第324話 ボートレース

 夏祭りは、依頼の話を聞いた三日後から始まるんだって。


「湖での小舟競争は、祭りの最終日に行われる」

「最終日? お祭りって、何日やるんですか?」

「七日間だよ」


 一週間? 随分長くやるんだね。てっきり、一日だけかと思ってた。


 そのお祭りの期間、毎日何かしらの催し物をやってるんだってさ。この時期だけ見世物小屋や芝居小屋なんかもあって、デンセットは普段以上に賑わうらしい。


 ちょっと楽しみ。




 祭り初日は、砦のみんなでデンセットへ。一応、ミシアとユゼおばあちゃんには、護くんを一体ずつつけておいた。


 色々と狙われる可能性が高いのは、この二人だからね。


「ジデジルにはつけんのか?」

「だって、ジデジルなら自力でどうにでも出来るでしょ?」


 そう、彼女は割と攻撃力高めなのだ。普段は使う場面がないから、あんまり知られていないけどね。


 そういう意味では、ユゼおばあちゃんも強いって聞いた事あるけど、なにせ高齢だから。


 ミシアはまだまだ修行中だからね。それに、王族のお姫様に護衛なしはヤバいでしょ。


 そして二人は、護くんがいるからと、嬉々として祭りの特別屋台へと突撃していく。ま、いっか。ジデジルもニコニコしてユゼおばあちゃんを見送ってるし。


 デンセットはいつもの二倍三倍の人であふれかえっている。凄いねー。


「近隣の村や街だけでなく、離れたところからも人が来ているみたいですね」


 デンセットはコーキアン領でも大きな街だから、ここでの夏祭りは有名らしい。


 でも、コーキアンには領都が別にあるんだから、そっちの方が有名なんじゃないの?


「領都は領都で、日をずらして夏祭りを盛大に行うそうですよ」


 なるほどー。デンセットの夏祭りが終わってすぐ、領都ネレソールでの夏祭りが行われるんだってさ。


 だから、デンセットの人もネレソールの夏祭り見物に行くらしい。


「この時期はどこかしらで夏祭りを開催していますから、ダガード国内全体で賑わっている感じですね」


 ジデジルの言葉通り、夏祭り中の街は他にもあるそうな。あ、叔父さん大公のところでも、再来週に夏祭りが行われるんだって。ミシア情報でした。


 いつもは市場や屋台などが並ぶ広場も、祭りの間はがらりと変わる。芝居小屋って、ここに建つんだ。


 看板が出ていて、今かかっている芝居のタイトルが書かれてる。


「ほう、『邪神の最期』じゃと」

「え……」


 嫌な予感しかしないタイトル。

「さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。遙か彼方からいらした神子様が、北に巣くう邪神を封印するお話しだよ」


 やっぱりー。何かこんなの、向こうの大陸でも見た事あるー。


「神子様のお話は、人気がありますからね」


 ジデジル、何であんたがそんなに嬉しそうなのよ。しかも、芝居小屋に入ろうとしてるし!


 止めないけど、私を引きずり込もうとするのはやめましょう。




 楽しいので、連日砦からデンセットへ通っている。毎日のように催し物があるのは、楽しいけど大変だね。裏方の人が。


 そりゃフォックさんが疲れる訳だ。


「今日は何を見に行こうかなー」


 昨日は芝居小屋で芝居見物。一週間の中で、演目を三回も変えるなんて、劇団の人達も大変だね。


 でも、おかげで神子関連ではない芝居は楽しませてもらいました。恋愛劇と、喜劇。個人的には喜劇が面白かったなー。


 街で威張っている商人を、孤児の子供達があの手この手で懲らしめる話。最後は町長が出て来て、商人を諭し、改心させるって内容。


 恋愛劇の方は、身分違いの恋人同士が周囲の反対を何とか乗り切り、結婚するってもの。


 ああいうのは、現実知っちゃってるからなー。あの後が大変だよなー、とか思っちゃうと、素直に楽しめない。


 そしてやってきました最終日。湖の周囲には凄い人だかり。観客席も作られていて、賑やかだ。


「おー。凄い人」


 ボートレースは祭りの花形って、本当なんだね。スタート地点には、既にボートが四艘スタンバイしている。


 これから行われるのは予選。この予選を二回勝ち抜いたチームが本戦に出られる。


 本当は溺れた人を助ける係なんだけど、ついでなので湖にコースを作るのもお手伝いした。


 湖に杭を打ち、ロープを張って蛇行したコースを作り上げる。ロープを越えたら失格。


 今までは、湖をぐるっと三週するだけだったらしいよ。フォックさんにコースを作ったらどうかって提案したら、凄い喜ばれた。


 観客も、例年にないコース設置に沸いているらしい。ただ、ぶっつけ本番になる選手には、不評みたい。ごめんね。


 でも、これも全て祭りを盛り上げる為。ボートから落ちても、上空に待機している護くん達が助けてくれるから。




 ボートレースは、大盛況だった。初めてのコースに選手は戸惑ったものの、そこはさすが選手。すぐにコースの特徴を掴んだようで、どのボートもうまい具合に進めていた。


 このレース、賭けも行われていたようで。あちこちで歓声が沸いたり悲鳴が上がったりしてる。


 レースの優勝者には、賞金も出るんだって。その表彰をしたのは、領主様? いつの間に来ていたんだろう。


 あ、護くんが助けた選手は、合計六人になりました。本当に落ちるんだね……


 もしかして、コースを作ったせいなのかな。本当、ごめん。

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