第336話 こんがらがってきた
「サーリのドレス姿は初めて見ますが、よく似合っていますよ。そのままどこぞの令嬢として通りそうなくらい」
「あ、ありがとうございます」
一応、以前は第三王子妃をやっておりましたのでー。今となっちゃ、立派に黒歴史だけどね。
私が今日着てるのは、髪の色に合わせた濃いめのオレンジ色のドレス。レースにクリーム色や黄色を入れて、単調にならないように仕立てられたもの。
何でも、夫人が贔屓にしている仕立屋で仕立てたそうな。
髪は緩くまとめて、ドレスと同じ生地のリボンで飾ってる。あんまりゴテゴテするのは嫌だったから、シンプルに! ってお願いしたら、こうなった。
ちなみに、夫人は藍色のドレスで、ミシアは愛らしいピンクのドレス。こういう格好をしているのを見ると、お姫様だなあって思うよ。
和やかに過ごしていたら、遠くから何やら騒ぎが。
「またなの? 大方、カイドが来たのでしょう」
ジジ様、そんな嫌そうに……。でも、銀髪陛下が来たのなら、多分お付きの人とかが多くて騒がしくなってるんだろうなー。
と思っていたら、銀髪陛下がやってきた。
「カイド、いつも言っているけれど、やかましい人間は奥まで連れてこないでちょうだい」
「お婆さま、でしたら、夏祭りの間だけでも、表に出て来ていただけませんか? 皆お婆さまに挨拶を、と言って聞かないのですよ」
「それをどうにかするのが、あなたの仕事でしょう?」
「そうは言いますが」
ジジ様、銀髪陛下と言い合いを始めちゃったよ。孫息子には厳しいのう。でもまあ、表の事を奥まで持ってくるなっていうのは、その通りだよね。
やっとおばあちゃんと孫息子の口げんかが終わって、ほっと一息。出されたお茶を一口飲んで、銀髪陛下がうんざりしたように言った。
「それにしても、今日はやけにまとわりついてきたのがいたな……」
「陛下、どこの者です?」
「例の連中だ。特にレグキア伯爵と同行していた者達がしつこかったな」
「レグキア伯……ババー男爵も一緒ではありませんでしたかな?」
「誰だ? それ」
ちょ! 銀髪陛下! 自国の貴族の名前を聞いてそれとか! 領主様が顔をしかめちゃいましたよ。
「陛下」
「木っ端貴族の名と顔まで、憶えていられるか」
それ言っちゃ駄目なやつー。領主様は額を押さえながら溜息付いてるし。
「ババー男爵はレグキア伯爵の一門ですよ。最近、よからぬ噂も耳にします」
「詳しく話せ」
「ご婦人方の前ですよ。後でご報告いたします」
「ええー? 私は構わないのにー」
ミシア……ちょっと黙ってようか。ここでそんな話されたら、変な事に巻き込まれかねないじゃないか。
「構わんと言ってるぞ?」
銀髪陛下ー! 私は構うから! あ、これ、「では私はこのへんで」とか言って逃げ出せばいいのかな?
腰を浮かせかけたら、速攻ミシアに手を取られたんですけど。
「サーリ、どこに行く気? 迷子になるわよ?」
いや、ならないよ! 何ならほうきで領主様のお屋敷まで飛ぶわ! もごもごわたわたしていたら、話が始まっちゃったよ。あー、逃げ損ねた。
「ババー男爵に頼めば、希少な生物を手に入れられる、というものです」
「希少? それはどういう――」
「陛下、過日、ザクセード伯領で見つかった『もの』、憶えておいでですか?」
待って、ザクセード領の教会で見つかったのは、マクリアじゃないの。って事は、あの裏にはババー男爵とやらがいるって事?
あれ? じゃあなんで、ザクセード伯が関わってくるの?
「ザクセード伯のところで見つかったというと、グリフォンか?」
「私のマクリアだわ!」
「ミシア、少し黙っていろ」
銀髪陛下に怒られて、ミシアが不満そう。
「あれは、ザクセード伯が容認して、教会がやっていた密売ではなかったのか?」
「ザクセード伯は、場所を提供していただけのようですね。本人からの自白ですが、信用出来ます。実際、彼の自宅からは、その旨記した契約書も出て来ていますよ」
「密売の裏には、ババー男爵とやらがいたと? だが、そんな力があの男にあるのか? 当主は能なしだという話だが」
「おそらくレグキア伯が関わっていると思うのですが……」
「あちらも無能ぶりでは、そう大差ない。同じ派閥のネフォウス伯爵家が関わっているというのなら、納得だが」
「あそこは奥方が全て取り仕切っていますからねえ」
関係性がよくわかんない。と思っていたら、ミシアが夫人に小声で聞いている。
「シルリーユ様、どういう事かご存じ?」
「レグキア伯爵家は、カイド陛下に娘を沿わせたい人なの。ネフォウス伯爵もそうね。そういう意味では争いあっているのだけれど、裏では手を組んでいて、自分達の娘以外の貴婦人が陛下に近づくのを阻止しているのよ。で、ネフォウス家では、隣国から輿入れなさった奥方が力を持っているのですって。その分、ネフォウス家は隣国との繋がりが強いのだけど、傀儡とも言われているわね」
かかあ天下の家って事かー。そして、その奥様は隣国の傀儡、と。ネフォウス伯爵家って、獅子身中の虫ってやつ?
頭を整理すると、ババー男爵は幻獣やらをどうやってか狩って、密売している。マクリアがいい例。
で、その保管場所か取引場所として、領地を貸していたのがザクセード伯爵。
ババー男爵の当主は無能で、一門の本家に当たるレグキア伯爵家の当主も同様。密売組織を作る程の力量はないって事か。
どっちかって言ったら、レグキア伯爵と手を組んでいるネフォウス伯爵家の奥方の方が、そういうのには向いている、と。
「ともかく、両家の内情が知りたい。何か手はないか? ジンド」
「手なら、ないとも言えませんが……なあ、バム殿」
え? じいちゃん?
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