第330話 回り込まれた
夏祭りは余韻を残しつつ無事終了。もうちょっとすると、王都の夏祭り。それまでここ、ネレソールで領主様のお屋敷に厄介になる予定。
なんだけど。
「そ、そのドレスの山は、何でしょう?」
ただいまお屋敷の奥の一室で、領主夫人とミシアに迫られてます。彼女達の背後には、ドレスの山がこんもりと。
あんな量、どうやって揃えたんだろう?
「ミシア様の衣装ばかり選んでしまって、肝心のサーリの分がまだだったから。改めて選びましょうね」
「大丈夫よ安心して? 私も一緒に選んであげる」
少しも安心出来ないよ! おかしいでしょ! ちゃんとミシアという生け贄……じゃなくて、夫人のお相手を差し出したのに!
なんでこっちにまで来るの!
「あらあら、若い人達は華やかでいいわねえ」
「そうですねえ、ユゼ様」
ちょっと! ユゼおばあちゃんはまだしも、ジデジルは十分若いでしょ! あんたも一緒にこの地獄を味わいなさい!
なのに、ユゼおばあちゃんを盾にして、ジデジルは逃げ切った。くそう。結局私だけ逃げられずに、二人の着せ替え人形になる羽目に。
「若々しい色にしたいのだけれど、髪の色を考えると少し重めの色がいいかしら」
「いっそ、髪を染めてしまったら?」
ギク。ミシア、君本当に読心術を封印してるんだよね?
「そうねえ。いっそ南にいらっしゃるっていう神子様のように、黒に染めてはどうかしら?」
ギクギク。夫人、よもや知ってるとか、ないよね? お会いしたのも、前回が初めてだったし、バレるような事はやってないはずなんだけど。
「えーと、いい色がなければ、私の分はなしという事で――」
「「それはダメ」」
相性ばっちりですね! 夫人とミシアって! あれだ、「俺に構わず先に行け!」って言った仲間が、敵の一味となって襲いかかってきた感じ。
しかも、大抵そういうのは手強いのだ。ミシアも手強いよお。
結局、午前中一杯をかけてやっと三着選び出した。やっと終わったー。
「じゃあ、午後からは残りを選びましょうか」
「へ?」
夫人、今あなた、何と仰いましたか?
「嫌だわ。王都の夏祭りに参加するのに、ドレスが三着だけなんて有り得ませんよ」
マジでー!?
「私だって最低十二着選んでるのよ?」
いや、ミシアは王族のお姫様だもの、衣装替えはたくさんあるでしょうよ。でも、私は一介の冒険者なんだからね! 立場の違いを考えていただきたい。
「何言ってるの。私と一緒に王宮に行くんだから、同じくらい衣装は必要よ」
「へ? 何で?」
「何でって……カイド兄様から、招待状をもらったでしょう? あれ、正式なもので、夏祭りの間に開催される全ての王宮の催し物への招待状なんだから。滞在先も、多分王宮よ」
マジでええええ!?
「まあ、滞在先は多分お婆さまの奥宮になると思うけど、今頃お婆さま達も、楽しみに待ち構えていると思うわ」
楽しみと待ち構えるって言葉、一緒に使うべきじゃないと思うんだけど。
何だろう、奥宮でジジ様達が腕を組んで高笑いしている図が浮かぶ。いや、そんなキャラじゃないと思うんだけど……
「ともかく! サーリもちゃんとドレスを選ばなきゃダメよ! アクセサリーはどうしようかしら……」
ミシアが熱い。アクセサリーというと、宝石類だよねえ……あ。
そういえば、まだ亜空間収納内に、ローデンから持ち出したアクセサリーがあるわ。でも、あれをそのまま使うのはなあ。
『デザインに、少し手を入れておきましょうか?』
え? そんな事出来るんですか? 検索先生。
『出来ます。使っている石のカットを変えたり、配置や地金の組み方や彫りを変えれば、大分イメージを変えられるでしょう』
よろしくお願いします!
「えーと、アクセサリーはどうにかなりそう」
「え? そうなの?」
「まあ、どちらで入手したのかしら?」
夫人まで興味深そうに聞いてくる。ええと、どうしたものか。
『向こうの大陸で、人助けをした折りにいただいたものだと言っておけば誤魔化せるでしょう』
あ、そっか。困った時の向こうの大陸だ。
「その、向こうの大陸に行っていた時に、盗賊に攫われていた人達を助けたんです。その中に、有力者のお嬢さんがいて、その時に」
「お礼としてもらったって事?」
「そう」
「ふうん……何かちょっと怪しい気がするけど、まあいいわ」
ミシアよ、どうして私に関する事を、何でもかんでも怪しいと言うのかね? いやまあ、実際半分嘘ですけど。
でもさあ、ローデンで王子妃やってた時のものでーすなんて、言えないでしょうよ。
いやあ、取っておいて良かった。あのティアラも、投げつけずに持って出れば良かったかなあ。
使ってる宝石、結構気に入っていたんだよね。
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