第332話 誤魔化せないかー

 昼食はじいちゃんや領主様と一緒。いやあ、この二人と一緒でこんなに気が落ち着くなんて、思わなかったわあ


「サーリは大分疲れているようだねえ」


 ここで「はい」なんて答えようものなら、きっと夫人とミシアから笑顔で睨まれるという器用な事をされるでしょう。


 なので、へらっと笑って誤魔化す。そういうの、日本人は得意。その後、領主様からも夫人からも追撃がなかったので、うまくいったはず。


「そうそう、今朝方、ちょっと面白い事があったよ」


 そんな言葉で切り出された領主様の話は、ちょっとどころではない内容だったんだけど。


 何でも、近隣を荒らし回っていた盗賊団が、全員揃って早朝ネレソールに自首してきたらしい。


 彼等の証言に従い探したところ、本当に隠れ家があって、彼等が自白したように攫った女性達がいたそうな。


 え……それ、面白い話なの?


「まあ、面白いではなく、酷い話ではありませんか」


 そうですよねえ。もっと言っちゃってくださいよ夫人。


「いやいや、まあ犠牲者が出ているのは確かなんだが、その連中、本当はここを襲うつもりだったそうだよ」

「え?」


 ここって、領都を? さすがにこの一言には、その場がしんと静まりかえった。


「だが、彼等は途中でいきなり改心し、これまでの悪行を全て白状したらしい。おかげで南への人身売買経路もわかったし、その調査と壊滅に向けて、ちょっと忙しくなりそうだ」


 ……何だろう、どこかで聞いた事があるような話だなあ。


「忙しくなるのは残念ですけど、被害にあった者達を救う為にも、気を引き締めてくださいね」

「わかっているとも」

「それにしても、その盗賊達はどうしていきなり改心したりしたのかしら?」


 うん、そうですよねー。不思議だなー。


『神子の浄化が行き届いた土地では、余所から来た悪人も瞬時に改心するでしょう』


 それ神罰と同等って事じゃん! やべー。思いっきりやっちゃったからなあ……


「自首してきた盗賊達は、皆神に懺悔しているそうだよ」

「まあ。神子様のおかげで邪神が再封印されたから、神への信仰に目覚める者達も多いのでしょうね」


 おおっと、夫人、そこは触れてはいけないところ。気のせいかな。領主様がにやりとしてこちらを見たんだけど。


 一瞬だったから、多分他の人達には気づかれていない……はず。


「これも恵み深き神のお導き。そのもの達は罪を悔い改め、天上への道を知る事でしょう。それに、被害者達の救済には、我等が教会も力になれると思います」


 ユゼおばあちゃん……さすがだな。引退したとはいえ、長らく聖地で聖職者達をまとめていただけはある。


 でも、なんとなくにやりと笑っているように思うんだけど、目の錯覚?


「そうですね、ユゼ様。きっと! 今の聖堂の連中も喜んで奉仕する事でしょう」


 ……ジデジル、あんた聖堂で何やってきたの?


『神子は人の事を言えないのを、自覚しておきましょう』


 あ、はい。そうですね。やらかしたばっかですよ……とほほ。




 午後からも夫人とミシアの着せ替え人形となり、ローデンから持ち出したアクセサリーを出して二人に見せたりしてたら、あっという間に夜ですよ。


 アクセサリーの方は、元を知ってる私でもわからないくらいデザインが変わってた。検索先生、ありがとうございます。


「まあ、これはいいものね」

「本当。素敵だわ」


 良いものを見慣れてる二人からも、お墨付きをもらいました。


「ねえ、ユゼおばあちゃんとジデジルは、ドレス着なくていいの?」

「そりゃお二人は俗世の人間ではなく聖職者だもの。ちゃんと聖職者用の礼装をお持ちのはずよ」


 え? そんなの持っていたの? ユゼおばあちゃん達の方を見たら、二人にこっくりと頷かれちゃった。


 って事は、知らなかったのは私だけって事か。


 ドレス選びが終わって、夫人とミシアが二人仲良くおしゃべりしている間に、こそっとジデジルに近寄る。


「礼装なんて、あったの?」


 小声で聞くと、さっきの衣装の話だとすぐにわかったみたい。


「もちろん、ありますよ。神子様の分もです」


 げ。


「というか、何故サーリ様がその事を知らないのか、そちらの方が気になるのですが」

「え?」

「聖地にいらした際に、その辺りもお話しした覚えがございますよ?」


 ……そうだっけ? 憶えてないなあ。


「あの頃は、まだ落ち着いていなかったから、私共の話もよく聞き取れていなかったのでしょう」


 う……ごめんなさい、ユゼおばあちゃん。ジデジルも。


 聖地で二人に会った頃って、まだ召喚されて間もない頃なんだよね。ローデンは嫌がったんだけど、聖地から使者が来て攫うように連れて行かれたんだった。


 まだよく事態を飲み込めていない頃で、毎晩泣き明かしたっけなあ。あの頃は、まだ日本に帰りたいって思ってたっけ。


「ところで」


 ちょっと昔の事を思い出して感傷に浸っていたら、ユゼおばあちゃんの声の調子が変わった。


「先程の盗賊の件、身に覚えがありますよね?」


 ええ、覚えがありまくりですとも。やっぱユゼおばあちゃんとジデジルは誤魔化せないかあ。


 しょんぼりしていたら、ユゼおばあちゃんがくすりと笑う。


「別に責めているのではありませんよ。悪い事ではないのだから」

「ユゼおばあちゃん……」

「実は一つ、頼まれてほしい事があるのですよ」

「え? 何?」

「王都でも、同じ事をしてもらえないかしら?」


 それは、王都でも全開の浄化をしろという事ですかね? ネレソールと同じ事が起きる予感。


 あれ? でも盗賊達の強制改心なら、いい事じゃね?


「わかった。えーと、ちなみになんだけど、威力はここと同じくらいでいいのかな?」

「いいと思いますよ。ダメなら、きっと神がお許しになりません」


 ですよねー。本当にいる神様が、これ以上はダメってラインを引いてくれるよね、きっと。


 ……大丈夫だよね?

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