第326話 まんまじゃん

 王都の夏祭りの前に、コーキアン辺境領領都の夏祭りにも招かれましたー。もちろん、招いてくれたのは領主様。


「今年は旧ウーズベル領を加えた初の夏祭りだからね。少々気合いが入っているよ」


 満面の笑みを浮かべる領主様は、領都の外壁門まで馬車で出迎えてくれたよ。これもやはり、ミシア、ユゼおばあちゃん効果かな。


 領都までは大型の空飛ぶ絨毯を使ったから、壁の中は徒歩で色々見て回ろうと話してたんだけどね。


 お迎えの馬車は大きくて、砦のメンバー全員乗れちゃった。


「さて、どこか見て回りたいところはありませんかな?」

「どこが見所かしら?」

「今なら、街の中央広場に芝居小屋が三つ、見世物小屋が二つ出来てますよ。祭りの間中、何かしらの催し物を広場でしています」

「サーリ、今度こそ、神子様の芝居を見たいわ」

「え……何でそれを私に言うのよ」

「だって、ユゼ様もジデジル様もお忙しいでしょ?」


 私は暇人だからオーケーって? 私、君の姉弟子なんですが? 芝居見物のお供をしてもいいけど、神子関連だけは勘弁して。


 あ、でも恋愛者も勘弁かなあ。


「領主様、芝居小屋の演目って、わかります?」

「さて、何だったかな? 調べるかい?」

「いえ、なら広場にいって看板見てきます」


 わざわざ調べてもらう必要はないからね。


「お三方は、芝居見物はいかがですか?」

「ありがたいのだけれど、先に行きたいところがあるのよ」


 領主様からの問いに、ユゼおばあちゃんがおっとりと笑う。でも私は見逃さない。おばあちゃんの目がきらーんと光った事を!


 これはあれだな。王都の教会の前哨戦として、領都の教会を抜き打ち視察するつもりだな。


「あなたも一緒にいかが?」

「遠慮しておきますう」


 殺伐とした視察なんて、同行したくないよユゼおばあちゃん。ジデジルと二人で、粛清の大なたを振るってください。


 でも、一度ジデジルが思いっきり振るってるはずなんだけどねー。


『この辺りは土地柄か、悪い気が溜まりやすいようです。領都の教会は、またしても悪巧みをする連中が巣くっていますよ』


 じゃあ、やっぱり二人の大なたは必要だね。でも、悪い気かあ……


 いっちょ、領都全体を浄化しておこうか。


『いい事だと思います。神もお喜びでしょう』


 そうなんだ。じゃあ後でこっそりやっておこう。神様には、神罰申請を受理してもらった恩があるからね。


『ここでも、神罰申請を行いますか?』


 いや、それはいいや。きっとユゼおばあちゃんとジデジルが、人間にしか落とせない雷を落としてくれるでしょ。




 中央広場でミシアと二人下ろしてもらった。じいちゃんとユゼおばあちゃん、ジデジルは領都の教会巡りだそうだよ。


 じいちゃんも行くんだね。何だかげっそりした顔をしていたけど。ユゼおばあちゃんに、首根っこひっ捕まえられていたから、逃げられなかったのかな。


「さあ! じゃあ、お芝居を観ましょうか!」


 ミシアがやる気満々です。頼むから、神子関連の芝居はやめてね。


 芝居小屋には、それぞれ大きな看板がかかっている。タイトルはそれを見ればいいんだけど、あらすじだけでも知りたいよね。


 ただ、こういう芝居小屋は必ず呼び込みの人がいて、その人があらすじを教えてくれるんだ。


 うまい人になると、身振り手振りで物語を盛り上げて、さあクライマックスってところで「続きは芝居小屋でね」ってするから凄い。


 さてさて、今回の芝居はどんな内容かなー?


「さあさあ、南ラウェニアで大人気の、悪女トゥーレシアのささやきだ! 故国の大貴族に弱みを握られた美しき娘トゥーレシア。隣国の子爵に嫁ぐも、彼女には大変な使命が課せられていた。新婚の彼女は、その美貌を使って嫁ぎ先の王太子を誑かさなくてはならない! もし失敗しようものなら、故国に残してきた両親と幼い弟の命が危ういのだ! 哀れな美女は、使命を果たして潰えるのか! それとも! さあ、結末は芝居で見て確認してちょうだいな!」


 ……気のせいかな。どこかで聞いた事があるようなないような。王太子じゃなくて第三王子で、嫁ぎ先が子爵じゃなくて伯爵だったけど。


 それに、トゥレアはそんな薄幸の美女って雰囲気じゃなかったんだけど。どっちかって言ったら、自ら王族を誑かす感じ?


 まあ、恨みがこもってるから偏見たっぷりですけど!


 他にも、小国の姫が大国に嫁ぎ、そこの宮廷陰謀に巻き込まれる話とか、女魔法士が国の中枢で大暴れとか。


 待て待て待て。何かどれもこれも思い当たる節がある話しばかりですけど!? 南ラウェニアで本当に大人気なのか? この芝居。


「ねえねえサーリ、どれにする? 私としては、あの悪女トゥーレシアのささやきが見たいんだけど」

「えー……ミシアに任せるよ」

「本当に!? じゃああそこね!」


 そうして、「悪女トゥーレシアのささやき」を観劇する事に決まりましたとさ。


 内容はね……うん、誰がこの脚本書いたんだ? ちょっと出てこいという感じ。


 まんまトゥレアじゃないか! 大分美化されてるけどさ! しかも第三王子のはずのヘデックは王太子になってるし!


 トゥレアポジのヒロイントゥーレシアは、最後は嫁ぎ先の子爵の領地に故国の家族を呼び寄せ、夫と家族とともに静かに暮らすエンドだったけど。


 あ、ここも違うわ。嫁ぎ先は子爵じゃなくて伯爵家。マヨロス伯爵、元気かなあ……


 でもまあ、故国の大貴族が嫁ぎ先の国との間に戦争を起こそうとしてヒロインを使ったとかいうのは、そのまんまな感じだけど。


 あと王太子がボンクラだったり、嫁ぎ先の王宮も問題だらけだったりするところとかね。王太子の妃が元聖職者とかな。


 これ、見る人が見ればローデンの事だってすぐわかると思うんだけど。この芝居が南でうけるって、どんだけ?

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