。


 ここは一つ、魔法でちょっと冷やそうか。一緒に食べてた剣持ちさんがびっくりしてたけど、私達にはこれが通常だ。


 やっぱり、冷やした方がおいしい。

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