第334話 そういえばそんな事もありましたね

 結局後ろで騒いでいる人達はずーっと騒ぎ続け、周囲に迷惑を振りまくだけだった。


「まったく、自覚がない連中は困る」


 領主様、その自覚って、何の事なんでしょうね? 怖くて聞けないよ。


 王都への列は長いけれど、割と流れるのも早くて、一日待たされるなんて事はなかった。結局、列に並んだのも一時間くらいだったしね。


 ぼーっと一時間待つのはきついけど、馬車の中で夫人やミシアとおしゃべりしていれば、あっという間だったよ。


 そして、入った王都は凄かった。


「おおー」


 前来た時よりも、人が多い。通りにも凄くたくさんの人がいるから、馬車がなかなか進まないよ。


 それも途中までで、周囲に大きな建物が多くなり始めた頃には、普通に進むようになった。


 なんとなく気になって、後方の映像をこっそり見続けてたんだけど、あの婆……じゃなくてババー男爵の馬車、ずーっとこっちの後ろにぴったりくっついてきてる。


「領主様……」

「もしかして、男爵家の馬車の事かい?」


 何でもお見通しですね、領主様。ずっと後ろについてきてる事を伝えると、どうという事はないと返してきた。


「この辺りは貴族の王都別邸が並んでいるからね。彼等はおそらく本家に当たるレグキア伯爵家に行くんだろう。まあ、男爵家程度だと、王都に別邸を持っていない事も多いし」


 ああ、だから途中までは同じ道を辿る訳ですね。なら、後ろにべったり付かれていても、仕方ないのか。


 領主様の言葉は正しかったらしく、背後の男爵家馬車はいつの間にか姿を消していた。


 そして、周囲のお屋敷がどんどん大きく立派になっていく……いや、既にいわゆる貴族街に入ってるんだろうけどさ。それにしても大きい。


 王都も周囲を壁で囲った街なんだけど、この壁も三回ほど拡張しているらしいよ。


 で、貴族街に当たるここら辺は、一番最初の壁の内側に当たるんだって。


「探すと、古い壁の部分が見つかるよ」


 そう笑う領主様だけど、大体はどこか大きな貴族の別宅の中だそうだから、簡単には探せないんだってさ。そりゃそうだよねー。


 そして、領主様のお屋敷は貴族街でも大分奥にある。あ、そういえば、一度貴族街に入る前の検問所で止められた事、あったっけ。


 あの臭い人達、ちゃんとお風呂に入るようになったかなあ。




 王都の領主様のお屋敷は、いつ見ても大きい。まあ、見る度に大きさが変わったら、そっちの方が怖いよね。


「さて、今日はゆっくり休んで、明日には王宮にご挨拶に行くよ。ユゼ様も、我が家と思っておくつろぎください」

「ありがとう」


 あてがわれた部屋は、私、ジデジル、ユゼおばあちゃんの並びだ。じいちゃんは反対隣。


 ミシアは領主様の部屋の並び。そっちは上級のお客様用らしい。ユゼおばあちゃんもそっちじゃないの?


「最初はそう言われたのだけれど、もう教皇ではないしねえ」


 あ、やっぱり最初はそっちだったんだ。でも辞退した、と。まあ、ジデジルと一緒の方が気楽だもんね。


 時刻は昼前。ちょっと着替えて王都の様子を見に行ってもいいかなあ。じいちゃんに相談したら、首を横に振られた。


「やめておけ。お主が行くとなったら、ミシアも行きたがるじゃろう。領主殿に迷惑をかけてはいかんぞ」


 それもそうか。しょうがない。今日はおとなしくしておこうっと。でも、お屋敷の中でどうやって過ごそう。


 普段、好き勝手に行動してるからなあ。あ。


「ブランシュ達、元気にやってるかな」

「気になるなら、島ドラゴンのところまで行ってきたらどうじゃ? 丁度果実を差し入れる頃合いじゃろ」

「そういえばそうだった。じゃあ、ちょっと行ってくる」


 ポイント間移動を使えば、時間はかからないからねー。


 で、果実を大量に収納に入れて島ドラゴンのところに行ったら、親グリフォンも来ていて、ブランシュとマクリアが一緒にじゃれついていた。


 グリフォンって、余所の子でも我が子同様に扱うんだって。個体数が少ないし、縄張りを主張する事もないからだそうだ。


 マクリアのように、何らかの理由で親をなくした子を見つけたら、通りすがったグリフォンが拾って育てるらしい。


『だから、この子も吾子同様に扱う』

「そっか。良かったね、マクリア」

「フイ」


 あ、ぷいってそっぽ向いちゃった。


「マクリア、照レテルヨ」


 そうなの? ノワールにばらされて、マクリアがノワールをくちばしでつついてる。


 とりあえず、うちの子達が元気そうで良かった。神馬も島ドラゴンも、果実をおいしそうに食べてるし。


 あ、一応金ぴかドラゴンにも分けてあげてね。……何でそう悲しそうな顔するのよ。また取ってきてあげるから。




 お屋敷に戻ったら、ちょうどお昼。お屋敷の食事は大変おいしゅうございました。そしてここでも磁器。


 うん、自分で作った器で食べるご飯もなかなかです。


 食後はのんびりしていようかと思ったら、またしても夫人とミシアに捕まった。


「さ、王宮で着るドレスを試着してみましょうね」


 え? あれ? ドレスはこの間、散々選んだはず……


「あれはネレソールでのもの。大丈夫よ、あの時のドレスを参考に、寸法はちゃんと合わせてあるから」


 嘘でしょおおおおお!

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