第338話 ヤバいの出てきた
翌朝はいい天気。窓の外には、晴れ渡った空の下、既に動き始めている王都が見える。
てか、王宮って高台にあったんだね。今頃知ったわ。
「おはよーございまーす」
身支度を調えて、来客用の食堂へ。おっと、私が最後だったらしい。
「おはよう、サーリ。いい朝ね」
「おはようございます、ジジ様。空がすかっと晴れ渡っていますね」
「サーリって、時々おかしな表現をするわよね」
ミシアが首を傾げながら言ってくる。何か、おかしな事を言ったかな? 覚えがないんだけど。
じいちゃん達にも、朝の挨拶。席について朝食だ。
と思ったら、何故か銀髪陛下と領主様ご夫妻も来た。
「あら、やっぱりこちらに来たわね」
「向こうじゃ食べた気にならない……」
銀髪陛下、大分お疲れのご様子。王宮の表って、そんなに大変なのか。まあ、祭りの期間は人が増えるって話だもんね。挨拶攻撃にさらされたのかな?
おやつの時間にお茶を飲みつつユゼおばあちゃんの部屋でのんびりしていたら、ジデジルがおばあちゃんをじっと見てる。
「ユゼ様、昨日と何やら違うような気がするのですが」
「あら、何が?」
「こう、内側から光り輝くような……」
ギク。ジデジル、目が良いな。ユゼおばあちゃんは、コロコロと笑っている。
「あらまあ。嬉しいわ。きっと、私の祈りが神に届いた証拠でしょう」
「まあ! 祈りが届くと、そんな変化が!?」
「ええ、きっとね」
ジデジル、ユゼおばあちゃんにしっかり乗せられてるよ……。祈り以外にも、神の威光を高める為に、教会の不正を正すように言いくるめられている。
いや、最初からやる予定だったはずだから、いいんだろうけど……もうちょっとこう、ジデジルはユゼおばあちゃんを疑った方がいい。
「わかりました! 神への祈りが届くよう、国内はおろか近隣諸国の教会の不正も、まとめて正してみせます!」
鼻息が荒い。ユゼおばあちゃんは「その調子よ」とか言ってるし。そういや前に、馬車馬のごとく使い潰せって言っていたっけ……
「そうとなれば、このまま王宮で安穏としてはいられません。王都の大聖堂へ向かわなくては!」
「それは、もう少し後でもいいのではないかしら? 害虫は簡単に逃げませんよ」
おばあちゃん、とうとう不正を行う聖職者を害虫呼ばわりだよ。確かに、教会組織を内側から食い潰すって意味では、害虫か。
意気込んでいるジデジルを見ていたら、誰かが来たらしい。奥宮のメイドさんが報せてきた。
誰だろう。
「やあ」
領主様だった。銀髪陛下もいる。夫人とミシアは一緒じゃないんだ。
いつも通りにこやかな領主様とは対照的に、銀髪陛下は眉間に深い皺が。何があったんだろう?
「さて、バム殿。昨日言っていた通りの事が、今日起こったよ」
「ほう?」
「例のババー男爵及びレグキア伯爵、他にも色々悪さをしている貴族達が、我先にと懺悔しに来たんだ。朝、奥宮に逃げてきたのは、それが原因でね。まあ、結局今の今まで懺悔に付き合っていたんだが、どうにも終わりが見えなくて困る」
「ほほう。それはまた」
「まさか、ガリヤバーン侯爵が一連の騒動に関与していたとは、思ってもみなかった……」
銀髪陛下が、苦々しく言った。その侯爵の事、信用していたのかな? だったら裏切られたって事だし、落ち込むのもわかる。
同情していたら、領主様がじいちゃんにずいっと詰め寄った。
「で? 一体バム殿は何をしたのかな?」
「はて? わしには何の事やら」
「ほう? では、何故昨日あのような事を?」
「そこはほれ。神に最も近いと言われている教皇がここにおるのじゃし」
「では、これはユゼ様がなした事だと?」
領主様と銀髪陛下の目が、ユゼおばあちゃんに向かう。おばあちゃんは、いつも通りにっこりと笑っているだけ。
「あらまあ。私は既に引退した身ですから、元教皇ですよ」
ほほほ、と笑うユゼおばあちゃん。でも、否定はしていない。肯定もしていないけど。あれだ、玉虫色の答えだ!
さすが、長らく聖地なんて地獄を取り仕切っていただけはある。聖地なのに地獄とはこれ如何に。でも間違ってないと思う。うん。
領主様も、ユゼおばあちゃん相手では詰め寄れないらしい。女性だし、元教皇って立場もあるからね。
じいちゃん、これをわかっていて誤魔化し役をユゼおばあちゃんに振ったな。
「食えないじいちゃんだ」
「何か言ったかの?」
「何でもなーい」
やべ、口から出てた。
「ともかく、表は今大騒動だ。落ち着くまで、しばらく奥にいさせてください」
「その大騒動を収めるのも、あなたの仕事ではなくて?」
ジジ様にじろりと睨まれて、銀髪陛下は肩をすくめる。見てくれがいい人がやると、様になるよね。
「俺がやるのはこの後ですよ。今やらせているのは、自白してきている連中の記録です。これが終わらない事には、動くに動けない」
「いや、皆ご丁寧に細かく己の罪を白状していますのでね。聞き取ってまとめるだけでも一仕事ですよ」
銀髪陛下も領主様も、大変だね。ジジ様は扇で口元を覆ったまま「嘆かわしい事」と眉をひそめてる。
なんかね、細かいものからヤバいものまで、かなり広範囲に犯罪をしていたらしいよ。貴族が犯罪を犯すって、どうなのよ?
「中でも大きなものは、ガリヤバーン侯爵が作り上げた人身売買の組織です」
何かヤバいワードが出てきた。
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