第337話 混ざってる……

 領主様に名指しされたじいちゃんは、我関せずという感じでお茶を飲んでる。


「バム殿、鉱山に使っている土人形のようなもので、人の会話や何かを知る事は出来ないか?」

「出来るか出来ないかで言われれば、出来ますな」


 さらっと答えたー。まあ、確かにじいちゃんなら出来るわな。


 土人形って、人の形をしていなくても機能するんだ。例えばテーブルとか椅子の形をしたものも作れる。


 テーブルや椅子、花瓶なんかが盗聴器や盗撮カメラだったら、怖いよね? それを平気で作っちゃうのが、じいちゃん。


「それは本当か?」


 銀髪陛下が、疑わしい目でじいちゃんを見てる。失礼だな。でもじいちゃんは意に介さない。


「もちろんですぞ。ただ、今回は必要ないかと思いますがのう」

「……どういう事だ?」


 いや、本当にどういう事? じいちゃんは、ユゼおばあちゃんと目を合わせただけで、お茶を啜ってる。


「ま、全ては明日、わかりますじゃろ」


 そんな謎の言葉を残して、その場は解散となった。




 そのまま王都の領主様のお屋敷に戻るんだと思ってたら、ミシアと私、じいちゃん、ユゼおばあちゃん、ジデジルも奥宮にお泊まりだって。


 ジジ様に銀髪陛下が何か文句を言っていたけど、何だったんだろうね?


 そのまま、銀髪陛下も一緒に奥宮で夕飯を食べて、ジジ様達と少しおしゃべりしてから、部屋へと案内された。


 さすがにミシアとは部屋が離れてるみたい。忘れがちだけど、王族だからね。


 その代わり、じいちゃんやユゼおばあちゃんとは並びの部屋で、中の扉で移動可能だから良かった。


 今は四人でユゼおばあちゃんの部屋に集まってる。ジデジルが淹れてくれたお茶で、ほっと一息。


「じいちゃん、さっきの話の明日わかるって、何だったの?」


 それがずっと引っかかってたんだよねー。なのに、じいちゃんはおろか、ユゼおばあちゃんまで妙な顔でこっちを見てる。何?


「お主……王都でも、ネレソールと同じ規模の浄化をするんじゃろうが」

「そうだけど?」

「ネレソールでは、その結果何が起こった?」

「何がって……あ」


 そういえば、ネレソールを襲撃しようとしていた盗賊が、いきなり改心したんだっけ。


 って事は、あの何とか伯爵やババー男爵も、改心するって事?


「あのレベルのは、もうやらない方がいいかなーって思ったんだけど……」

「王都くらいは、浄化しておいた方がええ」

「そうかなあ。領主様にバレたりしたら、困らない?」

「とっくに知れておるじゃろ。国王の方はまあ、ばあさんが誤魔化してくれるさ」

「ほほほ、まったくこの爺さんときたら」

「ぐほ!」


 ユゼおばあちゃんの手が、じいちゃんの背中を思い切りひっぱたいた。私はしっかり見たぞ。叩く手に強化をかけていた事を!


 じいちゃん、大丈夫?


「げほっ。まったく、この婆、力だけは有り余っておる」

「何か仰ったかしら?」

「やめ、やめんか! わしの骨が折れるわい!」

「まあ、軟弱な」


 いや、ユゼおばあちゃん、本当にじいちゃんが死んじゃうからやめて。


 でも、おばあちゃんがかばってくれるなら、やっちゃうか。ちょうど夜も更けていい頃合いだし。


「じゃあ、ちょっと上に行ってやってくるね」

「気をつけての」

「いってらっしゃい」

「神のご加護を」


 三人に見送られて、部屋のバルコニーから空へ。外に出る際に、ちゃんと見えない結界を張っておいたから、誰にも見られていないはず。


 空から見る王都は、やっぱり大きい。壁の外まであふれ出て街が広がっている。そのうち、四つ目の壁が出来るのかもね。


 じっと見下ろしていると、街のそこかしこに黒いシミのようなものが見えた。あれ、土地にこびりついている瘴気だね。


『魔大陸が近かった事と、人が多い事から瘴気が残りやすいのでしょう。神子が行った浄化で、大分北の土地は綺麗になりましたが、こうして残っている箇所もまだあるようです』


 そういうところも、細かく回って浄化した方がいいんだろうな。後で、ユゼおばあちゃんにでも相談しようっと。


 さて、ここに来た目的を果たさなきゃ。検索先生、出力制御の手伝い、よろしくです!


『了解しました。ついでに、西の温泉がある領主の瘴気も、綺麗さっぱり消し去っておきましょう。今後の為です』


 ……そんなピンポイントな浄化って、出来るんだ? まあ、いっか。


 では。いきましょう!




 空からの浄化を終えて、部屋に戻る。じいちゃんとジデジルは自分の部屋に戻ったようで、ユゼおばあちゃんが出迎えてくれた。


「お帰りなさい。頑張ったようですね」

「えへへ。あ、ユゼおばあちゃんに、ちょっと相談があるんだけど」

「まあ、何かしら?」

「あのね」


 私は、空から見た王都の様子と、北の各国各地にこびりついているだろう瘴気の事を話した。


「そういうの、細かく浄化するにはその場に行ってやった方がいいみたいなんだ。で、あちこち回った方がいいのかなーって」

「そう……でも、それらは教会の方に任せてくれないかしら?」

「教会に?」

「ええ。もちろん、聖地からも高額な謝礼を取らないように通達するし、ジデジルが細かく教会を監視していくわ。必要なら、あのろくでなしの爺さんにも手伝わせるから」


 そう言って、ユゼおばあちゃんはその場に跪く。


「神子様。今だけは、あえてそう呼ばせていただきます。あなた様の尽力に対し、心からの感謝を。神子様のなしえた偉業に対し、我等は塵程の礼すら返せずにおります。にも関わらず、その清いお心で我等をお救いたもう御身に、何を持って報いればいいのか皆目見当もつきません。このような非才な我等を、どうかお許しいただきたく」

「お、おばあちゃん! そんなのいいから!」

「これも、この老骨の心を軽くする為と思し召しあれ」


 困るなあ、もう。どうにか出来ないだろうか。


『神子の祝福を授けてはどうでしょう』


 祝福? そんなのあるの?


『あります。今まで使う事がありませんでしたが、いい機会です。使いましょう』


 わ、わかりました。でも、どうやるの?


『ユゼの頭に手をかざしてください。後はこちらでやります』


 手をかざす……こうかな? おおおおお!?


 私の手が光った後、ユゼおばあちゃん自身が光り輝いた。おばあちゃんもびっくりだけど、やった私もびっくりだよ。


 驚くおばあちゃんの体は、次第に光が消えていった。


「これは……」

「ええと、神子の祝福とかいうものらしいよ?」


 なんとも締まらないけど、私は手をかざしただけだからねー。他は全部検索先生がやってくれたし。


 でも、ユゼおばあちゃんは大感激だ。


「おお! そのような栄誉を!」


 栄誉なの? ごめん、よくわかんない。とりあえず、明日の誤魔化し、よろしくお願いします。


 それにしても、ユゼおばあちゃん、ちょっとジデジルが混ざってきてない? 大丈夫?

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