第323話 お祭りがあるらしいよ
どこかで神罰執行されている間に、私はデンセットに呼び出されました。
「ローメニカさんが呼びに来るなんて……」
「私、いつの間にかあなたの専属になりそうよ」
「へ?」
専属って、何それ。まあ、いつも組合に行くとローメニカさんに見つかって、そのままフォックさんの部屋に連れて行かれるけど。
「まあ、今回は領主様からの依頼らしいわ」
「領主様からの?」
変なの。依頼なら、組合通さず直接言えばいいのに。今までも、そういう事あったよねー。
デンセットに来て、大通りを歩く。気のせいかな。いつもより、街が賑わってる感じ。
「何だか、いつもとは違う感じがする」
「ああ、もうじき夏祭りだから、みんな浮き足立ってるのよ」
「夏祭り?」
「ええ、ダガードでは、どこでも一番盛り上がるお祭りよ」
なんでも、北の国では夏はそりゃもう待ち遠しい季節なんだそうな。春もいいけど、短いからね……
夏も南に比べると短いけど、だからこそみんなで楽しもう! って事になるらしい。
神様に感謝のお供え物をしたり、各街で特色のある催し物をしたり、特産品で作った料理が振る舞われたり。
デンセットでも、盛大な祭りが行われるそうだよ。
組合に到着したら、やっぱりそのままフォックさんのところに連れて行かれた。
「お邪魔しまーす」
「おう。ここんとこ、ご無沙汰だったな」
「フォックさんは……また凄く疲れてますね」
うん、前に蛇酒あげた時と同じくらいに、疲れて見える。本人も自覚あるのが、乾いた笑いを漏らしてるよ。
「あー、サーリから見ても、そう思うのか……ったく、この街は何でも組合に押しつけすぎだっての」
「そういえば、この街には町長みたいな人って、いないんですか?」
「一応、いるにはいるんだが……」
何か、言いよどんでるよ? もしかして、とんでもなく仕事出来ない人とか? でも、あの領主様がそんな町長、置くかな……
「サーリ、この街は領主様が直接治めていらっしゃるのよ。それで、領主様の代理人を務めているのが、フォックさんなの」
あー、なるほどー。領主様にとって、フォックさんは信頼のおける人だから、代理人にしてる訳か。
でも、組合の仕事も忙しいし、それに加えて街の事もとなると、オーバーワーク気味だね。
「もう少し、フォックさんの補佐を出来るような人を置いた方がいいと思うけど」
「本当に! そう思うわよね!?」
「え? ええ」
ローメニカさんの迫力ある笑顔が怖い。
「私達もみんなそう言ってるのに! この人ったら仕事を抱え込んで下に割り振らないのよ! いつか仕事しすぎで倒れるんだから!」
ああ、フォックさんって有能だけど、部下を使いこなせないタイプの人か……
日本にいた時、テレビか何かで見た事ある。本人は優秀なんだけど、その分仕事を抱え込んじゃって、部下に割り振らないで自滅するってやつ。
フォックさん……
「な、何だよ。サーリまでそんな目で見るのか?」
「フォックさん、他の人が出来る仕事は、他の人に任せましょうよ」
私なんて、検索先生に押しつけてばっかりだよ。やってるのは、自分がやりたい事だけだからねー。
部屋の空気が妙になったところで、それを変えるようにローメニカさんがぱんと手を打つ。
「さあ、そんな話は置いておいて、依頼の話をしましょ」
「お前……そんなって」
「はーい」
「えええ」
フォックさん、ちょっと情けないですよ。お仕事の話に戻りましょうね。
「で、領主様からの依頼って、何ですか?」
「ああ、今度の祭りの事なんだが」
祭りっていうと、ローメニカさんが言っていた夏祭りだね。警備でもするのかな? お祭りって、暴れる人が出るイメージ。
でも、ちょっと違った。
「祭りの一番の目玉は、湖でやる競技なんだよ。湖に障害物を浮かべて、四人一組で漕ぐ小舟でそれらを回避しつつ、一番早く到着した連中が優勝っていう」
湖を使ったボートレースって事か。
「で、毎年のように小舟をひっくり返して溺れるやつが出るんだ。サーリには、その溺れた連中を拾い上げる仕事を頼みたい」
はへー。何でも、以前には溺れて亡くなる人もいたらしいよ。祭りで死亡って……
ここ数年は、監視員の数を増やして対応していたらしいんだけど、今年はレース参加者が例年の三倍近くにまで増えたんだって。
で、監視員のなり手が間に合わず、私に依頼が来たって事らしいよ。
でも、湖の監視員かー。
「それ、私が直接やらなくてもいいですか?」
「どういう事だ?」
「うちの砦の護くんに、任せようかと思って」
フォックさんがローメニカさんと顔を見合わせている。いや、護くんならちょっといじるだけで十分お仕事出来ると思うんだよね。
まあ、湖上をボールタイプの護くんがふよふよ浮く事になるけど。
「……それで本当に、溺れたやつらを助けられると?」
「保証します」
何せ、網で人間をすくい上げるのは、得意だからね。主に地上で、不法侵入者に対してだけど。
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